格差社会の本当の問題


 今回の記事はどちらかと言えばむしろ備忘的なものであり、末尾に引用する新聞記事を記憶にとどめるのが狙いである。その新聞記事とは、「テレビ界、下請けいじめ是正へ 番組買いたたき禁止など」というものである。


 以前に本ブログでは「「ワーキングプア」の本当の問題」という記事を掲載したことがある。NHKスペシャルで「ワーキングプアⅡ 努力すれば抜け出せますか」という番組が放映され話題を呼んだ時に書いたものだが、要するに、そういう報道は結構だが、そういうことを報じるメディアの現場では、メディアの正社員が高給を食んでいるのに対して、番組制作会社が安月給を余儀なくされているという格差状況(もちろん、一方にワーキングプアを生み出す形での格差状況)が存在するのではないか、それを是正しないでワーキングプアと言うのは嘘くさい話だ、ということを書いたのである。


 その時に書いた文章の一部をここで改めて繰り返しておきたい。すなわち、ワーキングプアの問題は、自分の周囲の出来事を棚に上げて話せる問題ではないはずである。言い換えれば、今の社会の状況は我々一人一人が自ら作り出しているのである。それを自覚して、自らの周囲の状況を変えることから始めることこそが重要である。


 ところで当時、私は明確な論拠があって書いたのではなく、よく言われる噂を基に書いた。したがって、書いた記事では、番組制作会社の社員の安月給についてはそういう実態があるのではないか、と疑問文で書くにとどめたのだが、今回の新聞記事は、私が依拠していた噂が実際そのとおりであることを確証するものだと言える。そこで、記憶にとどめておきたいと思ったのである。


 ただ、この新聞記事はもう1つのことをも教えてくれている。それは、今回総務省が乗り出してようやく「下請けいじめ是正」のためのルール作りが可能となった、つまり、メディア自身には自分で問題状況を改める能力、自浄能力がなかった、ということである。これは極めて深刻なだと言わざるをえない。つまりそれは、職業柄、言説(を通じて正義)を発信し(続け)なければならないメディアが、自らの言説と全く矛盾・衝突するといってよい自らの足元の状況を是正できなかった、言行不一致の極にあり続けた、ということを意味する。放送局の社員と番組制作会社の社員はそれこそ日常的に顔を突き合わせているはずなのに、である。


 改めて言うまでもなく、格差社会の原因は、富める者(必ずしも大富豪に限らず、多少豊かな者をも含む)が貧しい者に対して何らの共感も示さない、つまり連帯感の欠如、という点に存する。日本が格差社会になり、しかもその格差がより鮮明になってきていることは、もちろん、日本社会に連帯感が欠如していることを意味すると言ってよい。そして思うに、連帯感の欠如は今に始まったことではあるまい。日本人は横並び意識が強いなどと言われることがあるが、しかしその横並び意識とは、連帯感の発現としての意識ではなく、他人を引きずり降ろしたいという下劣な精神に由来する意識なのではないだろうか。だとすれば、これは日本人の心性に根づいた問題、根のより深い話ということになる。


 自殺者が11年連続で3万人を超える高水準を続けているこの日本社会。日本及び日本人は、実は非常に下劣な国、下劣な民族なのではないだろうか(因みに、下劣であることと知的水準が高いこととは、詐欺師のケースを思えば明らかなように、必ずしも背反しない)。この点は、さらに考えていかなければならないようである。


 朝日新聞のくだんの記事は次のとおり。リンクはこちら。言うまでもないが、朝日新聞テレビ朝日という系列局を持っているわけだから、報じている同紙と言えども完全な部外者なのではない。

テレビ界、下請けいじめ是正へ 番組買いたたき禁止など
2009年2月22日3時2分


 テレビ業界が、番組作りを発注する制作会社への「下請けいじめ」をなくそうと、総務省と自主ルールをまとめた。契約書もかわさずに発注し、金額を一方的に下げることが珍しくない現状を改める狙いだ。制作会社の著作権も尊重する。NHKと地上波テレビ放送を手がける120社余りの全民放を対象に、3月中に実施する。


 自主ルールは「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン(指針)」。総務省と放送局、番組制作会社の代表が1年間協議してまとめた。制作会社の大半は中小企業で経営が苦しく、長時間の不規則勤務にもかかわらず「年収100万、200万円台の社員がぞろぞろいる」(大手プロダクション社長)という。ワーキングプア(働く貧困層)が社会問題になったこともあり、業界として改善を目指すことにした。


 指針は「放送局は制作会社に対して取引上、優位な地位にあることが多い」と明記。(1)制作会社への発注書・契約書の交付と契約金額の記載を義務づけ(2)番組「買いたたき」を禁止(3)制作会社が持つ著作権の譲渡強要を禁止、の3点を盛り込んだ。


 関係者によると、昨年の調査では全放送局の約6割が、少なくとも一部の書面を交付していなかった。総務省の調査では、制作会社が「書面を渡されても金額の記載がない」「金額は口頭で告げられるだけ」などと回答。今後は、下請け業者保護について定めた下請法に沿った発注書・契約書のひな型を用意し、書面を交付するよう求める。契約金の早期支払いも促す。


 番組「買いたたき」は、テレビCM収入が落ち込み始めた一昨年後半から目立つという。総務省の調査では「一方的に単価引き下げを通告された」「値下げ圧力が強く、赤字で受注した」などの訴えが制作会社から寄せられた。「安い単価に変える時は番組内容やキャストも見直す」「番組種類ごとの単価表を放送局と制作会社が話し合って決める」ことを推奨する。


 制作会社が番組内容を放送局に提案し、制作に責任を持つ場合は、制作会社に著作権があると判断される。ただ、この場合も放送局が著作権を握る例が少なくない。放送局が著作権譲渡を迫ることを「不当な経済上の利益の提供要請」として禁止する。


 違反行為があると公正取引委員会が放送局に是正を勧告し、局名を公表する。総務省も、放送局に対して契約に関する調査を行う方針だ。(橋田正城)