鳩山論文への態度に見るアメリカ人の傲慢さ


 ふだん引用しない読売新聞からまず記事を引用しておきたい。

民主・鳩山氏「米紙論文、反米ではない」


 鳩山代表は31日、党本部で記者団に対し、米国のニューヨーク・タイムズ紙に掲載された鳩山氏の論文が米国内の一部から批判されていることについて、「決して反米的な考え方を示したものではないことは、論文全体を読んでいただければわかる」と強調した。


 論文は、米国主導のグローバリズム市場原理主義を批判し、アジア中心の経済体制の構築などを主張している。鳩山氏は「寄稿したわけではない。(日本の)雑誌に寄稿したものを、抜粋して載せたものだ」と述べた。論文は日本の月刊誌「Voice」9月号に掲載されたもので、英訳は鳩山事務所で行ったという。同紙関係者は本紙の電話取材に対し、「紙幅に合わせて短縮し、いくつか不明瞭(めいりょう)な単語を変えたが、内容で本質的なことが編集で変えられたことは断じてない」と強調した。
(2009年8月31日22時04分 読売新聞)

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 NYTimesの記事は私も読んだが、確かにこれだとアメリカ人に対する批判が強いかなとは思った。そして実際、「米紙に寄稿の「鳩山論文」相次ぎ批判 米国内の専門家ら」などという記事も出てきている(末尾にこの記事のコピーを掲げておく)。


 しかし、言うまでもないが、アメリカ人はもっと批判されなければならない。例えばglobalismに関して言えば、昨年秋のリーマン・ブラザーズの破綻に始まる金融危機は、アメリカ(そしてヨーロッパ)の金融資本の狂奔がもたらしたものではないか。これに対する真摯な反省の声など、聞いたことがない。ふざけるなと言わざるをえない。また、東アジアにいる日本が東アジア諸国との協調関係をこれまで以上に重視するべきなのは当然である。


 加えて指摘しなければならないのは、冒頭で引用した読売新聞の記事に見られるアメリカ人の傲慢さである。つまり彼らは、他人の論文を勝手に縮めておいて、それを何ら恥じるところがない。これを傲慢と呼ばずして何と言おうか。「紙幅に合わせて短縮し、いくつか不明瞭(めいりょう)な単語を変えたが、内容で本質的なことが編集で変えられたことは断じてない」などと言ったとのことだが、何が本質かを決めるのは、文章の形という点から言えば著者であり、内容の理解という点から言えば読者であって、それ以外にはない。記者ごときが勝手に短縮したり単語を変えたりするなどということは、著者に対する冒瀆(ぼうとく)と言ってよい。


 ここで、私が過剰に怒っていると思う向きもあるかもしれないが、そう考えるのは正しくない。実は、欧米人は、非欧米人の著作(特に論説的な著作)に対してはしばしばこういうことをやるのである。そして彼らはそうするのが当然の権利であるかのごとくに思っている。つまり、自分たちのほうが文化的優位に立っていると思っているのであり、ここに見られる傲慢さが、まさに今回の件にも見られるのである。私が鳩山氏なら、当然当の記者・新聞社に対して釈明(否むしろ、謝罪)と、全文掲載とを求めるだろう。それは当然の権利なのである。アメリカ人が日本人をなめていることが今回の件から透けて見えていること、これに対して日本人はもっと怒らなければならない。これは愛国主義の問題ではなく、知的誠実さの問題である。



 上で言及した「米紙に寄稿の「鳩山論文」相次ぎ批判 米国内の専門家ら」という記事は以下のとおり。但し、この記事では鳩山氏が「米紙に寄稿」したとあるが、実際にはそうでなく、冒頭に引用した記事が言うような事情だとのことである。

米紙に寄稿の「鳩山論文」相次ぎ批判 米国内の専門家ら
2009年8月29日3時8分


 【ワシントン=伊藤宏】民主党鳩山代表が27日付の米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)に寄稿した論文をめぐり、米国内に波紋が広がっている。「米国主導」の世界経済の体制を批判的にとらえ、アジア中心の経済・安全保障体制の構築を強調した内容が、米側の目には「現実的でない」と映るようだ。専門家らの間には日米関係の今後に懸念を抱くむきもある。


 鳩山氏は論文のなかで、「冷戦後、日本は米国主導の市場原理主義、グローバリゼーションにさらされ、人間の尊厳が失われている」と指摘。自ら掲げる「友愛」の理念のもと、地域社会の再建や、東アジア地域での通貨統合と恒久的な安全保障の枠組みを作る考えを強調した。


 これに対し、日本政治に詳しい米外交問題評議会のシーラ・スミス上級研究員は27日、朝日新聞の取材に「グローバリゼーションは米国式の資本主義、との批判だが、これはG20における日本の役割にとって、何を意味するのか。民主党政権国際通貨基金IMF)体制の支援から離れて、他の体制を見いだすのか。経済再生の努力から優先順位を移すのか。米ドル体制の支援とは、別な立場をとるのだろうか」と疑問を投げかけた。


 元米政府関係者は「オバマ政権は、(鳩山氏の)論文にある反グローバリゼーション、反アメリカ主義を相手にしないだろう。それだけでなく、この論文は、米政府内の日本担当者が『日本を対アジア政策の中心に据える』といい続けるのを難しくするし、G7の首脳も誰一人として、彼の極端な論理に同意しないだろう。首相になったら、評論家のような考え方は変えるべきだ」と批判した。


 別の元米政府関係者も「グローバリゼーションについての米国への批判は一方的に過ぎるし、日米同盟の重要性に触れたくだりも、非常に少ない。鳩山氏はもっと日米関係に理解のある人だと思っていたが、変わったのだろうか」と話す。


 ニューヨーク・タイムズワシントン・ポストは、いずれも27日付で、日本の総選挙に関する記事を掲載。いずれも民主党が勝利して政権交代が起きる可能性が高いことを伝える内容で、今回の総選挙に関する米国の関心の高さを示している。