検察への圧力――メディアは直ちに「政府高官」の名を明らかにせよ


 小沢氏の秘書逮捕との関連で看過できない発言が飛び出したようである。朝日新聞の記事から引用しておく。

西松建設事件 政府高官「自民側は立件できない」
2009年3月5日21時24分
 政府高官は5日、西松建設の違法献金事件について、首相官邸で記者団に「自民党側は立件できないと思う。特に(違法性の)認識の問題で出来ないだろう」と述べ、自民党議員に捜査は拡大しないとの認識を示した。民主党は小沢代表の公設第1秘書の逮捕を「不公正な国家権力の行使だ」と批判しており、政府高官が捜査の見通しに言及したことは、波紋を広げる可能性もある。高官は同夜、「(議員側に)西松建設から献金を受けた認識があるという傍証がない限り(立件は)難しいという意味だった」と釈明した。


 自民党側では森元首相や二階経済産業相山口俊一首相補佐官らが、西松建設OBが代表を務める政治団体から献金やパーティー券の購入を受けている。

 これは極めて重大な発言である(もちろん失言という意味で)。現に今、野党の側に対して捜査が入っているその時に、同様の事案であっても与党の側には捜査が入ることはないと、政府高官が発言するとはどういうわけか。言うまでもなく検察は政府の一部である。この発言は、その検察に対する圧力を政府高官がかけたものだと考えざるをえない。


 日本のメディアが未だ腐りきっていないのなら、当然、メディアはこの政府高官の名前を明らかにする義務がある。冗談ではない。こういう発言をする政府高官は、そのついている職から直ちに罷免・更迭されなければならない。そうでなければ日本はまともな民主主義国家と言えないことになる。



 もう1つ、これは有名ブログ「きっこのブログ」の情報である。一部引用すると、

小沢一郎の秘書の大久保隆規容疑者が、西松建設側へ請求書を送りつけて献金を要求していた」


 各媒体によって、言葉やニュアンスは変わってたけど、すべての報道機関がこの内容を報じてたから、目や耳にした人も多かったハズだ。で、この情報の出どころはって言えば、もちろん、大久保容疑者を取り調べしてる東京地検特捜部だ。東京地検特捜部が、マスコミに対して、取り調べの過程で判明した内容をチョコチョコとリークしてるんだけど、この情報も、そうした一環としてマスコミへ伝えられたものだ。だから、マスコミは、これ以上の「間違いのない情報源」はないワケで、こぞって報道しまくった。


 で、この情報は、新聞やテレビによって瞬く間に全国へと垂れ流されて、全国の人たちが「そうだったのか。それじゃあ小沢一郎側に非があるよな」って思ったワケだけど、東京地検特捜部は、今日になったら、「請求書を送りつけていたという事実はなかった」って発表したのだ。それも、コッソリと。

残念ながらまだこの情報は他のメディアによっては確認できていないが、これまでの経験から言ってこの種の話題で同ブログが嘘を言っているとは私には思えないので、これは事実だと考えられる。とすると、検察は一体何をやっているのかと言わざるをえない。これではもちろん、その答えは「国策捜査をやっている」としかならないだろう。しかも実に卑劣なやり方で、である。


 同じ「きっこのブログ」で指摘されているように、「関係者」という言葉がテレビや新聞に出てくる時には注意が必要である。だいたい、「関係者」の話として各紙・各テレビ局が一斉に同じ内容を報じる場合、それはどこから出てきたのか、と考えてみれば、そのカラクリはわかりそうなものである。つまり、この事件に関して一番情報を持っているのは誰か。言うまでもないだろう。そういう連中、つまり検察の連中が、あることないこと含めてリークして、そしてリークされたそのエサにおバカな記者魚(雑魚)たちが群がって食いついているのである。


