現下の経済情勢に対する日本政府の誤った対応、早まった反応は極めて疑問だ


 経済について書く場合には、無駄だとわかっていても一々弁解から始めたくなる。弁解とはすなわち、筆者たる私は経済のド素人であり、以下に書くことはそのようなド素人の単なる暴論でしかない、ということである。しかし、暴論或いは無知な議論だと自覚していても、書かないわけにいかないこともたまにはある。


 まず第一に、今の日本の景気後退に対して、政府が第二次補正予算、しかも既に衆院で可決した補正予算よりも遥かに規模の大きな補正予算を組もうという、しかもその財源として赤字国債の発行もありうるというスタンスで組もうという姿勢を示していることについて。このような挙の愚かさは既にいろいろなところで指摘されていると思うが、私も場末から一声上げないわけにはいかない。


 すなわち、通貨の信用度に関する昨今の見方からすれば、赤字国債の発行によって財政赤字を積み増すことは、(仮に公共事業実施のための国債発行であっても)当の通貨の信用度を低下させるものであり、それ自体決して好ましくない、ということがまずある。


 これに対して、国債発行を容認する人々は、通貨の信用度の低下の結果円が安くなるなら、それはむしろ、日本経済の強みである輸出企業にとって有利に働くから良いではないか、と反論してくるかもしれない。しかし、そのような反論が妥当するのは経済の平時においてである。


 ところが現状はと言えば、例えばアメリカでは金融危機の結果、自動車に対する需要それ自体が(円高・円安の如何にかかわらず)減退しているのである。だから、為替市場が円安に振れたところで、自動車の売れ行きがそれだけ良くなるという保証は全くないと思われる。他方で、原油等資源価格は円安によって確実に高騰することになる。このように考えるなら、こと現時点では、赤字国債の発行は日本経済のためにはならないのではないかと思われる。
(なお、本ブログは公共事業を頭から否定するわけではないが、そうだとしても、土木建築業への公的支出というような従来型の公共事業にはあまり賛成できない。むしろ、民主党の菅氏などが言っているように、社会福祉への支出を増やすというような形の公的支出の増加こそが、今の日本では有効な景気対策になりつつあるのではなかろうか。また、高速道路の無料化などのほうが、投資効果という意味では遥かに効率の良い景気対策たりうるのではなかろうか。)


 第二に、今、日本の政府首脳は、米国発の国際的な金融危機(否、むしろ現状では既に、金融恐慌ないしは恐慌と呼ぶべきではないだろうか)への対処方法として、金融機関への公的資金の注入の必要性を繰り返し協調している。特に麻生首相という馬鹿ボンボンは文字どおり馬鹿の一つ覚えを繰り返している(因みに、麻生がいかに経済音痴かということは、例えば江田憲司衆議院議員のブログのこの記事が雄弁に語っている)。しかし、現時点でこういうことを言うのは極めて危険ではないかと思われる。


 そのわけを言えば、幸便にも本日(10月10日)発行の田中宇氏のメールマガジンの最新号(氏のWebサイトでもこのページで閲覧することができる)が指摘しているように、アメリカの金融危機で生じるかもしれない損失の額は、かつての日本の金融危機の時の額の比ではないからである(詳しくは氏の記事を参照されたい)。一般論として公的資金注入の必要性を強調するところまでは良いかもしれないが、それ以上の具体的な話は、いったいいかほどの資金注入が必要かという問題にメドがついてからにすべきではないかと思われる。さもないと、ザルないしは穴あきバケツに水を注ぐたぐいの話になりかねない。


 ついでにこの機会に指摘しておきたいが、金融のことなどわからない馬鹿ボンボンや、審議中にワンセグに興じる不真面目財務大臣などは、今回の件では口をつぐんで発言せず、発言はもっぱら日銀総裁に任せておくのが賢明である。馬鹿どもの出る幕ではないのだ。白川日銀総裁は、私の印象では、ここ数代の総裁の中で最も金融事情に通じている総裁のようである。その総裁人事の決まり方は不規則だったが、結果的には良い人選となったと言える(これは単に私の評価だけではなく、日銀OBきっての経済通だと思われる鈴木淑夫氏も、このページで見られるように、白川総裁に対して極めて高い評価を与えている)。そして今の問題は金融危機なのだから、餅は餅屋に任せておくべきである。そしてさらに言えば、日本政府は、下手な約束をしてこの時期にドル資産を増やすがごとき愚挙をすべきでは絶対にない。協調利下げなどをするのならまだしも、この時期にドル資産を増やすことは売国・亡国の所業であり、絶対にあってはならない。米国の破綻の引き金を引くようなことはもちろんすべきでないが、しかし他方、万一米国が経済破綻を来たした場合には、日本が巻き添えを食うことが決してないようにしなければならない。とにかく、国際会議では麻生や中川の馬鹿どもは、口にさるぐつわをはめてでも、黙っていてもらいたいものである。