望まれるのは、テロリストに対する厳罰と、政策的失敗に対する公務員の責任の明確化


 元厚生省幹部官僚に対する凶行事件が続けて2件起きた。記事は末尾に引用しておくが、同一犯の可能性もあるのだろうか、警察は二つの事件の関連について調べているという。そもそも、官僚の住所の名簿などというものがどこで手に入るのか知らないので、関係者の可能性もあるのかもしれないが、いずれにせよ凶行、すなわちテロ行為であることは明らかである。仮に同一犯だとしたとすると、ひょっとして犯人は、昨今問題が多い厚労省の元役人を襲撃することで義賊でも気取っているつもりなのかもしれないが、もちろんそんな考えは全く通用しない。とんでもない話である。テロリズムに対する正しい対処法である警察による捜査が迅速に行なわれて、速やかに犯人が(同一犯であれ異なるのであれ)残らず逮捕されることを希望する次第である。


 但し、この凶行事件とは別に、つねづね思うことだが、公務員については、その立案になる政策が失敗に終わった場合に、当然ながら当の公務員は責任を取らされるようでなければならない。今回凶行の被害者となった元幹部官僚は、社会保険庁長官を務め、或いはそうでなくとも年金局長を務めるなど、今問題の年金問題に在職中深く関与していたようである。印象だが言わせてもらえるなら、ここ数年で年金の問題が明らかになるまでに厚労省或いは社会保険庁で指導的立場にあった官僚はみな犯罪者だ、と言いたいぐらいに、日本という国の年金制度はお粗末極まる。何しろ、書類の管理の不備だけでなく、国(の官庁)が主導して、年金の支払いをごまかすことすら行なわれていたのだから(いわゆる「消された年金」の問題)。ところが、問題が露呈した時に、謝るのは政治家だけで(しかも、大臣の月給の1か月返上といった具合で、極めて軽微な謝り方である)、当の政策立案・実施(=行政)に携わった官僚は何ら処罰されていない。2010年初頭に発足する予定の日本年金機構へは、社会保険庁の全員が就職できるわけではないという話があるが、そこで就職できない連中は健康保険関係の組織に就職することができるそうであり、結局皆再就職を果たせてしまうのだとか。これだけ甘やかしていては、官僚は悪さをし続けることをやめないだろう。


 責めを負うべき関係者たる公務員を解雇することができないところに、根本的な問題があると言わざるをえない。不始末をしでかした公務員にはきちんと責任をとらせるべきであり、その際最も重い措置として懲戒解雇が可能になるのでなければならない。


 例の航空自衛隊幕僚長がうまうまと退職金をもらう辞め方ができたのも、公務員に対する解雇の難しさが関係していると思われる。文民統制を全く理解していないああいう輩になぜ退職金など払ってよいものか。日本の公務員制度はめちゃくちゃだと言わざるをえない。これを改めずに日本の将来はないとすら言ってよいと思われる。


 付け加えると、私は一番の問題は国家公務員にあるとは思っていない。最も問題なのはむしろ地方公務員である。先般も新聞記事で、地方自治体が、公務員の退職金を捻出するために地方債を起債するなどということが述べられていた。今の地方自治体は残らず財政赤字をかかえているはずであるにもかかわらず、である。冗談ではない。民間企業なら退職金はカットないし全廃でも仕方ないような経営状態に、地方自治体はあるのではないか。全く以て公務員は甘ったれている。


 言うまでもないが、公務員制度の改革は、今の政府・与党すなわち自民党政権には全く期待できない。そのことは、これまでの歴史という事実が証明している。この点から見ても、政権交代は是が非でも必要なのである。


 凶行に関する朝日新聞の記事は以下のとおり(リンクはこちらこちら)。

元厚生次官夫妻、自宅で刺され死亡 さいたま
2008年11月18日16時6分

  
 18日午前10時20分ごろ、さいたま市南区別所2丁目の民家で、男女2人が上半身から血を流して倒れているのを、近所の人が見つけて110番通報した。浦和署員が駆けつけると、2人はすでに死亡していた。死亡したのはこの家に住む、元厚生事務次官の山口剛彦さん(66)と妻の美知子さん(61)で、同署は殺人事件とみて調べている。


