郵政新社長人事をめぐる、低劣な批判報道


 メディアでは、元官僚の日本郵政社長就任が、脱官僚依存を掲げる新政権への疑念とともに語られているが(例えば朝日新聞のこの記事。末尾に引用しておく)、報道の低レベルぶりには全く呆れるほかない。


 新政権が脱官僚依存を言うのは、大小様々な政策の大胆な転換は政治主導でなければできないからであり、問題は、新政権がどういう政策転換を目指すかだ。前政権は、もっぱら輸出大企業を優遇し、世帯所得が増えない実感なき「景気回復」を目指してきた。竹中平蔵氏や「過労死は自己責任」と放言した人材会社社長等を宣伝役とした新自由主義的政策の結果であり、新政権はこれに非常に批判的だ。圧倒的大差で政権交代を実現させた国民世論も、同じく批判的だと言ってよい。


 だから、輸出大企業を中心とする今の経済界(経済界がこうなっていることは、経団連の主要メンバーを見れば一目瞭然である)から日本郵政の社長が出ないのは理の当然だ。新政権は報道の低劣な批判にひるまず、必要な政策転換をどんどん実行すべきだ。


 なお、朝日新聞は今なお上記二氏他を紙面に頻繁に登場させている。長年愛読してきたが、社の姿勢を大いに疑わざるをえない。


追記
 朝日新聞民主党批判のレベルの低さを裏づける証拠として、本文中に引用した記事と、関連する社説とを以下に引用しておくことにする。松田京平とかいう記者、及び朝日新聞全体は、自らの不見識を恥じてもらいたいものである。

官僚OBの「ドン」起用 郵政社長に元大蔵次官・斎藤氏
2009年10月21日14時35分


 日本郵政の後任社長に元大蔵省(現財務省事務次官斎藤次郎氏(73)が決まった。今でも古巣の財務省に影響力を持つと言われる官僚トップOBの起用は、「脱官僚依存」を掲げる鳩山政権の理念とは大きく異なる人選だ。


 斎藤氏は93年発足の細川連立政権時代、新生党代表幹事だった小沢一郎氏と連携を強め、その後も親交は続いた。07年、民主党代表だった小沢氏が当時の福田康夫首相(自民党総裁)と「大連立」に動いた時は、仲介役を果たしたとされる。日本郵政トップへの起用は、民間の有力候補が見当たらない中、亀井静香郵政改革担当相が「小沢人脈」を頼ったとの見方もある。


 だが、民主党はこれまで、官僚出身者の「天下り問題」の是正に積極的に取り組んできた。昨年の日銀総裁人事では、参院財務省OBの正副総裁候補を3回にわたって不同意にした経緯がある。


 今年8月の総選挙では官僚主導から政治主導への転換を掲げ、大勝につなげた。有権者の強い支持を得て成立した鳩山政権の理念と、今回の人選は結びつかず、政権としての一貫性を欠いている。


 平野博文官房長官は21日の記者会見で、日銀総裁人事との整合性を問われ、「それと一緒に比較するのはちょっと違うと思う」。重ねて「どう違うのか」と問われると、「私は違う。こういう認識です」と述べ、具体的に説明することはできなかった。(松田京平)

郵政新社長―民から官へ、逆流ですか


 「官から民へ」を掲げた小泉改革の本丸だった郵政民営化を、鳩山政権が逆回転させ始めたことを象徴するような人事である。


 亀井静香・郵政改革担当相は、日本郵政グループの持ち株会社である日本郵政の次期社長に元大蔵(現財務)事務次官斎藤次郎・東京金融取引所社長を起用すると発表した。


 前日には政府が郵政改革見直しの基本方針を閣議決定。それが自らの経営方針と相いれないことを理由に、西川善文日本郵政社長が会見で辞意を表明したばかりだ。


 政権交代した以上、公約に沿って郵政改革を抜本的に見直し、郵便局網の公共性重視に軸足を置いて軌道修正することは、うなずける。それでも、将来の国民負担を避けるための経営改革を断行し、同時に民間との公平な競争を確保するという民営化の基本原則は守られるべきだ。


 そのためには、民間出身の優れた経営者の下で組織を活性化させることが必要条件ではあるまいか。


 ところが、西川氏の後任は官僚の代名詞のような事務次官OBの斎藤氏だというのだから驚く。政治主導で決めたこととはいえ、「官僚丸投げの政治から、政権党が責任を持つ政治家主導の政治へ」とした鳩山政権の政権公約の理念に背くのではないか。


 西川氏が辞意表明に追い込まれた経緯からして、後任の社長を引き受ける人が民間から出てくるとは考えにくい状況だった。火中の栗を拾う人が他にいないということだろうが、斎藤氏は今は民間人であるにせよ、天下り先の金融取引所のトップであり、「剛腕の大物次官」と呼ばれた人物だ。これでは社長も経営も「民から官へ」ですか、と問わずにはいられない。


 24万人の大所帯である日本郵政グループが、株式会社の形は維持されても、実態は官業へと後退するのではないか、と心配でならない。


 不思議なことに、民主党内に目立った反発は出ていない。斎藤氏は細川政権下で新生党代表幹事だった小沢一郎民主党幹事長と組んで国民福祉税構想をかつぐなどした盟友である。今回の人事にそうした背景を感じる人もいるだろう。


 斎藤氏はきのうの記者会見で「小沢さんからは全く話はなかった」とし、亀井氏の要請だったと述べた。


 いずれにせよ、この人事は旧特定郵便局長とつながりの深い国民新党や亀井氏の言いなりとも映る。亀井氏は斎藤氏について「郵政民営化見直しに関する考え方が連立3党と一致している」ことを起用の理由とした。


 だが、閣議決定した郵政見直しの方針や今回の社長人事が民営化を柱とする郵政改革とどう両立するのか。鳩山由紀夫首相の明確な説明を聞きたい。