(最高裁で出される見込みの)全くおかしい有罪判決――立川のビラ配り訴訟


 まだ判決が出たわけではないが、慣例からして、以下に引用する朝日新聞の記事が「有罪判決が確定する見通し」と言っているのは、そのとおりなのだろうと思われる。

立川の市民団体ビラ配り訴訟、有罪確定へ
2008年03月21日15時10分


 東京都立川市防衛庁(現防衛省)宿舎で04年、自衛隊イラク派遣に反対するビラを配って3人が住居侵入罪に問われた事件で、最高裁第二小法廷(今井功裁判長)は21日までに、上告審判決を4月11日に言い渡すことを決めた。最高裁が結論を見直す際に必要な弁論を開いていないため、3人の上告が棄却され、罰金20万〜10万円の有罪とした二審・東京高裁判決が確定する見通しとなった。


 憲法21条が保障する「表現の自由」と、「住民が自らの平穏な生活を守る権利」との兼ね合いについて、最高裁がどう述べるかが上告審判決の焦点となる。


 一審・東京地裁八王子支部は「ビラ配布は憲法が保障する政治的表現活動の一つ」としたうえで、政治ビラの配布は民主主義社会の根幹を成し、「商業ビラより優越的な地位が認められている」と指摘。住居侵入罪の要件は満たしているが、刑事罰を科すほどの違法性はないとして3人に無罪を言い渡した。


 これに対して東京高裁は、出入り口に「関係者以外立ち入り禁止」との表示があったのに宿舎に入ったことや、過去に住民から抗議を受けた事実を重視。住民の被害が「極めて軽微」と判断した一審判決は誤りだとして、有罪と結論づけた。


 大洞(おおぼら)俊之被告(50)、大西章寛被告(34)、高田幸美被告(34)の3人は、いずれも市民団体「立川自衛隊監視テント村」のメンバー。自衛隊イラク派遣の是非が問題となっていた04年1月と2月の2回にわたり、「自衛隊イラク派兵反対!」などと書いたビラを宿舎の各戸の玄関にある新聞受けに入れようと、無断で敷地に入ったとして起訴された。2月の逮捕から5月の初公判後まで、75日間の長期にわたって勾留(こうりゅう)された。


 ビラ配りをめぐってはこの事件とは別に、東京都葛飾区のマンションで共産党のビラを配ったとして住居侵入罪で男性被告(60)が起訴され、一審・東京地裁で無罪、二審・東京高裁で罰金5万円の有罪となり、被告側が上告中だ。

 ということで、事実上有罪判決が出たものとして以下それを論評するが、一言で言えば、もちろん全くおかしい。本ブログでも、類似の事件(引用した記事の末尾で言及されている訴訟がそれ)の地裁判決と高裁判決の際にそれぞれ記事を書いているが(これこれ)、その中で述べたように、このようなケースで有罪判決が出されることは、憲法基本的人権にかかわる大問題である。特に、社会的正義をぎりぎりのところで支えているのは司法であるだけに、その司法(しかもその最終審たる最高裁)がこのような誤った判断を下すことは、実に由々しきことだと言わざるをえない。


 記事に「防衛庁(現防衛省)宿舎」とあるが、要するにこれは普通の集合住宅(特に、公団住宅のような形式)を指すのだろうと思われる。そのような集合住宅で「関係者以外立ち入り禁止」という看板が出ているのを見たことがあるが、このような表示は実に馬鹿げている。なぜかと言えば、(そのような集合住宅の様子を想像してもらえればわかるだろうが)そのような集合住宅の場合、郵便受けのところにたどりつくまでに敷地内に立ち入らざるをえず、既にその時点で立ち入り禁止に反した行動をしていることになる。つまり、くだんの看板が出ているそのような集合住宅においては、例えば新聞配達や郵便配達の人々は、日常的に住居侵入罪を犯していると言わざるをえなくなるのである。これがいかに馬鹿げているかは自明だろう。ゆえに、問題になっているような集合住宅で「関係者以外立ち入り禁止」という看板を出すことは、現実に全くそぐわないのである。


 こう言うと、新聞配達や郵便配達は別に住民から苦情が出る行為ではない、という反論があるかもしれない。しかし例えば、郵便配達で配られるものが、こちらの頼みもしなかったダイレクトメールばかりだったならどうだろうか。迷惑な郵便配達ということは充分ありうるのである。


 他方、新聞配達や郵便配達以外の配布であっても、それが有意義ないしは重要な配布である可能性ももちろんある。例えば、その地域で何か騒音を出す工事が行なわれて、その際にビラが配られる場合、そのビラ配りは、今回の裁判で問題とされた政治ビラと全く同じ配り方で実施されるだろう。住居侵入罪を言うのなら、そのようなビラ配りもまた違法であると言わざるをえなくなる。これもまた、どう考えてもおかしい。


 立川のビラ配り訴訟における特殊事情として挙げられるのはたぶん、唯一、ビラ配りを行なったのが活動家とされる人々だという点だろう。しかしこの点については、問題の集合住宅が防衛庁の宿舎という公的な性格の建物であることに鑑み、集合住宅の住人はビラ配りを受忍すべきであると私は思う。そして、もしも、配る人々が各戸ごとに配りに入ってくるのがいやであるのなら、本ブログの過去記事で指摘したように、建物の入口近くに集合的な郵便受けを設置してそこでビラを受け付ける、ないしは(集合住宅の住人の総意が明確ならば)その郵便受けにおいて「ビラお断り」と表示するようにし、そしてそこから先は「関係者以外立ち入り禁止」とやれば良いのである。


 住居侵入罪を主張するのなら、以上述べたようなことを踏まえて、集合的な郵便受けの設置などしかるべき配慮を行ない、その上で主張するべきである。新聞配達や郵便配達までが日常的に住居侵入罪を構成する行為をしていることになるのは、どう考えてもおかしいのであって、そのおかしさは、住人の側が措置を講じて解消するべきである。実効性を欠く「関係者以外立ち入り禁止」の看板を、看板があるからといってそれを警告の表示として重要視する今回の有罪判決は、現実を見ない書生論だと評さざるをえない。しかもそれが、表現の自由や政治活動を著しく委縮させる効果をもたらすのだから、今回の有罪判決の負の効果は重大である。実におかしい。


 最後に、上告棄却となる場合、単に当事者への通知によって棄却となるケースもあれば、今回の場合のように、棄却するが判決を言い渡すケースもあるらしい。有罪判決がおかしいのは言うまでもないが、上告棄却の判決の中でどのような判断が示されるか、なお注目を要する、ということは言っておかねばならない。