公務員制度改革――今ごろ大騒ぎすることのおかしさ


 「政府 公務員改革工程表を決定」というニュースが3日夜のNHKニュースで報じられ、国会審議の様子の映像すら繰り返し映し出されていた。「すら」とあえて言うのは、その審議が与党委員の質問に対して政府が答弁するというものだったからである。言うまでもなく、与党は、公務員制度改革を本気でやるつもりであれば、今ごろでなくとっくの昔に着手することができていたはずであり、それを今になって大騒ぎし、かつそれをNHKが与党の太鼓持ちよろしく、大改革であるかのように報じるのは、全く馬鹿げている。ともあれ、上記NHKニュースの本文をまず掲げておくことにする。

政府 公務員改革工程表を決定
2月3日 12時45分


政府は、中央省庁の幹部人事を一括して行う「内閣人事・行政管理局」を新たに設置し、平成23年から、いわゆる「天下り」の根絶に対応した新たな人事制度を、順次、実現するなどとした、今後4年間で行う公務員制度改革の工程表を決定しました。


これは、3日に開かれた国家公務員制度改革推進本部の会合で決まったものです。それによりますと、縦割り行政の弊害をなくすため、中央省庁の幹部人事を一括して行う新たな組織「内閣人事・行政管理局」を来年4月に設置するため、今の国会に必要な法案を提出するとしています。また、人事院が行っている国家公務員の採用や給与にかかわる権限を「内閣人事・行政管理局」に移管するとしており、人事院の反対を押し切った形となっています。さらに、ことし以降、公務員が定年まで勤務できる環境の整備などを進めて、定年前に退職する今の慣行の是正を図り、平成23年から、いわゆる「天下り」の根絶に対応した新たな人事制度を順次、実現し、平成24年までに移行するとしています。また、当初の案で、「内閣人事・行政管理局」のトップに官房副長官を充てるとしていた点については、自民党から反対意見が出たため、盛り込むことを見送りました。会合で麻生総理大臣は「公務員制度改革に積極的に取り組んでほしい。工程表に基づいて、最大限、協力をお願いしたい」述べました。甘利行政改革担当大臣は、閣議のあとの記者会見で、「工程表に基づいて、今後、具体的な作業を進めていく。人事院の機能を移管した場合にどのような懸念があるのか、具体的に人事院に示してもらい、それにわれわれが回答していくことになる」と述べました。また、人事院の反対を押し切る形で工程表が決定されたことについて、甘利大臣は「今回の公務員制度改革が100年ぶりの改革であることを、人事院はどこまで理解していたのか。従来の枠組みの中で、微調整をしたいという思いから踏み出すことがなかなか難しかったのではないか」と述べ、人事院の対応に疑問を呈しました。また、河村官房長官は「人事院は、工程表が国家公務員制度改革基本法の範囲を超えていると理解していたようだが、政府もそうした意見を踏まえて検討してきており、懸念は当たらない。時間をかけて議論を十分尽くしてきたという甘利大臣の意向もあり、このまま宙ぶらりんにしておくと、公務員制度改革そのものの見通しが立たなくなる。法制化は、人事院の意見も拝聴しながら進めていく」と述べました。野田消費者行政担当大臣は、記者会見で、「国が変わってきたから、行政サービスを担っている公務員や組織のあり方も変えていかなければならないのは、あたりまえのことだ。固定化されたものを大きく変える『きしみ』とでもいうものが、人事院とのあつれきなのではないか」と述べました。人事院谷公士総裁は記者会見し、「人事院機能の移管については、人事院の責務を果たすために必要な機能を損なわない、ぎりぎりの範囲で最大限の努力をしてきたが、理解してもらえず遺憾だ」と述べ、公務員の研修や採用試験の企画業務などを人事院に残すべきだという主張が受け入れられなかったことは納得できないという考えを強調しました。そのうえで、「人事院としては、今回の改革案は、国家公務員制度改革基本法の範囲を超えていると認識しており、きょう決定した工程表の方向で進めば、公務員人事行政の中立・公平性の確保という、憲法15条に由来する重要な機能が果たせなくなることなどを強く懸念している。この点については、今後、法律案の策定に向けて、引き続き意見交換をしていきたい」と述べました。

 リンクはこちらだが、NHKのニュースは更新が早く、すぐに見られなくなるだろうと思われる。


 言うまでもなく、公務員の人事制度の硬直性が減るのは歓迎すべきことである。これに対して人事院総裁が強硬に反対論を言っているようだが、政府の方針に反対する官僚は、官僚の本分に反しているわけだから、本来政府はこれを解任するのが筋である。もし制度的に解任ができないのなら、そのことこそが、公務員制度改革の必要性の証だと言えよう(数年前、田中真紀子外相と当時の外務事務次官が対立した時、事務次官が外相に、制度的にあなたには私は解任できない、という趣旨のことを言ったことが想起される)。


 しかし麻生首相には、人事院総裁の解任はできないだろう。彼は自分では何もできず、演説であれその他の政治的行為であれ、すべて官僚による振り付けがあって初めてできるのであり、官僚を敵に回すと、自分の無能さが全面的に露呈してしまうからである(今でも一部は露呈しているわけだが)。結局、自民党政権がこれまで公務員制度改革に踏み切れなかった理由は、まさにここにあるのではないだろうか。


 なお、人事院総裁は今回の改革への反対の理由として、「公務員人事行政の中立・公平性の確保という、憲法15条に由来する重要な機能が果たせなくなることなどを強く懸念している」ということを言っているようだが、これは全くのでたらめと言うほかない。中立・公平性に関して憲法15条に書かれているのは「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」ということだけであって、同じ条文の冒頭にはむしろ「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」とある。15条で念頭に置かれている「公務員」とは主として国会議員であるように思われるが、しかし人事院総裁が15条を自らの議論の根拠にするのなら、当然「罷免することは、国民固有の権利である」という部分もまた、行政府に属する公務員に妥当するのでなければならないだろう。


 公務員の労働基本権が制約されていることの代償として人事院がこれまで存在してきたということを私は知らないわけではないが、ILO勧告もあることであり、この際労働基本権を認める方向に舵を切ってよいのではなかろうか。そしてそれと同時に、今の形での人事院は廃止したほうが良いだろう。本ブログの過去記事で述べたように、公務員には、政策上の失敗等に関する責任をきちんと取ってもらうようにしなければならないから。


 この際ついでに書いておくと、以前に、公務員について触れた本ブログの記事に対するコメントの中で、「現実に人事院が公務員賃金のベースとして調査する民間の所得水準は従業員100人以上の事業所となっています」との指摘を受けたことがある。そこで、今回改めて記事を書くに当たってWikipediaで見てみたところ、より正確には従業員50人以上の事業所が調査対象となっているようである。しかし問題はここからで、Wikipedia情報によると、その比率は次のとおりだという(平成19年民間給与実態調査の場合)。
  500人以上、3,416事業所 78.9%を採用(全国 4,328社)
  100人以上、3,819事業所 19.8%を採用(全国 19,323社)
  50人以上、1,840事業所 13.8%を採用(全国 13,302社)
つまり、大規模事業所の割合が圧倒的に高いのであり、結果的に、人事院勧告のベースとなる「民間の所得水準」とやらは相当高いものになると言わざるをえない。公務員は国民の税金で禄を食んでいる(つまり、民間部門の生み出す所得に寄生している)と言ってよい存在であり、そういう部門がこのように(たかが知れているとはいえ)高給を貪る、そのための正当化を人事院という機構は担っているわけである。この一事を以てしても、現在の人事院は廃止が至当である。