名局と言えない憾みが残る名人戦第6局


 現在二冠の羽生(敬称略。以下も同様)が名人戦第6局に勝利して、十九世永世名人の称号を獲得することとなった。が、同局は、(NHKの放送の解説でも言われていたが)88手目に森内が、解説が勧めていた2三銀打ではなく2三歩としたあたりなど(△2三歩としたために▲5三桂成の強攻が生じてしまった)、疑問手とおぼしき手が見られ、名局と言えない憾みが残る。残念である。


 今回のシリーズを見ると、森内の意欲的かつ完璧な序中盤の指し回しが第1局、第3局、第5局で見られた。これに対して、羽生の指し回しが完璧だったのは第2局ぐらいではあるまいか(第4局については、森内が開戦したのが誤りだったというのが大方の評価のようであり、羽生の指し回し自体を云々するべき将棋ではないと思われる)。将棋の内容から言えば、完璧度という点で森内のほうが優っていたように思われる。こう考えてくると、第6局の上記の疑問手は、或いは森内が手を緩めた結果なのではないかと勘繰りたくなるが、それは勝負師森内に対して失礼だろうから、そう決めつけることはすまい。


 こう書くと羽生に対して厳しいように思われるかもしれないが、しかし本来、名人位とは、或いは少なくとも永世名人の称号は、木村義雄にせよ大山康晴にせよ中原誠にせよ、何期も連続している棋士にこそふさわしいのであって、通算5期での永世名人称号資格取得などというのは、ほとんどお情けだと考えるべきではあるまいか。少なくとも、羽生が棋界第一人者を自認しているのなら、今後名人位を何期にもわたって手元に置き続けることで、名実ともに自らが永世名人にふさわしい存在であることを立証してもらいたいものである。こう考えているのは決して私だけではないと思う。