「チベット問題、対応苦慮する福田政権」――なぜ苦慮する必要があるか?


 今しがた目についた朝日新聞の記事の見出しをそのままタイトルに引用したわけだが、この記事で言われていることは全くおかしい。まず引用して、しかる後に批判を加えることとしたい。

チベット問題、対応苦慮する福田政権
2008年03月21日21時17分


 中国チベット自治区の騒乱をめぐり、福田政権が難しい対応を迫られている。福田首相は「日米同盟とアジア外交の共鳴」を掲げるが、「人権問題」に敏感な欧米諸国が中国政府を批判しており、双方の板挟みになる可能性がある。5月の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の来日を控え、中国製冷凍ギョーザによる中毒事件に続く難題。ただ、中国側が「内政問題」と主張している以上、日本側からは手を出せないのが実情だ。


 「(北京五輪について)フランス外相が言ったと聞いているが、そういう影響を与えない形で中国と関係の方が努力することが必要だ」。首相は21日、記者団に、フランス外相が北京五輪開会式のボイコットの可能性を示唆したことに触れつつ、日本としては一線を画す考えを示した。


 日本政府は、50を超す多くの民族を抱える中国政府は独立につながる民族運動には神経質にならざるをえないとみる。「(中国側が)絶対譲歩できない問題で攻めても日中関係が悪くなるだけ。安倍、福田両政権でようやく回復した関係を壊すべきではない」(政府関係者)との考えが強く、事態が沈静化するなら、ことを荒立てたくないというのが本音だ。


 首相は21日、胡主席の来日に関連して「必要なことがあれば意見を申し上げることもあるかも知れないが、状況次第だ」と記者団に語った。政府内には「日本は中国と相互依存関係にある。ギョーザ事件で、中国とはけんかできないことがはっきりしたのではないか」(外務省幹部)との見方もあり、首脳会談での扱いは難しそうだ。


 一方、政府は騒乱発生直後の15日、邦人保護のため在北京大使館員を現地に派遣しようと中国政府に打診したが「内政問題」を理由に拒否された。携帯電話での情報収集や帰国した旅行者から話を聞くなどして、実態把握に追われているが、首相周辺は「間接的な情報に頼らざるを得ず、状況がよく分からない」と困惑している。

 思うに、「難しい対応を迫られている」という見方の発信源はたぶん外務省だろう(記事を書いている記者が自らの見識で書いているとは思えない――今のメディアの記者には残念ながらそこまでの見識はないと断ぜざるをえない)。このことは、外務省幹部の見方として記事中に出てくる「ギョーザ事件で、中国とはけんかできないことがはっきりしたのではないか」という言葉からも裏打ちされる。


 しかし外務省のこのような考えこそが、実にくだらない、馬鹿な、哀れむべき、愚か極まる、愚にもつかない考えだと評さざるをえない(本当はもっと形容辞を書き連ねたいところだが、この程度にとどめておくことにする)。なぜ外務省はこういう阿呆な考えしかひねり出せないのだろうか。


 言うまでもないが、日本はチベット問題について、治安維持のためにどのような弾圧が行なわれているかに関心を持ってよいのであって、中国政府に対しても、「貴国のチベットで起きている事態に日本政府は注目しており、そこで人権に対する深刻な侵害がないかどうか、懸念を持って見守っている」ということをはっきり伝えるべきである。これに対して中国が不快感を表明するなら表明させればよい。そのような不快感表明は、中国という国の品位を下げることに貢献するだけである。


 外務省の馬鹿どもはわかっていないようなので付け加えておくと、日本は国際法的にもこのような立場を表明すべきなのである。なぜなら、我が国は最近、国際刑事裁判所ローマ規程に加盟したからである。改めて言うまでもないかもしれないが、国際刑事裁判所では、ウィキペディアの書き方によると「国際関心事である重大な犯罪について責任ある個人を訴追・処罰する」のだそうだが、その場合の個人とは(私の誤解でなければ)特に政府の指導者といった人々のことである。つまり、例えば或る国の政府が国内で深刻な人権侵害を、政府が有する権力を使って行なった場合、その人権侵害は本来国際刑事裁判所で裁かれるべき罪だ、ということである。そのような国際法的枠組みに日本は参加したのだから、当然ながら、今世界で起こっているそのような犯罪(を構成しうる事態)には日本政府は注目しなければならず、もし実際に犯罪が確認されたなら、それに対して日本政府はしかるべき対処をする必要があるはずなのである。


 外務省は本当に馬鹿ばっかりなので付け加えておくが、大国でない日本のような国の外交で最も必要なのは、筋の通った立場を貫くことである。それこそが、軍事力でごり押しできない(また、ごり押ししたくない)国にとっての最大の防御を成すのである。アメリカにこびへつらい、中国のやり方を見て右顧左眄するようでは、日本は名誉ある地位を国際社会において占めることは決してできないだろう。わかってんのかね、外務省の馬鹿どもは。