日韓関係の大幅な改善のチャンス――李明博氏、韓国大統領に就任


 数日前のニュースだが、その重要性に鑑みここで取り上げておきたい。まず、李明博氏の韓国大統領就任を報じた朝日新聞の記事は以下のとおり。

李明博氏、韓国大統領に就任 経済再生を最重点課題に
2008年02月25日15時02分


 韓国の新大統領に25日、李明博(イ・ミョンバク)氏(66)が就任した。李氏は同日午前11時(日本時間同)から、ソウルの国会議事堂前広場での就任式で、「今年は建国60周年であり、韓国先進化の元年とする」と宣言し、経済再生を最重点課題に据えた。米韓同盟や日本などアジア諸国との関係を重視する考えを強調。北朝鮮には改めて核の放棄と社会の開放を呼びかけた。


 李氏は25日午後、就任式に出席した福田首相と初の首脳会談に臨む。「日韓新時代の幕開け」をうたい、首脳シャトル外交の復活や経済連携協定(EPA)交渉再開で合意する見通しだ。ライス米国務長官とも会談し、北朝鮮核問題などについて意見交換する。


 就任演説で李氏は、「米国との伝統的友好関係を未来志向の同盟関係に発展させる」「アジア国家との連帯も強化する」と主張。日中ロ3カ国の名前を挙げて「等しく協力関係を強化し、東アジアの平和と共同繁栄を模索する」とも述べ、日米との関係強化を警戒する中ロ両国に配慮をみせた。また、「人類普遍の価値を具体化する」として、国連平和維持活動(PKO)や途上国援助(ODA)への取り組みを強化する考えも示した。


 北朝鮮に対しては「統一は(南北合わせた)7000万国民の念願だ。南北関係をより生産的に発展させなければならない」と強調。核放棄と社会開放を条件に、「北の1人あたり国民所得を10年間で3000ドル(約32万円)に引き上げる」とした公約を改めて紹介した。


 南北首脳会談にいつでも応じる考えを示したが、太陽政策を基礎に南北関係を最重視した盧武鉉ノ・ムヒョン)・前政権よりも、支援の透明性を重視する姿勢をとる。北朝鮮住民の人権問題や韓国人拉致など、人道問題も積極的に取り上げる考えを繰り返し表明してきた。


 北朝鮮の公式メディアは李氏の大統領就任についてこれまで報じていない。朝鮮中央通信によると、25日付の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は「我が民族同士は、自主統一の基地」と題した論説を掲載した。


 財閥系企業の社長も務め、「CEO(最高経営責任者)大統領を目指す」と訴えて当選した李氏は、中央省庁を18省から15省体制に統廃合するなど「小さな政府」を目指す。就任演説でも「理念の時代を乗り越え、実用の時代に進まなければならない」と語った。また、「経済再生が何よりも急がれる」と語るとともに、「漢江の奇跡を超え、韓(朝鮮)半島の新たな神話に向かって我々全員が一緒に進もう」と呼びかけた。


 就任式には海外からの招待客や一般市民ら約6万人が参加。日本からは福田首相のほか、中曽根康弘森喜朗両元首相も出席した。


 言うまでもないが、外交における関係改善は何よりもまず自国の利益を増進するためにするのでなければならない。日本における最悪の機関と言ってよい外務省が米国の利益を増進することのみを心がけているのとは真反対に、である。そしてその意味で、今は日韓関係の大幅な改善のチャンスだと言っているのである。


