金融市場には透明なルールに基づく規制の大幅強化が不可欠


 経済問題について書き出す場合には、本ブログの書き出しはいつも同じである。すなわち、以下に書くことがたとえ暴論だとしても、それをあえて言わなければならない時もある。


 日本時間の土曜日早朝(アメリカでは金曜日午後)、世界が注目する中でG7の会合が開かれ、行動計画が発表された。また、それに応じる形で、アメリカ政府の方針も発表された。歴史的に重要な出来事なので、以下に朝日新聞の記事を引用しておくことにする。まずG7に関する記事は次のとおり。

G7、5項目の行動計画を採択 「早急に実施したい」
2008年10月11日10時41分


 【ワシントン=松村愛】主要7カ国財務相中央銀行総裁会議G7)は10日夕(日本時間11日早朝)、各国の主要金融機関に対する公的資金を使った資本注入などを盛り込んだ行動計画を発表して閉幕した。その後の会見で、ポールソン米財務長官は公的資金注入について「早急に実施したい」と表明。危機収束のため、G7各国が団結する姿勢を打ち出した。


 中川財務相兼金融相は会見で、米国の姿勢を「大きな前進だ」と評価した。公的資金注入の重要性で、各国の認識は一致したという。


 G7後には通常、景気認識や為替など経済全般に言及した声明が発表される。それに対して今回は、わずか27行の「行動計画」だけを発表する異例の対応となった。「簡潔で明確なメッセージを送る」(中川財務相兼金融相)ため、金融危機への対応に絞り込んだ結果だ。


 行動計画では、「現下の状況は緊急かつ例外的な行動を必要としている」と危機的な状況であるとの認識を強調。5項目の合意点ではまず、金融システム全体に影響を与えるような重要な金融機関の破綻(はたん)を避けるため、あらゆる政策手段を総動員する、との姿勢を打ち出した。


 そのうえで、金融市場の機能回復▽銀行の資本増強▽預金者保護策の3点を強調。さらに、証券化商品の流通市場について、資産の正確な評価と質の高い会計基準が重要だとした。資本増強については、安易に公的資金に依存することのないよう、民間資金の活用にも言及した。


 こうした行動が「他国に潜在的な悪影響を与えないような方法で行われるべきだ」とも指摘。他国に先駆けて預金全額保護を打ち出したアイルランドの例などを念頭に、ある国の突出した政策が危機の悪化を招くことがないよう、整合性が必要だと指摘した。


 「必要かつ適切な場合にはマクロ経済政策上の手段を活用する」として、さらなる利下げの可能性にも含みを持たせた。


 また、中川財務相兼金融相はG7の席上、国際通貨基金IMF)を通じて、日本などの外貨準備を新興国向け融資に振り向ける制度の創設を正式に提案。各国はこれを歓迎し、行動計画に「今回の混乱により影響を受ける国々を支援するうえでIMFが果たす役割を強く支持する」との文言が盛り込まれた。


    ◇


G7「行動計画」の骨子
・緊急かつ例外的な行動が必要なことで同意。金融市場安定化のために共同作業を続行する
1.システム上重要な金融機関を支援し、その破綻(はたん)を避けるためあらゆる手段を活用
2.信用市場と金融市場の機能回復のためあらゆる必要な手段を講じる
3.金融機関に対し、必要に応じ、公的資金と民間資金で資本増強できるようにする
4.各国の預金保険プログラムが強力で一貫していることを確認
5.必要に応じ、抵当証券など証券化商品の流通市場を再活性化させる
・これらの行動は納税者を保護し、他国に悪影響を与えないように行われなければならない。必要で適切な場合は、マクロ経済政策上の手段を活用する


 次に、財務長官が発表したアメリカ政府の方針に関する記事は次のとおり。

米財務長官「資本増強へ計画策定」 注入の重要性強調
2008年10月11日11時43分


 【ワシントン=西崎香】ポールソン米財務長官は10日の記者会見で、公的資金を使って金融機関に資本を注入する重要性を強調し、「可能な限り早急に実施したい。標準的な計画を策定し、民間による増資も促す。効果には自信がある」と話し、資本注入を急ぐ姿勢を打ち出した。


 米政府は最大7千億ドル(約70兆円)までの公的資金を使い、金融機関の株式を含む資産を買い取る制度を3日に創設した。財務省は今月中の実施も視野に急ピッチで準備中。ポールソン長官は、株式購入による資本注入について「幅広い金融機関に門戸を広げる」と説明した。


 基本的には議決権がついていない優先株などの株式・証券を取得する。ただ、国民負担増を食い止めるため、経営陣への発言権を確保することが必要と判断した場合は、議決権も求める方針だ。


