中国の空母建造には抗議をすべき


 中国が国産空母を建造するという話は数日前からニュースになっていたが、どうやらそれが本格的に着手ということになるようである。末尾に朝日新聞の記事を掲げておくことにする。私は、軍事問題については全くの素人だが、しかしこのニュースについては一言書いておかなければならない必要を感じる。


 言うまでもなく、空母は本来、戦闘のための兵器である。兵器で戦闘用でない兵器はないではないかという反論もあるかもしれない。もちろんそのとおりなのだが、しかし例えば国内に設置する迎撃ミサイルは、純粋に戦闘用というよりはむしろ、攻撃に対処するための防御的な武器だと言ってよいのではなかろうか。そのように見た場合でも、空母は基本的に戦闘用の兵器である。例えば、領海を守るためだけならば、日本の海上保安庁が有するような装備で十分なはずであり、空母は必要ないのだから。


 では、中国が造ろうとする空母は、どこを攻撃するためのものか。基本的には、近隣諸国に対する攻撃能力の獲得を目的としていると考えざるをえない。ならば、日本がその中に含まれることは自明である。これだけでも、日本側が中国の空母建造に対して重大な懸念を表明するのに充分な理由だろうと私は思う。


 このように書くと、中国軍は米軍に対抗するために空母を造ろうとしているのではないか、そしてその米軍は日本に駐留しているのではないか、と指摘する向きもあるかもしれない。それはそのとおりだが、だからといって、中国が戦闘能力を高めることが是認されるだろうか。そうでないことは明らかである。また、では中国が空母を造るなら、日本はこれに対抗して在日米軍の規模を拡大するべきか。少なくとも私自身は、そういうことは言いたくない。今後は日本は自国で国防を行なうことをもっと進めるべきだと考えるからである。


 私がふだんよく見るブログは、政治家のブログであれその他のブログであれ、どちらかと言えばいわゆる左派ないしリベラルの立場のブログが多い。そして、そういうブログでは、今回の中国軍の動きが問題にされることはまず絶えてないようである。しかし、どう考えてもこれはおかしいと言わざるをえない。例えば、或る人が在日米軍の規模縮小を求めるのであれば、そのこと自体は当然、日本側の軍事力の低下をもたらすわけだが、そうであるならなおさら、中国軍が戦力を高める形で勢力の均衡を乱すのは、決して望ましくないことではないだろうか。中国軍の強化は、日本が(アメリカへの依存度を低めたとして)再軍備を進めようが進めまいが、いずれにせよ望ましくないことなのである。


 私自身は、今回のような話に対して日本側は、重大な懸念を表明するとともに、対抗して日本自体が空母を建造することも検討する、ぐらいのことは言ってよいと思うが、このような言い方に対しては、平和を愛する人々からは反感・批判があるだろう。しかしそのような人々であっても、中国が空母を建造することそれ自体に対しては批判を述べるのが筋ではないだろうか。言うべき時に言うべきことを言わずにただただ平和を唱えることは、それこそ悪い意味での平和ボケでしかない。


 言うまでもなく、最も情けないのは、こういう報道に対して日本政府が全く反応しないことであり、また(今の首相にせよ外相にせよ自らの見識はゼロだろうから、そういう連中の振付師たるべき)外務省が何も言えないことである。



 中国軍の国産空母建造を報じた朝日新聞の記事(リンク1リンク2)は以下のとおり(2ぺージの記事だが一続きに引用してある。また、記事中の識者のコメントは割愛した)。

中国、初の空母建造へ 来年着手、15年までに中型2隻
2008年12月30日3時1分


 【北京=峯村健司】中国軍が09年から、初の国産空母建造を上海で始め、2015年までに5万〜6万トン級の中型艦2隻の完成を目指す。複数の軍や造船会社の関係者が明らかにした。また、遼寧省の大連港に係留されている旧ソ連軍の空母ワリャーク(6万トン級)が近く改修を終えて訓練用に就航する見通しで、艦載機パイロットの養成も始まっている。


 最近、黄雪平・中国国防省報道官が建造に前向きな発言をしており、各国の関心が集まっていたが、計画の全容が明らかになるのは初めて。空母の配備で中国海軍の洋上戦闘能力が高まれば、東アジアの軍事バランスに大きな影響を与えるとみられる。


 中国軍は08年秋までに「大航空母艦計画」を作成し、海軍総司令部内に専門部署を設けた。原子力ではなく、通常推進型となる。広東省湛江に司令部を置き南シナ海を管轄する南海艦隊に配備される予定で、海南島三亜に専用の埠頭(ふとう)を建設している。艦載用にロシア製戦闘機スホイ33を約50機購入する。


 上海市当局者によると、上海市郊外の長江に浮かぶ長興島には、世界最大規模の造船基地が08年秋に完成した。4カ所ある大型ドックのうち1カ所が空母建造用。造船会社関係者の話では、電力制御システム関連の部品はロシアから輸入するほか、国内の軍事関連企業に発注した。これらの調達が順調なら空母の工期は2年短縮される。


 一方、大連港にあるワリャークは旧ソ連時代に7割ほど建造されたもので、98年にマカオの観光会社が買い取り、02年から海軍と関係が深い大連の造船会社が改修していた。電気系統のトラブルなどがあったが、このほど訓練用として完成のめどが立った。


 大連には、発着に高度な技術が求められる艦載機パイロットを養成する学校が設立された。07年からウクライナオデッサの海軍航空部隊トレーニングセンターで学んだ中国海軍幹部が講師となり、選抜された約50人を訓練している。ロシアなどからも講師を招いているという。


 海軍少将の一人は朝日新聞の取材に対し、中国の中東からの石油輸入が増えているためマラッカ海峡やインド洋のシーレーン防衛を空母の任務に想定していると明らかにしたうえで、「米国が保有するような10万トン近い大型空母ではなく、脅威にはあたらない」と強調した。