かんぽの宿をめぐるトークライブを聞いて


 今日は社民党衆議院議員保坂展人議員が主催するトークライブを聞いた。前半部を聞き、後半部(聴衆との間に質疑応答が行なわれたと思われる)は聞かないで帰ってきたが、改めて怒りやら驚きやら、様々な思いをいだかせられた。


 トークライブで話したのは保坂氏、国民新党長谷川憲正参議院議員、そして経済評論家の植草一秀氏である。保坂氏と植草氏はそれぞれ自分のブログを持っておられ、既にいろいろなことを発信しておられるし、また今回のトークライブの話も、既に発信済みか、もしくは今後発信していかれることだろう。そこで当方としてはもちろん、以下に書くことを自らの独自な見解だとてらうつもりは全くない。要するに、トークライブで聞いたことを少しでも知らしめるために書くにすぎない。



 当たり前に思えるかもしれないがしかし明確に意識されていない点、から始めるのが良いだろう。すなわち、現時点においては日本郵政及びそのグループ会社は民営化されていないのである。


 私自身も明確に意識していなかったきらいがあるが、確かにそのとおり、日本郵政及びそのグループ会社は未だ民営化されていない。これら会社は株式会社化されたにすぎず、現時点での株主は100%日本政府であるから、これは国営企業なのである。植草氏はこの点との関連で、竹中平蔵は2007年10月1日に日本郵政及びそのグループ会社が株式会社化したことを以て民営化とし、これ以降は日本郵政及びそのグループ会社は「民間会社なのだから」何をやってもいいと錯覚しているようである(だから鳩山大臣の介入を不当と批判しているのだ)、と指摘していた。確かに植草氏の指摘は100%正しく、そして竹中平蔵は100%間違っている。


 これに関連して、長谷川氏が面白いことを言っていた。今日長谷川氏は参議院の委員会で質問に立ち、その中でも「株主権」ということに言及されたとのことだったが、すなわち、氏がフィンランドの大使をしていた時のこと、フィンランドの通信会社(日本のNTTに相当する会社ではないかと思われる)の経営陣がストックオプションの導入を決めたところ、これに対してフィンランドのメディアがこぞって「国民全体のためにあるべき会社が経営陣だけを利するようなことをするのはおかしい」と批判を行なった。すると、この会社の株式の51%を持っていた政府が臨時株主総会の開会を要求し、そして、開かれた総会に担当大臣(日本の総務相に相当する大臣だ、と長谷川氏は言っていた)自身が出席して、政府が保有する株式の力で役員を総退陣させ、ヒラの取締役だけを残してそれに経営刷新を委ねた、とのこと。同様に、日本政府も日本郵政に対して「株主権」を行使すべきだ、というのが長谷川氏の主張したかったことである。これまた極めてもっとも。さらに付け加えると、長谷川氏によれば、郵便事業を行なう会社は今や世界でもかなりの割合で株式会社化されているが、しかしその株式は基本的に政府が保有する形態となっており、そうでないのはオランダやドイツぐらいだ、とのことである(もちろん、よく知られているように、アメリカでは郵便事業は国営である)。


 また、長谷川氏はニュージーランド郵便事業会社の経営者と話した時のエピソードも紹介しており、「なぜお国では民営化(privatization)を行なったのか」と長谷川氏が質問したのに対して、先方から「我々は民営化(privatization)してはいない。あなたの認識は誤っている。民営化(privatization)とは株式を民間に売却することだ」とたしなめられた、とのこと。確かに、privatizationは民営化ではなく民「有」化である。字面どおりに訳せば、「私物化」する、ということなのだから*。
*光栄にも保坂展人議員のブログでこの段落を引用していただいたが、ややわかりにくいので英単語を書き加えることにした。ここで重要なのは、要するに、privatizationを「民営化」と訳するのは大いに問題がある、ということである。


 今回の売却騒動とオリックスの怪しい関係は、トークライブの話を聞くと、いよいよドス黒くなってくる。そしてもちろん、そこに竹中平蔵自身が、売却の舞台をしつらえたという形で当事者としてかかわっているのである。具体的に言うと、まず現在渦中の人である日本郵政西川善文社長を社長に据えたのは竹中平蔵であるとのこと。西川氏は株式会社三井住友銀行頭取、株式会社三井住友フィナンシャルグループ取締役社長を歴任した御仁である。そして、その西川氏の息のかかった人物として、横山邦男という専務執行役がおり、この横山氏とやらは今でも「住友銀行」(とトークライブでは言っていた)の社宅に住んでいるのだとか。出向扱いであるらしいのだ。さらにその下に伊藤和博という執行役がおり、これは、日本債券信用銀行から株式会社ザイマックス(オリックスが出資する企業)を経て、西川によって引き抜かれて日本郵政に入社した御仁だそうである(私の記憶が間違っていなければ)。この横山、伊藤両氏が「かんぽの宿」売却の責任者だったらしい。


