完敗の朝日新聞は自らの誤りを認めよ――かんぽの宿問題をめぐって


 かんぽの宿オリックスへの譲渡という問題をめぐっては、本ブログでも既に過去記事(2009年1月18日づけ)でとりあげてきたところであり、その中で特に朝日新聞の社説を批判した。


 すると、既に数日前になるが(1月31日)、また社説がこの問題をとりあげた。末尾に全文を引用しておくが、なおも自説の正しさを言い張ろうとするがごとき、懲りない内容となっている。曰く、
「購入・建設に2400億円もかかった79施設を109億円で売る・・・(中略)。たしかにこれでは大損だ。しかし、よく考えてみたい」
バブル崩壊後、日本の地価は下がり続けている。(中略)こうした条件のもとで、入札は行われた。となれば、当初の投資価格から大幅に下落するのは避けられないと思われる」
「公開の入札を行い、いちばん有利な売却条件を落札とするのだから、それが安くても、現状での市場の判断として受け入れる以外にないのではなかろうか」。


 しかし、朝日新聞のこのような主張を完全に覆す事実が、本ブログでも高く評価している社民党衆議院議員保坂展人氏のブログによって明らかにされている。すなわち、かんぽの宿の譲渡は、一般競争入札によって行なわれたのではなかったのである。以下、同ブログから一部引用しておくと、

そして日本郵政が文書で回答してきたのは次のような文面だった。


[今回の「入札」の形態について]


・本件は単なる不動産の売却ではなく、従業員も含む事業全体を譲渡するものであり、雇用の確保や事業の発展・継続性についての提案も評価する必要があるため、譲渡価格のみを入札して候補先を決定する、単純な「競争入札」は馴染まないと判断し、今回の手続を選択したものです。


・具体的な手続としては、平成20年4月1日から平成20年4月15日までホームページにおいて競争入札による譲渡を実施する旨の公告を行った後、各応募者から提出された、従事する社員の取扱い、取得後の事業戦略、ホテルの運営実績(投資実績)、応募先の信用力、取得価格等の企画提案内容を総合的に審査した上で、最終的に最も有利な条件を提示した応募先と契約を締結しており、手続の内容としては「競争入札」の範疇に入るものと認識しております。


[引用終了]

 日本郵政側のこの言い方のうち、最後の「手続の内容としては「競争入札」の範疇に入るものと認識しております」という部分が単なる言い逃れでしかないことは、言うまでもない。


 実際には、競争入札などでは全くなかった。そのことは、同ブログの次の記述からわかる。注目すべき箇所を太字で表示しておく。

日本郵政が第2次入札と呼ぶ10月31日まで「譲渡対象」に含まれていた世田谷レクセンターが、突然に「一括譲渡」のリストから外れていく。そんな無手勝流の入札ってありなのか。日本郵政は、「いつでも、どこでも、契約内容を随時撤回・変更することが出来る。応募企業は文句が言えない」という随意条項が応募要項に記載されているのでOKだという見解だったが、この点についても文書で回答が寄せられた。


[世田谷レクセンターが外れた経緯について]


・第2次(最終)入札時の提案において、同入札参加者より、屋内外のスポーツ施設を中心とする施設である「世田谷レクセンター」の事業評価として、温泉・宿泊を中心とする他のかんぽの宿とは施設の特徴が異なり、事業評価に直結するネットワーク性との関連性も低いとの考えが示されたことから、当社としても、同センターが適正な評価を得られないと判断し、一括譲渡の対象施設から除外したものです。
・なお、応募先各社には対象施設の変更があり得ることについて、事前にご理解を頂いております。


[引用終了]

 入札とは、意味をどう広く取ってみても、募集する側が条件を一方的に決めて、その決められた条件に対して応募する側が応札する、という方式のことであるはずである。ところがこの話では、応募する側の意見を聞いて、募集する側が条件を変えているではないか。これは、入札と呼ぶに全く値しない方式である。「契約内容が変更された時点で、それから後は単なる密室の商談に変化していませんか」という、保坂氏が引用している専門家の指摘は全くそのとおりである。


 かくて、入札などといったことは全然行なわれていないのである。朝日新聞の今回の社説は、自説の主張の立脚点として「もちろん以上の議論は、入札が適正に行われたことが大前提である。談合のような不正や不適切な事務処理があったなら話は別だ」と書いているが、その立脚点がここにおいて完全に崩壊しているのである。であってみれば、かんぽの宿をめぐる朝日新聞の一連の社説が無根拠であることは、もはや明らかである。調査もせずに、社説で堂々と日本郵政オリックスとを擁護した同紙は、完敗したのだから、自らの誤りを世間に対して認めて謝罪した上で、日本郵政オリックスとに対して批判の矢を向けるべきだろう。


 朝日新聞の、今や無根拠となった1月31日づけ社説は次のとおり(リンクはこちら)。

かんぽの宿売却―徹底調査と公表で道開け


 日本郵政が「かんぽの宿」のオリックス不動産への売却を一時凍結すると表明した。弁護士や公認会計士など外部の専門家による第三者委員会を設けて売却プロセスを洗い直すという。


 売却に対する鳩山総務相の「待った」は、根拠が不明確で納得できないが、日本郵政は入札が適正だったというのなら、徹底した調査と結果の公表で、それを証明するしかない。


 鳩山発言を受け、国民の間からも売却に疑問の声が出ている。その核心は、購入・建設に2400億円もかかった79施設を109億円で売るのはおかしい、という点だろう。


 たしかにこれでは大損だ。しかし、よく考えてみたい。


 バブル崩壊後、日本の地価は下がり続けている。事業用の不動産価格は事業の収益性で決まる、というのが今日では常識になっている。ところが、売却施設のうち黒字が出ているのは11だけで、全体では40億〜50億円の赤字が毎年出ている。そのうえ、正規・非正規3200人の従業員の雇用継続にも努めなければならない。


 こうした条件のもとで、入札は行われた。となれば、当初の投資価格から大幅に下落するのは避けられないと思われる。しかも、地価が大きく上昇する見込みはなく、売却が遅れれば赤字がそれだけ累積する。


 では、どんな価格が適切なのか。専門家の間でも意見が分かれるだろう。だが、公開の入札を行い、いちばん有利な売却条件を落札とするのだから、それが安くても、現状での市場の判断として受け入れる以外にないのではなかろうか。「もっと高く売れる」というなら、そういう買い手を見つけて来るしかない。


 これほど巨額の損失を出すことになった責任はどこにあるのか。郵貯簡保の客から預かったお金を、収益性を無視して施設建設に投じた放漫な官業ビジネスと、そうした施設を選挙区へ誘致してきた政治家こそ責めを負うべきだろう。この点も含め、総務相には問題の全体像を見てほしい。


 もちろん以上の議論は、入札が適正に行われたことが大前提である。談合のような不正や不適切な事務処理があったなら話は別だ。鳩山氏は昨日の国会答弁で、そのような疑義を口にした。それなら問題点を具体的に示してほしい。担当大臣なのだから、ただ「疑問あり」では済まない。


 日本郵政にも注文がある。売却が問題視されてからも、入札についての情報をきちんと出さず、疑念を膨らませる結果になった。経営姿勢が内向きになって経営情報を出し渋り、官業体質へ逆戻りしているように思える。これは経営の求心力低下にもつながっている。この機会に、民間企業としての決意を新たにしてほしい。