 同署などによると、2人は玄関で仰向けに倒れており、2人とも服の上から胸の付近を刺されたとみられる。男性は玄関から部屋に上がるところで倒れており、女性は玄関の床に倒れていたという。同署は事件に巻き込まれたとみて調べている。男性はシャツにズボン姿。女性はスカートをはいていたという。玄関付近からは、凶器とみられるものは見つかっていないという。


 玄関のドア付近に血が流れていたため、近所の人が不審に思い、ドアをあけたところ、2人が倒れていたという。玄関は無施錠だった。山口さん宅は2人暮らしだったという。17日の午前中、2人を近所の人が見かけていたという。


 現場はJR武蔵浦和駅から徒歩5分ほどの閑静な住宅街。付近の住民によると、昔から住む人が多く、現場周辺は住民以外人通りの少ない場所だったという。


 山口さんは東京都の出身。65年4月に厚生省に入省。88年会計課長、92年年金局長、94年官房長、96年保険局長を歴任後、96年11月に事務次官に就任した。99年8月に同省を退任し、00年1月に社会福祉・医療事業団に入り、01年2月に同事業団理事長に就き、今年3月に辞職した。

元厚生次官宅2軒に襲撃 計3人死傷、関連を捜査
2008年11月18日22時3分


 18日午前10時20分ごろ、さいたま市南区別所2丁目、元厚生事務次官山口剛彦さん(66)の自宅で、山口さんと妻美知子さん(61)が上半身から血を流して死亡しているのが見つかった。一方、東京都中野区上鷺宮2丁目で同日夕、元厚生事務次官社会保険庁長官も歴任した吉原健二さん(76)宅に宅配便配達を装った男が侵入、妻靖子さん(72)を刺して逃走した。靖子さんは胸などを刺され重傷。警察当局は二つの事件の関連について調べている。


 埼玉県警は、山口さん夫妻の胸に刺し傷が数カ所あり、現場から凶器が見つかっていないことから、殺人事件とみて浦和署に捜査本部を設置した。捜査本部によると、夫妻は玄関の土間で仰向けに並ぶように倒れており、ともに胸に、服の上から刃物のようなもので刺された傷が数カ所あった。山口さんは腕などに犯人と争った際にできたとみられる傷があったという。血は玄関からドアの外まで流れ出ていた。他に室内には目立った血痕はなく、県警は玄関で殺害されたとみて調べている。また、室内を物色するなどした形跡がなく、怨恨(えんこん)による犯行の可能性もあるとみている。


 一方、元厚生事務次官の吉原さん方で18日午後6時半ごろ、宅配便の配達を装った男が、応対に出た靖子さんに刃物のようなもので切りつけた。靖子さんは左胸や腹などに傷を負った。警視庁は傷害容疑などで逃げた男の行方を追っている。


 野方署によると、靖子さんは数カ所を切られるなどしており、板橋区内の病院の集中治療室で手当てを受けている。搬送される際、意識はあったという。同署によると、吉原さん方を訪れた男が「宅急便です」と声をかけたため、妻が玄関のドアを開けたところ、男がいきなり切りかかった。


 吉原さん方は夫婦と息子の3人暮らしで、当時は靖子さんが1人で在宅していたという。


 男は30歳ぐらいとみられ、身長160センチくらいで中肉。野球帽をかぶっていたという。警視庁は緊急配備している。男はバイクを使っていたという情報がある。


 山口さんは東京都出身。65年4月に厚生省に入省。92年年金局長、96年保険局長を歴任後、96年11月に事務次官に就任した。99年8月に同省を退任し、00年1月に社会福祉・医療事業団に入り、01年2月に同事業団理事長に就き、今年3月に辞職した。


 吉原さんは55年に厚生省に入省し、84年に年金局長、86年6月から2年間、社会保険庁長官を務めた後、88年6月に事務次官に就き、90年6月に退任した。その後、93年9月から資金運用審議会委員。厚生年金事業振興団理事長も務めた。