 注入は、基本的に金融機関の求めに応じる形で実施する方針。経営危機に直面した銀行だけでなく、財政基盤が比較的健全なところも対象にし、金融システム全体の安定性を強める計画だ。注入を受けたことが財務基盤の悪化を示すと受け止められれば、経営不安に拍車をかける可能性もあるので、幅広い金融機関に参加してもらって救済色を薄める狙い。


 注入を受けた金融機関には、同時に民間から増資を受けることも促し、自助努力させることを前提にしている。注入規模は経営状態によるが、支援色が強い場合は資本の10〜15%に相当する資金が投入される、との見方も出ている。

 G7及びアメリカ政府が金融機関への資本注入の可能性を公言するのは予想の範囲内だが、それにしてもアメリカ政府は、「議決権がついていない優先株の取得」だなどと、どうしてそこまで金融機関に対して甘いのだろうか。株主代表訴訟で、経営責任者の徹底的な追及が行なえるのならわからないでもないが、しかしそれについては、経営者の側は保険をかけるなどしているのではないか。まして、ブタ箱にぶちこむこと(今回の金融危機に関しては、牢屋に入るべき金融機関関係者が実に多数いるように私には思われる)などできはしないだろう。であれば、その罪状を暴くためには当の企業に政府から役員を送り込んで、内部資料を押さえて前役員などを告発するほか、経営者の責任追及など望むべくもないのではないだろうか。こう考えてくるなら、政府が取得すべき株式が議決権のついたものでなければならないということは、明々白々ではないか。政府が経営者を送り込むことが社会主義的かどうかなどと考えている場合ではないのである。



 ところで、今回の金融市場の大混乱を見ていて、改めて思うことだが、金融市場に対して現在行なわれているような規制(といっても、インサイダー取引及びストップ安・ストップ高に関する規制以外で、そもそも「規制」の名に値するようなことが果たして行なわれているのかどうか疑問だが)では今回の問題の発生を防げなかったことは全く明らかである。したがって当然ながら、今後金融市場は、現在よりも(遥かに)強い規制の下に置かれるのでなければならないと思われる。


 と書くと、経済学通を自称する連中からは馬鹿にされ批判されるかもしれないが、そもそも私は経済学それ自体が、思想的に偏向した、学問の名に値しないイデオロギー的産物だと思っているので、そのようなイデオロギー的批判は痛くもかゆくもない。のみならず、経済学通を自称する連中には反問しなければならないが、いったい経済学或いは金融論とやらによって、今回の事態を事前に予見しかつそれに対する適切な処方箋(もちろん、その処方箋に従って行動すれば、今回の事態は起こらなかっただろうような、そのようなものでなければ「処方箋」の名には値しない)を事前に提示できた人がどれほどいるのだろうか。肝心なのは「事前に」という点であって、というのも、後からなら何とでも言えるからである。事前に提言するために役に立たないような学問になど、果たしてどれほどの意味があるというのか。


 強い規制と言ったが、もちろんその際重要なのは、透明・明快なルールに基づく強い規制ということである。恣意的な規制ぐらい害の大きいものはないからである。付け加えれば、透明なルールに基づく規制を行なうために、仮に政府部門の人員の増加が必要になったとしても、そのことは必ずしも「大きな政府」を帰結するわけではない。大きな政府とは本来、権限の強大な政府のことであり、そして強大な権限は、しばしば少数の役人によって行使されうるからである。


 また、今回の行動計画の中でも出ているが、一国の経済危機が他国に容易に波及しないような規制も導入されるのが妥当であり、そのために有効なのはやはり、いわゆるトービン税ないしは(同じことだが)通貨取引税の導入だろう。ところが先般、確か日本政府は追加の景気刺激策と称して、証券投資関係の減税を実施するなどといった案を盛り込んでいたようである(テレビのニュースで見ただけなので、100%確かというわけではないが)。アホかと言わざるをえない。過剰な投資こそが今回の金融大混乱をもたらしたのに、それをさらに助長するようなことがどうして経済振興につながるのだろうか。確かに、金持ちがタンス預金を過剰にため込むことは経済振興にはつながらないだろうが、しかしこの際、金融市場はもっと秩序ある市場へと変容する必要がある。いたずらな投資奨励をやるべきではないと考える。


