イラン情勢の行方


 などと書いても、別に当方に特別な情報源があるわけではない。ただ、今回の大統領選と、それに伴って起こっている騒ぎとを見て思うことを記しておきたいだけである。


 その思うこととは、要するに、今イランは宗教者を最高指導者とする政治体制をとっているが、その体制には今や政治的正統性は存在するのかどうか、という疑問である。イラン情勢を伝えるニュースが届けてくる映像は、全く他の国々と変わりがなく、あれだけを(他の知識なしに)見たなら、イランがそのような宗教国家であるなどとは到底信じがたいだろう。もちろん、現大統領のアフマディネジャド自身は全くの俗物としか見えず、しかも先日のテレビの特集では、露骨に人々を政府の力で買収するなどというやり方で人気取りを図っているようであり(私が見たのは、貧窮する年金生活者に対して突然1年分の年金相当額を政府或いは大統領が与える、という話だった)、これまた極めて俗っぽい話である。


 今から思えば、現体制は、もし自己保存を図るのであれば、宗教者でありながら改革者を演じたハタミ氏が大統領だった時にもっと自己改革を遂げて、今日では極めて異例である宗教国家という体制を(変容させつつ)維持するしかなかったのではあるまいか。以前見たイランの映画では若者たちのアメリカへの憧れが何らの違和感もなしに描かれていたが、たぶんそれは現実を反映したものなのだろう。そういう若者たちが、現状への単なる不満を超えて、自分たちの自由を抑圧するものとしての体制に対して不満を持つようになれば――そしてそのような不満は、ひょっとするとまさに今、出てきつつあるのではなかろうか――、イランの体制が根底から揺さぶられることになっても少しもおかしくない。


 イランについては全く不案内なので、これ以上書くことはできないが、いずれにせよ、これからしばらくは、単にイランの政治でなくむしろイランの体制がどうなるかが、国際政治上の大きな見ものであるように思われる。


追記
 イランのこの騒動をめぐってオバマ米大統領の発言が伝えられているが、これがなかなか面白い。以下引用しておくことにする。

「ムサビ、アフマディネジャドの両氏大差ない」米大統領
2009年6月17日15時12分


 【ワシントン=望月洋嗣】オバマ米大統領は16日、イラン大統領選について「アフマディネジャド大統領とムサビ氏との政策には宣伝されているほどの違いはない。いずれにせよ、我々は歴史的に米国を敵視してきた体制を相手にすることになる」と述べ、静観する姿勢を示した。米CNBCテレビのインタビューに答えた。


 オバマ氏は「イランの保守勢力が改革派を弾圧する最も簡単なやり方は、『米国が改革派をそそのかしている』と言うことだ」と説明。「判断するのはイラン人だ。我々はおせっかいは焼かない」と語った。一方、「10万人もの人々が街頭で抗議しているのは選挙の正当性に納得していないからだ」とも述べ、イラン政府が民主主義を保証するよう呼びかけた。

 朝日新聞のこの記事のリンクはこちら


 ふつうの米大統領ないしは西側(特にイギリスあたり)の政治指導者であれば、イランは民主主義を尊重せよと声高に言って、再集計ないしは再投票を求めるところではないかと思われるが、この発言のオバマは全く傍観を決め込んでいるように見え、大変面白い。周知のようにアメリカは他国に対して極めて干渉がましい国だが、そのアメリカがこのオバマのもとで今後どう進んでいくのか。これもまた国際政治上の見ものだと言えよう。