沖縄戦「集団自決」に関する教科書検定問題――その後の動き


 標記の問題に関して、ここへ来て若干の動きがあったようである。すなわち、朝日新聞の記事は次のように伝えている。

沖縄戦集団自決「多様な要因」 教科書問題で審議会
2007年12月07日


 沖縄戦の「集団自決」をめぐる高校の教科書検定問題で、教科用図書検定調査審議会文部科学相の諮問機関)が「集団自決は多様な要因で起きている」という考え方をまとめ、文科省を通じて教科書会社各社に伝えていたことがわかった。また、文科省は各社に記述の根拠の説明を求めており、教科書会社によってはより詳しく書き込んだ上で、改めて訂正を申請する方針という。


 この問題では6社が訂正申請を済ませた。これを受け、検定審の日本史小委員会は沖縄戦軍事史の専門家から意見をきいている。その結果、「沖縄戦の実態について誤解するおそれがある」という当初の検定意見は維持する一方、「軍官民一体となった沖縄戦で、集団自決は多様な要因によって起きた」という趣旨の意見をまとめ、こうした事情も記すよう求めているという。

 この記事はひょっとすると毎日新聞の次の記事の後追いかもしれない。これも引用しておくと、

教科書検定:集団自決問題 「集団自決の背景は多様」 検定審が意向
 沖縄戦の集団自決をめぐる教科書検定問題で、文部科学相の諮問機関・教科用図書検定調査審議会が複数の教科書会社に対し、「集団自決は多様な背景、要因がある」という検定審議会の考え方を伝えていることが6日、関係者の話で分かった。教科書会社側は同趣旨の記述をすることが必要と受け止めており、一部では訂正内容の記述を見直す会社も出ている。


 関係者によると、検定審議会は文科省を通し、複数の教科書会社に記述の根拠や趣旨の確認作業を行っており、その際、検定審議会の考え方も口頭で伝えたという。


 訂正申請をしている教科書会社の執筆者は「内容を詳しく書き換える。だが、(日本軍の強制性を明示する)趣旨は変わらない」と話している。【高山純二】


毎日新聞 2007年12月7日 東京朝刊

 同じニュースをNHKは、「検定方針に変わりはない」という形、つまり政府寄りのスタンスで報じている。その記事(リンクはこれこれ)も引用しておくと、

“集団自決 命令の資料ない”

 高校の日本史の教科書検定沖縄戦の集団自決に日本軍が直接関与したとする記述が削除された問題で、文部科学省の審議会が「集団自決に関して日本軍の命令を示す資料は見つかっていない」とする指針をあらためてまとめていたことが明らかになりました。


 この問題は、来年4月から高校で使われる日本史の教科書の検定で、沖縄戦で起きた集団自決に関する記述から日本軍の直接的な関与が削除されたものです。これに対して、沖縄県で反発が強まり、文部科学省が教科書の記述の修正を認める方針を示したことから、これに促される形で集団自決について記述した6つの教科書会社すべてが記述の修正を求める訂正申請という手続きをとりました。申請された記述は多くが日本軍の関与をこれまでより強める形になっていて、文部科学省教科書検定審査会を開き、沖縄戦の専門家などから意見を聞くなどして申請された記述を認めるかどうか審議を進めています。その結果、審議会が「集団自決は日本軍など軍・官・民が一体となった複合的な要因で起きた」とする一方で、これまでどおり「今のところ日本軍の命令を示す資料は見つかっていない」などとする指針をまとめ、文部科学省を通じて教科書会社に伝えていたことが明らかになりました。これを受けて、教科書会社は、集団自決に至る背景などを詳細に書き込んだうえで日本軍の関与についての表現を考慮した記述に修正してあらためて申請を行う方針です。12月7日 4時33分


 この問題については本ブログの過去記事でも多少は言及しているが、しかるべく詳細に扱ってきたとは言えない。そこで、少し事実をまとめておくことにする。


 沖縄戦における「集団自決」に関する教科書の記述の中から、軍による強制を記した記述を一切排除しようとする検定結果が出されたのは2007年3月末である。これに関して、文部科学省のWebサイトにある「教科用図書検定調査審議会 総会(18年度第1回)議事録」(この「総会」は3月30日に行なわれている)から関連部分を引用しておくと次のとおり。

「日本史」では、近・現代史を中心として、南京事件の犠牲者数、沖縄戦の実態などの記述について、現在の学説状況に照らして、修正を求めました。また国旗・国歌問題、イラク戦争などに関しても、事実関係に即した記述への修正を求めました。

 検定意見がこの時に変更された事情については、本ブログの過去記事民主党の川内議員の話として紹介したとおりだが、過去記事を一々見ない読者も多いだろうから(大部分の読者はそうだろう)、ここで繰り返しておくと、検定の方針を示すものである調査意見書を作成する教科書調査官(官僚)が、日本軍による強制を記した記述を教科書の中から一切排除すべきだとする調査意見書をまとめ、そしてそのような内容の意見書が、専門家を委員とする教科用図書検定調査審議会の場で、沖縄戦の問題に関して(異論はおろか)何らの発言もないままに承認され、そしてあのような検定意見となった、ということのようである。つまり、文部官僚自身が教科書検定を曲げたのである。


 この時の教科書調査官が誰だったかは、その後明らかになった。すなわち、「衆議院議員赤嶺政賢君提出沖縄戦の強制集団死(「集団自決」)をめぐる文部科学省の検定意見に関する質問に対する答弁書」によると、日本史担当の教科書調査官が誰だったかについては

日本史を担当する者の氏名は、高橋秀樹、照沼康孝、三谷芳幸及び村瀬信一である。

とある。このうち、近現代史を専門としているのは照沼康孝と村瀬信一であり、2人とも伊藤隆(「つくる会」歴史教科書の執筆者の1人)の指導を大学院で受けたとのことである。主としてこの2人が検定歪曲にかかわっていたのだろうと推測される。


 この問題は4月上旬から新聞紙上で取り上げられており、それに合わせて国会審議でも話題とされている。そのような国会審議の例として民主党菅直人氏と安倍首相(当時)及び伊吹文科相(当時)のやりとりを、本ブログでは過去に記事として載せて論評を加えている。この記事を見てもらえば、今回の検定の詭弁がどこにあるかは明白だろうと思うが、一々見ない読者も多いだろうから(大部分の読者はそうだろう)、ここで繰り返しておくと、


(書きかけ)