 厚労省の幹部OBによれば、吉原さんは、山口さんが年金課長だった85〜86年当時に年金局長を務めた。2人は、基礎年金制度や、サラリーマンの妻も年金の被保険者となる仕組みを導入した年金改革に取り組んだ。


追記
 本ブログのこの記事に対するブックマークに「後半部分のような考え方がテロ行為に繋がることがわからんのかな」とのコメントが見られるが、全く見当はずれな批判だと言わざるをえない。公務員に対する適正な処置・処分が行なわれることこそが、社会の中でのありうべき不満を抑制することに資するのである。それに、仮に現状がそうなっていないとしても、だからといって今回のような凶行が是認されるわけでは決してない。本ブログのこの記事の後半部分の考え方が「テロ行為に繋がる」と考える考え方こそが、短絡的な危うい考え方だと評すべきである。


追記2(11月20日
 本文中で言及した退職金のための地方債に関する朝日新聞の記事を以下に掲げておく。

団塊公務員の退職金は借金頼み 44道府県4200億円
2008年11月14日3時0分


 団塊の世代が定年退職期を迎え、退職金を支払いきれなくなった自治体が借金に頼り始めている。今年度は都道府県のうち44道府県が借金を計画しており、総額は4200億円を超えることが朝日新聞の集計でわかった。借金が事実上解禁された2年前と比べて2.5倍という急増ぶりだ。退職金減額など身を削る動きは鈍く、安易に将来へツケを回す自治体の対応に批判も出ている。


 退職金のための借金は「退職手当債」。自治体が発行する地方債の一種で、もともとは定年前の早期退職を勧奨した公務員への退職金支払いに限って認められてきた。職員の大量退職時代を迎えたため、総務省地方財政法を改正し、06年度から定年退職者への支払いにも解禁した。


 05年度の退職手当債発行は、都道府県では岡山県の30億円だけだったが、06年度に33道府県、1709億円へ急拡大。07年度はさらに43道府県、3947億円に広がった。08年度は44道府県が計4284億円を予算に計上している。


 今年度の発行予定額が最も多いのは兵庫の395億円で、千葉の250億円、神奈川の226億円が続く。兵庫県は退職金総額のほぼ半分を退職手当債でまかなう予定だ。「阪神大震災の復興で発行した県債の返済負担が重いうえ、国と地方の三位一体改革地方交付税を減らされたため、やむを得ない」(財政課)と説明する。


 大阪府は、橋下徹知事が打ち出した「府債発行ゼロ」の原則を受けて今年度当初予算への計上を見送ったが、補正予算に185億円を盛り込んだ。


 発行を予定していないのは東京都と鳥取、島根両県。それぞれ「都税収入で賄える」(東京)、「退職者数が極端には増えていない」(鳥取)、「退職手当債発行に伴う返済は地方交付税で補填(ほてん)されず、なるべく避けたい」(島根)としている。


 総務省の統計では、都道府県職員の定年時退職金は平均で2700万〜2800万円台。地方公務員は民間企業と比べて定年まで勤める人が多く、退職金の支払額を見通しやすいが、支払いに備えた積み立てなどは義務づけられていない。


 総務省は「退職手当債の発行は、今後10年間の人件費削減によって元利返済の財源を確保できる範囲で許可している」と説明する。ただ、退職金の減額は求めていない。22府県は退職手当債の返済期間を最長30年としており、将来金利が上昇すると途中の借り換えなどで利払い負担が増え、返済総額が人件費の削減分を上回る可能性もある。(野沢哲也)


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 土居丈朗・慶応大准教授(財政学)の話 将来の世代は退職した公務員からは何の恩恵も受けないのに、税負担を迫られる。退職手当債は問題の多い借金だ。団塊世代の大量退職は以前から予測できたのに、備えてこなかった自治体や総務省の責任は大きい。民間企業のように、退職金の財源を毎年積み立てていく制度を早急に作る必要がある。