 加えて、今回の「かんぽの宿」売却の問題の1つは、譲渡価格があまりにも低いことであり、これは日本郵政の財産評価委員会の資産査定が低かったことに由来しているらしいが、この評価委員会における唯一の不動産鑑定士だった奥田かつ枝という御仁が、オリックスが出資する企業の役員を務めているらしい。より正確に言うと、オリックスの100%子会社オリックス・キャピタルが出資する「アースアプレイザル社」の社外取締役を務めているらしい。これらのことは、この問題の詳細を追っている人々には既に周知なのだろうが、私はそこまで深入りしていなかったので、今回知って、改めて呆れるほかない。


 そして何よりも問題なのは、かんぽの宿など(他にもメルパルクなど)を株式会社化後5年以内に売却ないし廃止することという重大な条項を、日本郵政株式会社法の本則ではなく付則に書き込むという実に姑息なことをやったのが、他でもない竹中平蔵(当時総務相、だと思う)だった、ということである。しかもこの付則追加が採決の2日前だとのことだが、しかしなぜ、採決の直前にこういう重大な変更がまかり通ってしまったのか。このあたりは要調査事項として、ここではこれ以上書かないことにする。ともあれ、こういうわけで、竹中平蔵は自らかんぽの宿売却の舞台をしつらえたのである。どこまでもろくでもない輩だとしか言いようがない。


 郵政民営化の狙いについては特に植草氏あたりがよく書いていることでもあり、私があえて書く必要はないかもしれない。一応メモ的に3つのことを記しておくと、第1は、まず今回のかんぽの宿売却に見られるような資産売却であり、これによってインサイダーが儲けることが狙いだとのこと。第2は、340兆円と言われる郵貯簡保の資金を、郵政グループの会社を株式会社化し、その株式を市中に売却することによって、誰でも(特に米国資本が)買える状態にし、そしてついには持っていかせるのが狙いだとのこと。そして第3は、(保坂議員のブログでも指摘され始めているが)日本郵政は不動産事業に本格的に乗り出そうとしており、そのために会社分割の際にも不動産事業がやりやすいような形で分割が行なわれているとのこと(不動産の帰属の面などで、ということだろう)。その結果は、日本最大級の不動産会社の誕生、というわけで、しかもこれがまた株式が市中に売却されれば、それを民間企業ないし私人が牛耳ることになる、という話になる。


 今回の問題で名を上げたかのごとくに巷間では思われているかもしれない鳩山邦夫総務相が、審議の中で次のように言ったらしい。すなわち、自分は郵政民営化は良いことだと思って賛成したが、どうもその時に言われていた反対論(米国資本が郵貯簡保の資金を乗っ取る、等々)は当たっていたのかもしれない、と。正確な引用ではないので、これを盾に鳩山氏を批判するのは酷だが、しかしながら、その程度の認識で自民党の議員が郵政民営化に賛成したのだとすれば、これこそが大問題ではなかろうか。いったい何をどう理解して、郵政民営化に賛成した議員は賛成票を投じたのか。頭から「民営化は善だ」としか考えていないのではないか。



 メディアは検察からのリークを基に小沢代表事務所の問題を声高にとりあげているが、郵政民営化の話と比べれば小沢氏の問題など些事中の些事である。しかも、今日になってみると、今では既に存在しない同じ「ダミー団体」から献金をもらった自民党議員が次々と「献金を返還する」とのたまっているではないか。もし返還したらセーフであるのなら、同じ理屈は小沢氏にも当てはまらなければならない。こっちはよくて小沢はダメというのなら、小沢氏にはそれ以上のもの、具体的に言えば収賄容疑があるということでなければならないが、これまで出てきた情報を見る限り、収賄容疑で起訴に持ち込むのはまず不可能だろうと思われる。となれば、検察は国策捜査を行なっているとの批判を免れまい。


 ともあれ、竹中平蔵が日本の政治に残していったこのドス黒い闇を速やかに何とかしてもらいたいものである。当事者をブタ箱にぶちこむとかして。当事者が誰かって? それは言うまでもあるまい。検察に求められているのはそういう活躍である。