 当たり前のことだが、そもそもどのような情報であれ、それなりに確かと思われるところからの情報であるかどうか吟味した上で取り入れなければならない。本ブログでは極力、引用する情報の出典を明らかにするよう心がけているが、無論それは、情報の信頼性への配慮からそうしているのである。もちろん、今回の場合必要なのは、新聞記事に書いてあることの裏を読めということであり、そういう意識を持っていない人には容易ではないことかもしれないが、しかしこれについては、我々は努力すべきである。自分を守るために。



 今回とりあげた2つの話題は、いずれも極めて深刻な話だと言わざるをえない。なぜなら、権力の側である政府が、明らかに誤った(してはならない)ことをし、かつ、明らかに誤った方向へと人心を誘導しているからである。政府がとりわけ誤情報を流したのはいかなる時期だったかを想起すれば、事の深刻さは明らかだろう。我々は、もちろん平和裏に選挙を通じてだが、今の政府を倒さなければならない、と強く思う。また、仮に私のように政権交代を望むのでなくとも、この点に関しては今の政府は厳しく批判するのが至当である。ブログを持っておられる諸氏はこの2つの話題の意味をよく考え、自らの言葉で批判を発信されるがよいと私は思い、また強くそう願う。



追記
 くだんの「政府高官」とは、或る情報によれば漆間巌(うるま・いわお)官房副長官(事務、元警察庁長官)であるらしい。事務方の官房副長官ということは、要するに官僚機構のトップである。必ずこの漆間某は罷免・更迭されなければならない。民主主義を全く理解していない暴言を吐く輩を政府にとどめおきでもしようものなら、これが世界に知れれば日本は笑い物となる。必ずや罷免・更迭である。


 なお、言うまでもないが、このような名前が出てきたとしても、私の今回の記事の意義は少しも無くなっていない。私が求めているのは、インターネットの一私人のブログにおいてではなく、国民大衆の耳目に届く力を持っているメディアが、この名前を報じ、かつ批判することだからである。繰り返すが、日本のメディアが未だ完全に腐りきっていないのなら、メディアにはそうする責務がある。



追記2(3月7日)
 この件に関する朝日新聞の3月7日朝刊の記事を以下に引用しておく。

「自民立件ない」政府高官発言に与野党批判 西松事件


 西松建設の違法献金事件で政府高官が「自民党側は立件できない」と5日に発言した
ことについて、小沢代表の公設秘書が逮捕された民主党だけでなく、与党内からも厳し
い批判が6日、相次いだ。


 自民党細田博之幹事長は記者会見で、党役員連絡会で「分かったようなことを言う
べきではない」との意見があったと紹介し、「その通りだと思う」。大島理森国会対策委員
長も「(政府高官が)誤解を受けるような言葉を絶対に言ってはいけない」と、河村官房
長官に注意した。


 公明党の漆原良夫国会対策委員長も「捜査情報という機微に触れる話が入るはずが
ないのに、知ったかぶりをしてはいけない。捜査の信頼性を損なうし、民主党の『国策
捜査』という主張を裏付けることにもなりかねない」と記者団に語った。警察官僚出身の
平沢勝栄衆院議員はテレビ番組で「そんなことを言った人がいたとすれば、その人は
失格だ。今すぐ辞めるべきだ」と辞任を求めた。


 これに対し、河村氏は記者会見で「国策捜査ということは現にあり得ないし、あり得べき
ことでもない。そのようなことを類推させるようなことが政府側から出ることはあり得ない」と
釈明した。


 一方、民主党は批判を強めた。鳩山由紀夫幹事長は会見で「政府高官は馬脚を現した。
なぜ捜査の行方に対し、こんなに確信的な言動が出来るのか。内閣と検察の間で何らか
の会話が行われていたと疑わざるを得ない」と述べ、参院予算委員会で追及する考えを
示した。簗瀬進参院国会対策委員長も「政府高官という立場の方が言うのは大変問題だ。
自民党まで捜査するな、というサインのように思える」と指摘した。

 ただ、この記事については奇妙なことがある。すなわち、この記事のURLは次のとおりなのだが、
http://www.asahi.com/politics/update/0306/TKY200903060342.html
今(3月8日午前零時ごろ)このURLを見ると、表示されるのは別の記事になっている。その記事も引用しておくと、