 秩序ある市場とはどのようなものか。まず、自分の資産のかなりの部分を証券市場しかも短期的な投資に運用するなどということは、そもそもまっとうな人間のすることではない。それは山師のすることだ、という健全な良識が復活させられるべきである。小金持ちが金を運用しようという場合、基本的に向かうべきは長期投資であり、まず投資対象の会社企業をよく研究して、将来成長が期待される産業・企業への投資を行なうことが望ましい。短期の資金運用は山師及びばくち打ちに任せておけばよいのであり、まっとうなふつうの人間はそういうことにかかわるべきでない。


 言うまでもなく、以上が極論・暴論であることは重々承知している。しかし、もしそのような議論を一蹴するのであっても、今回のような事態を二度と起こさないようにするためにはどうしたらよいかという問題には、少しでも真面目に経済・金融を考えようとする者なら、答えを出す努力をする必要がある。21世紀の人間の英知は、今回の金融大混乱をもたらした野放図かつでたらめな経済行動に対して有効な規制をかけることにこそ発揮されねばならない、と私は思う。



追記
 アメリカの自動車会社が揃いも揃って再建のための方策を打ち出そうとしているらしい。末尾に記事を掲げておくことにするが、しかしそれを見ると、いずれの方策も誤っているのではないかという気がしてならない。


 すなわちまず、フォードはマツダの株を売って資金を作り、それによって何らかの経営状況改善を狙っているのだそうだが、すべきはむしろ逆ではないか。つまり、フォードはマツダに自社株を相当額買ってもらい、それによって、可能ならばマツダから経営陣をフォードに送ってもらい、それによってフォード本体の立て直しを図る、というほうが、経営再建策としては遥かに有効なのではないかと思う。聞くところでは、マツダはここ数年経営が順調だそうだからである。フォードがマツダへの関与の度合いを減らすことは、フォードにとってはかえって、利益の源泉を自ら断つがごとき愚行ととられる可能性がありはしないだろうか。


 次に、GMがクライスラーを買収しようとしているとのこと。両社とも業績不振の中にあるそうだが、そういう会社が2つ合わさって、果たしてどういう経営統合効果が出てくるのだろうか。せいぜいのところ、間接費用が多少削減されるだけなのではないか。このような買収劇からは、業績の著しい改善はまず期待できないように思われる。両方とも沈没という事態すらありうるのではなかろうか。


 以上の2つに関する朝日新聞の記事へのリンクはこれこれ。以下に引用を掲げておくことにする。

米フォード、マツダ株の一部を売却方針
2008年10月11日13時50分


 米自動車大手のフォード・モーターが資金調達のため、保有するマツダ広島県府中町)の株式33.4%の一部を売却する方針を固めたとの報道が11日流れた。マツダは同日、これに対して「現在決まっている具体的な事実はない」とコメントを発表した。

GM、クライスラーと買収交渉か 米紙報道
2008年10月11日12時52分


 【ニューヨーク=丸石伸一】米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)が、同業大手クライスラーの買収に向けて交渉に入った、と複数の米主要紙が10日の電子版で報じた。ともに販売不振で業績が悪化しており、現状を打開する方策の一つとして再編を検討しているとみられる。


 ただ、米紙ニューヨーク・タイムズによると、交渉はまだ予備的なもので、合意に至る可能性は今のところ「半々」という。また、同ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、最近の金融危機の影響で交渉は一時停止されていると報じており、実現の可能性は不透明だ。


 実現すれば、米大手3社「ビッグ3」のうちの2社が手を握る巨大合併となり、世界最大級の自動車会社が誕生する。両社とも地元の北米での新車販売台数が今年、9月までの累計で前年同期より20%前後落ち込むなど不振が続いていた。


 また、クライスラー側は日産自動車と仏ルノー連合を含む別の自動車会社とも同時に売却交渉を進めている、とニューヨーク・タイムズは報じた。ただし、交渉がどんな段階にあるかは不透明という。


 GMによる買収については、交渉は、クライスラーを持つ米投資会社サーベラス・キャピタル・マネジメントとGMとの間で1カ月以上前に始まった。結論にはまだ数週間かかる見込みという。また、WSJによると、GMは買収によって約100億ドル(約1兆円)のコスト削減効果を見込んでいるという。


 クライスラーは98年、独自動車大手ダイムラー・ベンツと合併し、「ダイムラークライスラー」となった。だが、不振続きでダイムラー側がクライスラー部門の売却を決め、07年にサーベラスが買収した。現在は非上場会社で、再建を目指している。


 GMも苦境が続いており、直近の4〜6月期決算まで4四半期連続の赤字を計上。最近は資金繰り難などへの懸念から株価が急落している。これまで追加リストラなどで業績回復を目指してきたが、抜本的な経営立て直しに向けて再編戦略も視野に入れ始めた可能性がある。