アメリカの狭量さの証し――米コロンビア大学でのイラン大統領の「歓待」の仕方


 イランが反イスラエルの立場を取っていることは明白であり、そのイランが核利用を進めつつあることは、将来イランが核兵器を開発してイスラエルに対して使用することにつながるのではないか――イランの核利用(或いは核開発)に対する欧米の批判はこういうところに存しているのだろうか。


 だとすれば、その見方はあまりにも一方的にすぎると言わなければならない。言うまでもなく、もう一方のイスラエルは既に実際に核兵器保有しているからである。


 イランをめぐるこの問題に対して日本は全く傍観者を気取っているかのように見えるが、イランが今やっていることが核開発なのなら、日本は既に猛烈な核開発をやっていることになると言わなければならない。原子力を平和利用のみに限定することが可能であるという立場を日本が取り続けたいのなら、イランのこの問題に日本がむしろ積極的に関与して、疑念を与えない形での核利用をイランに勧め、かつそのために協力する(そしてもちろん、そのような活動を通じて、中東でのアメリカによる無謀な戦争の拡大を防ぐ)ことはあってよいのではないか。



 それはともかくとして、このほどアフマディネジャドイラン大統領が国連の会合に出席するためにアメリカを訪れ、コロンビア大学に招かれて講演を行ない、かつ質疑応答に応じたことが報じられている(例えばNew York Timesこの記事(閲覧には無料の登録が必要))。午前中に講演を行ない、午後に質疑応答となったようだが(正確なスケジュールは不明)、その中で午後の質疑応答の冒頭でコロンビア大学の学長のLee C. Bollinger氏が次のように言ったらしい。

He [Bollinger] said, “Mr. President, you exhibit all the signs of a petty and cruel dictator,” adding, “You are either brazenly provocative or astonishingly uneducated.”

 講演者を招いた当の大学の長が講演者に対してこういう発言を言うとは、全く失礼にもほどがあると言わざるをえない。ここに、アメリカ人の精神の狭量さを認めないわけにはいかない。


 学長氏としては、周囲の反対を押し切って講演会を実施した側として、こうでも言わないとバランスが取れないとでも思ったのかもしれないが、それにしても失礼極まりない。のみならず、アフマディネジャドが独裁者だという言い方は、イランの状況に対する無知を露呈してもいる。本ブログのこの記事で紹介したスコット・リッター氏の言葉から明らかなように、イランの最高指導者はアフマディネジャドではなく、したがって、最高指導者でないアフマディネジャドが独裁者たりうるはずはないからである。


 ホロコーストに関しては、私は別に修正主義者を支持しないが、しかしホロコーストの犠牲者の数が600万人だったかそれより少なかったかを検証することは純然たる研究の領域に属する話であり、タブーなしにその問題に関する研究が認められるべきだと考える。それを許さない欧米の現状は異常だと言わざるをえない。ともあれ、犠牲者の数がどうであれ(といっても、桁が変わることはないのだろうと思うが)、ホロコーストにおける一番の問題は、ドイツ人が(もし付け加えたければ、ナチの指導のもと)ユダヤ人を扱ったその扱い方(ユダヤ人が単にユダヤ人であるという理由で殺されたこと)にこそあるのだろうと私自身は理解している。という立場からすれば、上記記事で「the Nazi slaughter of six million Jews should not be treated as fact, but theory, and therefore open to debate and more research」と要約されているアフマディネジャドの発言は、(アフマディネジャドの過激な言い方といった点を度外視して考えるなら)許容範囲内ではないかと思われる。


 また、イランがテロリストを支援している疑いがあるという指摘を学長氏はしているが、疑念にすぎないそのようなこと(しかも、「テロリスト」という規定が正しいかどうかは問題なしとしない)と比較するなら、アメリカはこれまでの歴史で明らかに様々な国でその国の反政府勢力を支援してきた実績を数多く有している。多くのアメリカ人にとって今なお重要なものであるはずの聖書的伝統に従うなら、次の言葉こそアメリカ人がまず噛み締めるべき言葉だろう。

あなたは、兄弟の目にあるおが屑は見えるのに、なぜ自分の目の中の丸太に気づかないのか。兄弟に向かって、『あなたの目からおが屑を取らせてください』と、どうして言えようか。自分の目に丸太があるではないか。偽善者よ、まず自分の目から丸太を取り除け。そうすれば、はっきり見えるようになって、兄弟の目からおが屑を取り除くことができる。(マタイによる福音書7章3−5節)

 要するに、他人のことなど言えた義理ではないはずなのである、アメリカは。


 それにつけても、議員の世襲は政治から駆逐されなければならない。


追記
 本ブログでは既にこの記事で紹介したが、傭兵貸出企業であるBlackwaterのことがTBSラジオのこの番組(クリックするとmp3のファイルがスタートする)でも紹介されていた。英語を読むのが面倒な人には、日本語で聞けるこの番組はとりあえず便利かもしれない。言うまでもなくこのBlackwaterも、アメリカ産の「世界の鼻つまみ者」である。


追記2(10月3日)
 毎日新聞この記事を見ると、アフマディネジャドコロンビア大学の学長の両方が讃えられている。この記事の記者は本当に学長の発言内容を理解しているのだろうか。理解して言っているのなら、相当歪んだ色眼鏡の持ち主であると考えざるをえない。