日朝協議に見るまやかし


 例によって、まず記事の引用から始めることにする。

「過去の清算」対応表明 日朝協議
2007年09月06日03時05分


 ウランバートルで5日始まった6者協議の日朝国交正常化作業部会で、日本側は北朝鮮が強く求める「過去の清算」について誠実に対応する意思を表明した。米朝関係の改善が影響し、初日の日朝部会は険悪な空気に包まれることなく終わった。日本政府は最終日の6日、北朝鮮から拉致被害者の調査再開など具体的な行動を引き出したい考えだ。


 双方は初日に国交正常化、2日目に拉致問題を扱うことで合意し、初日は約3時間半協議した。北朝鮮側の「拉致ばかり取り上げて6者協議の枠組みを壊そうとしている」との主張に日本が配慮し、3月のハノイでの日朝部会とは議題の順番を入れ替えた。


 美根慶樹・国交正常化交渉担当大使は協議後、記者団に「明日が拉致に関する話し合いなので、それを待つ必要がある。現在は明確に説明できる段階ではない」と述べるにとどめた。関係筋によれば、北朝鮮側は日本の姿勢を評価。在日本朝鮮人総連合会朝鮮総連)に対する一連の捜査の問題に言及したが、「これ以上問題を悪化させない姿勢」(北朝鮮筋)を示した。日本側は過去の清算問題で「経済協力による一括解決方式」を提案。北朝鮮側は個別の補償も必要との姿勢を崩さなかったが、「日本の立場に対する認識を深めた」とも語ったという。


 日本側は拉致問題での行動を促すため、北朝鮮への水害支援を経済制裁の例外として実施することを検討している。日本の支援や、北朝鮮による拉致被害者の調査再開が表明されるかどうかが6日の協議の焦点になる。


 北朝鮮が再調査に応じた場合、日本にとって一定の成果となりうる。だが、核問題での成果を急ぐ米国が再調査を「拉致問題の進展」と見なし、テロ支援国家指定の解除を急ぐ可能性もある。

 日朝協議のあり方については、本ブログでは既に過去の記事で自らの立場を述べてある。それは、一言で言うなら、平壌宣言は破棄されるべきであり、その上で、拉致問題解決のために国交正常化交渉を行なうという行き方がありうるのではないか、というものである。


 しかしここで注目したいのはむしろ、政府の今回の対応に見られるまやかしである。周知のように、安倍政権は拉致問題の解決なくして国交正常化なしというお題目を繰り返しており、今回の内閣改造でも拉致問題担当の首相補佐官のポストは温存した。交渉の順序はまず拉致問題、次いで国交正常化、というのが安倍政権の金科玉条なのである。そしてこの立場が、日朝協議の、そしてそもそも拉致問題の解決の、進展を妨げてきたことは、これまでの安倍政権の実績を見れば明らかだろう。当たり前である。相手を引きつける交渉材料なしに「拉致問題の解決を!」の一点張りでは、話が前に進むわけはない。


 今回の協議で注目すべきは、「初日に国交正常化、2日目に拉致問題を扱う」とした点であり、これは3月のハノイでの日朝部会とは議題の順番が逆だという。引用した記事に明らかなように、平壌宣言を有効とする立場(日本政府はこういう立場に立っているようである)に立てば、国交正常化が相手(北朝鮮)に対して引きつける交渉材料を有する話であることは明らかである。記事にあるように例えば経済協力という話が、国交正常化の中には含まれている。今回の協議で外務省は、「初日に国交正常化、2日目に拉致問題を扱う」ことで、あたかも国交正常化を、拉致問題とは切り離して議論できるかのごとき環境を醸成しようとしたと見てよいようである。


 しかしこれは、本ブログの立場から見ても、安倍政権の立場から見ても、おかしな交渉態度だと言わなければならない。まず本ブログの立場からするなら、昨年の北朝鮮の核開発は明らかに平壌宣言違反であり、その時点で日本は平壌宣言の破棄を通告するべきだった。言うまでもないが、こういうところで原理原則を大事にしないから、日本の外交はなめられているのである。外務省の馬鹿どもはこのことを全く理解していない。アメリカのご機嫌伺いばかりやっているため、外交の何たるかすらわからなくなっている、と評さざるをえない。


 また、安倍政権の立場から見ても、今回の交渉の進め方はおかしいと言わざるをえない。言うまでもなく、上に記したように安倍政権の金科玉条は「交渉の順序はまず拉致問題、次いで国交正常化」でなければならないからである(もちろん、安倍政権の立場では、拉致問題の解決は永遠に不可能だろうと思われるのだが)。


 表題に「まやかし」と書いたのはこの意味においてである。本ブログにも時々ネット右翼蝿が飛んでくるようだが、そういう馬鹿どもも少しはものを考えろ、右翼の安倍が率いる政権がいったい何をやっているかをよく見ろ、と言いたいところである。


 それにつけても、議員の世襲は政治から駆逐されなければならない。


追記
 日朝協議との関連では天木直人氏が「とっくに決まっている米国の北朝鮮テロ指定解除」という題でブログを書いている。これによると、アメリカは北朝鮮のテロ指定解除はおろか、近い将来に米朝国交正常化にまで踏み込む可能性があるかのごとくであり、そうなったなら外務省は何が何でも日朝国交正常化を推進するだろうとのこと。氏の文章を一部引用しておくと、

中東問題にすべてを優先する[正しくは「中東問題をすべてに優先させる」だろう・・・vox_populi]ブッシュ政権が、みずから大統領でいる間に米朝国交正常化を行うという事が明らかになった時点で、外務省は何があっても日朝国交正常化を実現しようとするのである。

 ありうべき話ではある。


 しかし、氏が「多くの国民はもはや拉致問題に関心はない」と書いているのは正しくないと思われる。拉致問題に対しては、今でもなお、日本国民の多くが怒りを覚えているはずであり、そしてそれ自体は決しておかしな話ではない。


 誤解していただきたくないが、本ブログですら、拉致問題に関心がないわけでは決してないのである。拉致問題はひどい国家犯罪であり、この点に関しては北朝鮮は厳しく糾弾されなければならない、というのが本ブログの立場であり、ただ、真に拉致問題の速やかな解決を図るのなら、そのための手段として国交正常化は一考に価するのではないか、と言っているまでである。今の調子で行けば、拉致問題が解決済みとされた状況で日朝国交正常化となり、日本は北朝鮮に対して巨額の経済協力を約するなどという最悪の結果が招来されるのではあるまいか。これは最悪の外交だと言わなければならない。