民主、漆間氏とみて追及へ 「自民立件ない」発言の高官
2009年3月7日3時0分


 西松建設の違法献金事件で「自民党側は立件できない」と発言した政府高官は6日夜、改めて記者団の取材に応じ、「一般論として、違法性の認識の立証がいかに難しいかという話をした。『自民党側に捜査が及ばない』とは言っていない」と発言を否定した。一方、民主党はこの政府高官を元警察庁長官で官僚トップの漆間(うるま)巌官房副長官とみて、週明けの国会で追及する。


 政府高官は記者団に「記者の皆さんのとらえ方で、私の本意ではない」と釈明。「捜査は検察が決めることで、私は情報が入る立場ではない」と捜査情報を踏まえた発言でないことも強調した。朝日新聞はこの高官に身分を公表するよう求めたが拒まれた。


 この問題で民主党は、9日の参院予算委員会に政府参考人として漆間氏の出席を要求し、発言の主であるかどうかを直接ただす構え。だが、政府は応じない方針だ。


 また新党大地鈴木宗男代表は6日夜のBS放送の番組で、「漆間氏が『自民党に発展しない』と言うことがおかしい。権力側が裏でつるんでやってるという話になる」と実名を挙げて批判した。漆間氏は警察庁長官を経て、麻生内閣発足の08年9月に中央省庁を束ねる事務担当の官房副長官に就任した。


 政府高官の発言が出たのは定期的に開かれる記者団との懇談。メモをとらないオフレコ扱いで、政策などの真意や背景を聞く場だ。記者はニュース性があると判断した発言は、「政府高官」を主語にして報じる。

 なぜ朝日新聞は記事を差し替えるなどという姑息なことをしたのだろうか。全く解しかねる。



追記3(3月8日)
 備忘のため読売新聞の関連記事を以下に引用しておくことにする。

“自民に波及せず”発言は漆間氏、官房長官が認める
特集 西松献金事件


 河村官房長官は8日のNHKとフジテレビの番組で、西松建設の違法献金事件が「自民党の方にまで波及する可能性はないと思う」と述べた政府筋は、漆間巌官房副長官であることを明らかにした。


 そのうえで、「極めて不適切な発言だ」として、漆間氏に厳重に注意したと述べた。


 河村氏によると、漆間氏は「特定の議員への影響や捜査の帰趨(きすう)に関して判断を示したことは一切ない。立件する場合には請求書などの傍証ではなく、きちんとした証拠がなければできないという一般論を述べただけだ」と釈明したという。河村氏は、番組で、漆間氏自身が国民への説明責任を果たすべきだとの考えを示した。


 漆間氏は8日、読売新聞の取材に対し、「9日の参院予算委員会に出席を求められれば、そこで説明したい。9日の定例記者会見でも真意を説明したい」と述べた。


 これに対し、民主党鳩山幹事長は8日のNHK番組で、「漆間氏は元警察庁長官で一番このような情報に詳しい」などとして、内閣と検察との間で情報交換があった疑いがあると批判。番組後、記者団に「9日の参院予算委員会で問題を尋ねたい」と述べ、追及する考えを示した。


 漆間氏は、実名を公表しないことを前提に行われた5日の定例懇談で、捜査の見通しに言及し、与野党から批判の声が上がっていた。
(2009年3月8日21時37分 読売新聞)

 河村官房長官が紹介しているこの漆間発言は、国策捜査云々とは別の関連でも興味深い。というのは、そこにおいて「立件する場合には請求書などの傍証ではなく、きちんとした証拠がなければできない」という認識が示されているからであり、そして、小沢氏の秘書が団体からの献金企業献金だと認識していたことの証拠だとして巷間語られているのが、まさに請求書の発行ということだからである。その意味で、東京地検はこの発言に逆にビビっているのではあるまいか。その程度の証拠しか持たずに地検は秘書逮捕に踏み切った可能性が高いからである。