 より具体的に言うなら、日本は今後アジア諸国との関係をさらに深めていくことが否応なく求められる。これは良いか悪いかの問題ではなく、物事の趨勢である。それだけでなく、アメリカも、たぶん次の政権(私は、民主党オバマが次期大統領になるだろうと予想しているが)ではさらに中国との関係深化を図るだろうと思われる。そうなってくると、ただでさえ東アジアにおける中国の存在感は大きいのに、加えて場合によっては、中国の立場にアメリカが理解を示し、以て中国と対立する日本に対して不利な動きをすることも充分考えられる。
(なお、私は何も日本と中国の関係を対立一辺倒で理解しようとしているのではない。もちろん、日中関係もまた友好的・良好な関係であることが当然望ましいのだが、しかし、このほど問題となっている農薬混入をめぐる一件からも明らかなように、両国の間ではいろいろな問題が生じうる。そして、今回の農薬混入をめぐる問題でもそうだが、日本側があくまで原理原則を通して中国と対立するほうが、長期的に見て日中関係にプラスになる、つまり長期的視野での関係深化のためには短期的な対立がむしろあったほうがよいということは、充分ありうるのである。ここで念頭に置いている中国との対立とは、こういった次元での対立のことである。)


 例えば日本と中国が対立する場合、もちろん単独でも日本は、主張すべき点は主張すべきだろう。しかし、そのような場合に共闘できる国がほかにあるなら、そのような国と共闘して主張するほうが、当然ながら主張の迫力は増すことになる。そのような国になりうる第1の候補が韓国なのではないだろうか。日本と同様韓国にも資源がなく、また、韓国も食料自給率が低い。様々な点で日本と利害が共通する。その意味で、元来韓国とは共闘関係を構築するほうが日本にとってメリットが大きいのである。


 加えて、極めて重要なことだが、今回の李新大統領ははっきり日本との関係を優先事項としている。ぼんくらの福田首相を大統領就任後最初の賓客として迎えたこと、また、外務大臣として駐日大使(にして米国通)の柳氏を選んだことなどに、この点ははっきりと見てとれる。(盧前大統領はそうでなく、大変遺憾なことに、不人気の際には日本批判で人気浮揚を図ることをしばしば行なった。)


 日本はこの新大統領のもとでの韓国と関係改善に努めるべきである。そしてそれは、米国追従と言われて久しい(最悪の外務省が主導する)日本外交を独立独歩のものへと変えていく大きなステップとなると期待される。


追記(3月2日)
 昨日のニュースで、日韓関係改善に対する李新大統領の決意が揺るがないものであることがさらに明らかとなった。朝日新聞の関連する記事を以下に掲げておくことにする。

「日韓は未来志向関係で」 李大統領が独立運動記念演説
2008年03月01日10時50分


 韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は1日、日本の植民地支配からの解放を求めて1919年に起きた独立運動「3・1運動」の89周年にあたり、ソウル市内で演説した。大統領は「韓国も日本も、実用の姿勢で未来志向的な関係を作らなければならない」と主張。歴史認識問題で対日批判を繰り返した盧武鉉ノ・ムヒョン)前政権からの様変わりを印象づけた。


 李大統領は日本に対して「歴史の真実から顔を背けてはならない」と指摘する一方で、「いつまでも過去に縛られ、未来に進むことを遅らせるわけにはいかない」と語った。盧前大統領が記念演説でたびたび触れた靖国神社参拝や竹島(韓国名・独島(トクト))領有権問題などの具体的な懸案には一切言及しなかった。


 歴史の清算を掲げ、韓国の保守と進歩両勢力間に摩擦を起こした前政権との差別化をねらったとみられる。演説も「新しい成功神話をつくっていこう」と題し、「過去の暗い面ばかりを見ず、明るい面を受け継いで発展させるべきだ」「足踏みばかりしていられない」などと語った。


 そのうえで、「政府は3・1精神を先進一流国家建設の指標とする」と強調。「偏狭な民族主義ではなく、国際社会と共に生きる開かれた民族主義を目指していこう」と訴えた。


 南北関係についても「民族内部の問題であると同時に国際的な問題」と位置づけ、「より広い視点で解決の方法を見つけなければならない」と説明。北朝鮮の核問題の解決にあたり、6者協議の枠組みを重視する姿勢を改めて強調した。