祝 暫定税率失効――再引き上げこそ混乱をもたらす


 今4月1日の午前1時過ぎなので、1時間ほど前にガソリンの暫定税率は失効したことになる。私も微量ながらガソリンを使う生活をしているので、めでたい限りである。


 ところでこの機会に、メディアを批判しておくことは無意味でないだろう。例えば、今しがた目にした毎日新聞の署名入り論説だが、まず引用し、次いで批判を加えることにする。

租税特別措置:国民不在の二者択一


 「何も決められない政治」が続く。日銀総裁の空白、道路財源を巡る税制の混乱。国際的威信は低下し、シワ寄せは私たちの日々の生活に及ぶ。「政党あって国民なし」の危機的局面である。


 今年のサミットを主催するG8(主要8カ国)議長国としても、日本は貴重な機会を失った。道路税制のあり方と環境問題への対応を結びつけるグローバルな視点で、国際世論と国内世論を先導すべきではなかったか。政争にかまける与野党の現実遊離は、一歩外は火事なのに、酒場で口角泡を飛ばす酔客同士にも似ている。


 法案審議を1カ月間も放棄し、ガソリン代が下がる下がらないを国家の一大事のごとくあおり立てる政治。「国民はそのレベルにあった政治しか持てない」と言うが、国民の多くは政治に歩み寄りと合意を望んでいた。


 国民の成熟と政治の劣化の落差が、今ほど広がっている時代はない。期限までに政治が答えを出せなかった責めは、与野党双方が負うべきだろう。


 安全保障や税制など国家や社会のありようを左右する大きなテーマほど、民主国家の世論は割れる。割れた片方を盾に政党がそれぞれ塹壕(ざんごう)を掘って外に出なければ、不毛な論争しか生まれない。そこにあるのは世論を説得する近代政治でなく、世間を扇動する衆愚政治の姿である。


 外交では「51対49」で決着する交渉が理想とされる。相手の国のメンツを立て、わずかでも自国に有利な結果に妥協によって導く熟練が国益を守り、地域を安定させる。大人の国と国の関係だ。


 「ねじれ」国会における政治も、これに学べないものか。


 道路財源の既得権に手はつけさせないという自民党の固陋(ころう)、暫定税率の即時撤廃以外は聞く耳を持たない民主党の頑迷。「0か100か」の二者択一の政治は、自民党が圧倒的多数だった55年体制下に比べても、あまりに硬直している。


 「政治は国民の半歩先を歩くもの」と言われる。世論に対し独善でも、追従・迎合でもない政治。「0か100か」の呪縛から抜け出す勇気と、国民の感情ではなく理性に訴える政治を、今こそ与野党に求めたい。【政治部長・小松浩】

 まずこの論説でおかしいのは、「暫定」税率が続くことがなぜ良いのか、という基本的な疑問が全くどこかにすっとんでいる点である。たかが言葉の問題だと言うなかれ。我々は他人の考えを言葉によってでしか理解できないのだから。


 「暫定」税率が30年以上もの間続くのは、何をどう考えてみても、全くおかしい。この一事から見て、暫定税率の廃止は当然必要である。暫定税率廃止に関する、これほど明快な理由がほかにあるだろうか。


 毎日新聞政治部長氏は「道路税制のあり方と環境問題への対応を結びつけるグローバルな視点で、国際世論と国内世論を先導すべきではなかったか」と書いている。そうしたければご随意に。でも、まずは、「暫定」税率を廃止するべきである。なぜなら、それは「暫定」なのだから。その上で、環境税を創設することを主張するべきである。「暫定」税率を残したままそれを(どういうふうにしてできるか知らないが)環境税へと移行させるなどという話は、どう考えても全くありえない。


 「法案審議を1カ月間も放棄し、ガソリン代が下がる下がらないを国家の一大事のごとくあおり立てる政治」? 私に言わせればむしろ、「暫定」税率の廃止という当然のことすらできない政治こそが問題である。付け加えれば、確か定率減税は恒久的減税だったとのことだが、その「恒久的」減税が先ごろ廃止されている。これもまた実におかしい。もう何しろ、言葉が滅茶苦茶なのである。政治で言葉が滅茶苦茶なことなど、もちろん断じてあってはならないはずである。


 毎日新聞政治部長氏は「国民の多くは政治に歩み寄りと合意を望んでいた」と書き、「外交では「51対49」で決着する交渉が理想とされる」と書いて、妥協しろ妥協しろとしつこく要求している。しかし果たして妥協するのが正しいことなのだろうか。


 すなわち、道路財源の一般財源化(「財源」「財源」と二度出てくるのが気持ち悪いが、要するに、特別会計でなく一般会計で道路支出も見るということだろう)は、そもそも小泉政権が提唱していたことではなかったか。小泉政権とは何党の政権か。もちろん、自民党の政権だった。であれば、首相が代わったという理由で一般財源化を反古にする自民党(政権)こそ、全然おかしいのではないか。自民党のその変節ぶりが、なぜ批判されないのか。この点で、毎日新聞政治部長の論説は全くおかしい。でたらめである。


 本来ならば、論説では次のように言われるべきではなかったか。すなわち、暫定税率は当然廃止。すなわち、新たに環境税を設けるべき。すなわち、道路財源は一般財源化するべき。となってみれば、結局これは民主党の言い分そのままになるのではないか。であれば、妥協などはもちろん必要がないことになる。妥協しろと言っているメディアこそ、ものの本質をねじ曲げている、およそ理性的でない言辞を弄するものと言わざるをえない。


 最後に言おう。いったん引き下げとなったからには、再引き上げこそが混乱をもたらす。環境問題を言うのなら、暫定税率の復活ではなく環境税の導入をこそ政府は考えよ、そしてメディアはそう主張せよ。当然のことである。