こういう商品はインチキなのではないか?――或るインクカートリッジの場合


 おかしなことをおかしいと言わないでいると、社会がろくでもないことになるのではないか。或るインクカートリッジの使用をめぐって、最近こういうことを思わせられたので、書いておくことにする。


 少し前からエプソンのプリンタを使用しているが、ふつう黒のインクしか使わない。にもかかわらず、カラーインクの残量がどんどん減っていき、このほどなくなってしまった。そして、おかしなことに、黒インクだけを使った印刷を行なう場合でも、カラーインクがなくなっている状態では、印刷ができないのである。他にどうしようもなく、仕方なく新たなカラーインクカートリッジを装着して、黒インクだけを使う印刷を行なった。


 しかし、何をどう考えてみても、これはあまりにもおかしな話である。カラーインクを使っていないのに、どうして使わないインクがどんどん減っていくのだろうか。こう思い、エプソンに問い合わせのメールを送ってみた。(と言っても、このメールを送るのも一苦労だった。製品に関する問い合わせ・苦情を受け付けるような窓口・e-mailアドレスは同社のWebサイト中のどこにも表示されていないのである。そこでどうしたかについては、ご想像に任せることにする。)


 すると、次のような返事が返ってきた。以下に掲載して、読者諸氏の参考に供したく思うが、当方に言わせるなら、要するに以下の返事では、黒インクだけ使おうとしてもカラーインクも消費されることについて、ぐだぐだ弁解が述べられているとしか言いようがない。そして言うまでもないが、カラーインクが消費されるのは、カラーインクのほうが値段が高く、メーカー側にとってコストパフォーマンスが良いからということなのだろうが、使いたくもないカラーインクが勝手に消費されて、そのために金を払わなければならなくなるというのは、どう考えてもおかしい。はっきり言ってぼったくりである。

From: esupport@i-love-epson.co.jp  To:(当方のアドレス)


お客様


 平素、弊社製品をご愛用いただきまして、誠にありがとうございます。
 「MyEPSON」E-mailサポートセンター××よりご案内申し上げます。


 お問い合わせいただきました件でございますが、(機種名)を含む、その他弊社プリンタでは、印刷以外にも以下の場合にインクが消費されます。


 ■印刷以外でのインク消費について
 弊社プリンタでは、ノズルの状態を良好に保つために印刷以外にも以下の動作時に すべてのインクが消費されます。
 1. インクカートリッジの交換時、充てん動作が行われます。その際、多少インクが消費されます。
 2. ノズルチェック、ヘッドクリーニングを行った際にインクが消費されます。目詰まりを起こしているかを確認するためのノズルチェックでも全色のインクを使用します。また、目詰まりが発生した場合に実行するクリーニングでも全色のインクを使用します。
 3. プリントヘッドの乾燥によるノズルの目詰まりを防止するために、クリーニングを自動で行うセルフクリーニング機能により下記動作時にすべてのインクを微量吐出して、ノズルの乾燥を防いでいます。
 ・プリンタの電源を投入した時
 ・印刷を開始する時
 ・プリンタの使用期間や電源を投入する期間が開いた時


 ■クリーニング時に全色のインクを同時に使用する理由
 プリントヘッドのノズルにインクが詰まるとインクが出なくなったり、かすれたり等印刷が正常に行われない場合があります。黒のみ印刷をしていても、ある日突然カラー印刷をする場合に、正常にインクが出ないということでは、プリンタの性能をフルに発揮できない結果となります。そのため、常に安定して正常な動作を行うため、一色のヘッドだけをクリーニングするのではなく、全色のヘッドをクリーニングする仕組みとなっております。ヘッドクリーニングの重要性ならびに、それに伴いますインクの消費につきましては、なにとぞご理解くださいますようお願い申し上げます。


 また、クリーニング動作において全色のインクが必要なため、一色でも限界値以下になった場合、または、インクを装着しない状態での印刷はできない仕様となっております。なにとぞ、ご理解賜りますようお願い申し上げます。


 上記の理由により、黒色のみの印刷を行っている場合につきましても、カラーインクも消費されるため、インク残量が少なくなります。また、上記につきましては、誠に申し訳ございませんが、お使いいただいております(機種名)を含めたその他弊社プリンタにおきまして共通の仕様でございます。お客様にはご心配をおかけいたしまして誠に申し訳ございませんが、ご了承の上、ご容赦賜りますようお願い申し上げます。


 なお、インクの消費量につきましては、弊社といたしましてもお客様の視点に立った製品の開発という観点から重要視しており、インク消費の削減を実現させるべく現在も開発・改良に取り組んでおります。 お客様のコストパフォーマンスへの不安を解消し、よりご満足いただける製品をご提供できるよう、引き続き精一杯取り組んでまいる所存でございます。今後とも、弊社製品の変わらぬご愛顧のほど、心よりお願い申し上げます。

 ついでに言っておくが、プリンタ関係で目に余るのはエプソンだけではない。以前HP(ヒューレットパッカード)のプリンタを使ったこともあるが、こちらはこちらで、インクカートリッジが馬鹿馬鹿しく高価である。以前に新聞のビジネス欄か何かで、「HPはプリンタ本体の値段は安くして、カートリッジなどのランニングコストのほうで収益を上げるといううまいビジネスモデルを構築している」とか何とかいうような記事を目にしたことがあるが、消費者の立場から言わせればこれはとんでもないビジネスモデルである。ものの値段というものは、そのもののもたらす価値(昔学んだマルクス経済学流に言えば、使用価値)に即して設定されるべきものであり、さもなければその値段は独占的な(つまり、不当に高い)価格だと評さざるをえない。


 こんな場末のブログで気炎を上げたところで仕方ないかもしれないが、しかし言わないでおくわけにはいかない。おかしいことはおかしいと言わないと、社会が悪くなる。非常に強くそういう気にさせられた一件だった。