食の安全を言うのなら――米国産狂牛病肉の問題


 今日のニュースはイージス艦が漁船に衝突した事件で占められた感がある。漁船乗組員の安否が気遣われるので、まずは人命救助、そしてしかるべく原因究明などが行なわれるべきことは改めて言うまでもない。


 ただ、これは持続的な影響を有する問題とは思われない。持続的影響ということに鑑みるなら、重要な問題は他にもあり、否むしろ他にこそあり、そちらがおろそかにされてはならないと思うのだが、報道ではそうはなっていないようである。


 例えば朝日新聞次の記事だが、同紙の紙面では2月18日の夕刊2面にごく小さな記事として載っていた。

6万5千トンの牛肉回収 歩行困難な牛、食用に 米国
2008年02月18日11時40分


 米農務省は17日、歩行が困難な牛が食用に処理されていた疑いがあるとして、カリフォルニア州の食肉処理会社「ウエストランド・ホールマーク・ミート・パッキング」が過去2年間に出荷していた食用肉1億4300万ポンド(約6万5千トン)を回収するよう命じた、と発表した。米国での牛肉の回収としては最大規模という。


 歩行困難な牛は牛海綿状脳症(BSE)感染の兆候とされ、米国内でも食用が禁じられている。ウエストランド社はこの規定に違反し、出荷していた疑い。一部は小学校の給食用にも出回っていたという。同社で06年2月以降に出荷した製品すべてを回収する。


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 農林水産省は「問題の会社は日本に輸出できる指定工場ではない。処理された肉は日本には入ってきていない」(動物衛生課)としている。

しかし、仮に農水省のコメントが100%信頼に値するとしても、現在、日本はアメリカとの間で米国産牛肉の輸入解禁をめぐって交渉を行なっているはずであり、私の記憶違いでなければ、月齢30ヶ月以下の牛肉に制限するという日本側の主張に対してアメリカは全面解禁を主張していたはずである。米国産牛肉の安全性に問題があることを証明しているこの記事は、日本人の食生活に対して大きな影響を有する内容を持っているのであり、本来、新聞の1面で(トップ記事でないとしても)大きく扱われるべきなのではあるまいか。また、当然ながら、政府はこの問題をもっと深刻に受け止め、上記記事に見られるコメント(このコメントは、記者の側の質問に対する回答程度のものでしかないだろう)以上の何らかのコメントを出してしかるべきではあるまいか。


 付け加えるなら、NHKのニュースでは、私の知る限りでは、今朝のBS1のニュースの枠内の後のほうで(つまり、大して重要度の高くないニュースとして)報じられていたにすぎなかった。要するに、朝日新聞だけの問題ではない、ということである。


 この記事のこのような扱いからわかるのは、記事の価値の評価についても、メディアの言うところは必ずしも信頼に値しない、情報の受け手である我々自身がニュースの価値についても判断を下せるようでなければならない、ということだろう。


追記
 本ブログの先日の記事で、道路特定財源問題に関する朝日新聞の記事を批判することを書いたが、その時に紹介した民主党の馬淵議員の質疑に触れた記事がようやく朝日新聞に出てきた。但し、普通の記事としてではなく、奇妙なことに、社説としてである。備忘のために末尾に引用しておくが、いかにも遅すぎではないだろうか。とはいえしかし、全く取り上げないよりはずっと良いのであって、国会でのこういう真面目な追及を、新聞などメディアはもっともっと報道するべきである(大阪府知事となったタレントの朝令暮改式の実にくだらない言動になどつき合う暇があるのなら)。


 くだんの社説(題は「「道路」論戦―「59兆円」の根拠が崩れた」)は以下のとおり。

「道路」論戦―「59兆円」の根拠が崩れた
 租税特別措置法の改正案がきょう審議入りする。焦点はガソリン税などの道路特定財源の扱いだ。これまでは与野党論戦のテーマになりにくかったが、「ねじれ国会」で大きな争点に浮上した。


 特定財源という硬直的な仕組みをなぜ維持するのか。まず一般財源化し、その中から必要な道路を造るというやり方ではどうしてダメなのか。今後、10年間で59兆円もの巨費を道路につぎ込むことの根拠と必要性がどこにあるのか。


 民主党が当初仕掛けた「ガソリン値下げ」にとどまらず、議論の土俵が広がってきたことは確かだ。与野党はさらに論点を掘り下げ、国民が納得できる修正案を練り上げねばならない。


 残された時間は少ない。3月末までに結論が出なければ、ガソリンの値段が変動するなど国民生活に影響しかねない。「つなぎ法案」を受けた衆参両院議長のあっせんで、各党が「年度内に一定の結論を得る」ことで合意したのも、そうした混乱を防ぐためだったはずだ。


 それなのに、与野党ともに打開に向けた機運が見えないのはどうしたことか。あっせん合意に盛られた「立法府での修正」に向けて、与野党はそれぞれ一歩ずつ前に踏み出すべき時である。


 政府・与党に求めたいのは、野党から指摘された疑問について、資料の開示を含めて誠実にこたえる姿勢だ。


 これまでの論戦を聞く限り、政府の説明には納得しがたい点が少なくない。


 国土交通省が「10年で59兆円」の道路整備計画をつくる際、99年の交通量の調査結果を使っていたことが民主党の指摘で分かった。05年の調査では交通量の減少傾向が鮮明なのだが、冬柴国交相はそのことを知らなかったという。計画の前提が崩れているのではないか。


 そもそも政府の計画は、21年も前の「高速道路1万4000キロ」のままだ。人口が減り、国の借金が膨れあがっているのに、同じ数字にこだわるのはおかしい。


 カラオケセットや野球用具、マッサージチェア国交省による道路特定財源の乱用が続々と判明した。こうした勝手なことがまかり通ってきたのも、国会のチェックを受けにくい特別会計という仕組みを温存してきたからこそだ。


 民主党道路特定財源一般財源化し、暫定税率をなくすというのなら、法案の形で早く国会に出すことだ。


 民主党の議員が答弁席で「わが党ならこう変える」ともうひとつの選択肢をはっきりと語る。そうなって初めて、政府・与党に修正を迫ることができる。


 先の臨時国会民主党は、給油新法をめぐる対案の提出をぎりぎりまで引き延ばしたあげく、なんの修正も勝ち取れぬまま衆院での再議決を許した。その二の舞いを演じることになったとしたら、参院第1党の名が泣くことになる。


 「ねじれ国会」をどう前に進めるか。そろそろ知恵を絞らなければ、与野党とも国民の失望を買うだけだ。