アメリカの対イラク政策への支援継続に異議あり

 以前に本ブログでは、まがまがしきチェイニー米副大統領の来日に対して反歓迎の意を表しておいたが、残念ながらチェイニーは日本に来てしまった。世界政治の鼻つまみ者が日本政治の鼻つまみ者と会談をして、何の良いことが出てくるはずもないが一応、というよりむしろ、何も良いことが出てこないからこそ是が非でも、その会談について伝える記事に言及しておかなければならない。


アサヒ・コムイラク・北朝鮮で連携確認 安倍・チェイニー会談

 安倍首相は21日、来日中のチェイニー米副大統領と首相官邸で会談した。北朝鮮の核問題をめぐる6者協議で今後も日米が連携することを確認したのに加え、副大統領は「日本の拉致被害者の悲劇の解決も共通の課題だ」と述べ、拉致問題で日本に協力する姿勢も強調した。また自衛隊イラクやインド洋派遣など、米国が続ける「テロとの戦い」に対する日本からの協力を評価した。首相は今後も支援を続ける姿勢を示した。


 首相は会談冒頭、「日米は価値観を共有するパートナーだ。両国の同盟は揺るぎなく、かけがえのない関係で、アジアと世界のための日米同盟になっている」と述べた。副大統領は「地球規模のテロとの戦いは重要だ」と応じ、イラクへの米軍増派に理解を求めた。


 北朝鮮の核問題について副大統領は「日本は6者協議で米国の重要なパートナーだった」と述べた。首相が拉致問題の重大さを強調したのに対し、副大統領は「深い理解」を示したという。拉致問題の進展がなければエネルギー支援に応じないとの日本の方針に理解を示したとみられる。(以下略)

 先に言及した本ブログの記事の冒頭でも書いたように、今の日本の世論は戦争の危険に対して実に鈍感きわまりなく、今引用した記事の中にどれほど危険な要素が含まれているかについても、主要メディアからまともな論評が出てくることは、残念ながらまず期待できない。素人仕事ではあるが、あえて本ブログ自身が論評を試みる所以である。


 まず、日米同盟という言い方自体、日本とアメリカを軍事的に対等の立場に置いているかのごとき、誤解誘発的な言い方であり、厳しく批判されなければならない。日米同盟などという言葉をメディアは流行らせてはならないのである。


 次に、日米安保の体制が「アジアと世界のための日米同盟になっている」だって? 冗談ではない。日米安保条約はあくまでも日本の国防のためにある条約であり、そのために協力を提供する米国に対して見返りとして日本は米軍に対して基地の場所及び「思いやり予算」を提供している−−日米安保の体制とは基本的にこのようなものでしかない。「世界のための」日米安保体制など、あってはならない話なのである。


 それにそもそも、もし日米安保の体制が既に「アジアと世界のための日米同盟になっている」のなら、阿呆の安倍が日ごろひとつ覚えで繰り返している「戦後レジームの見直し」(この言い方がいかに安倍の阿呆さ加減を露呈したものかについては、本ブログのこの記事を参照)など、全く必要ないではないか。日米安保体制に関する目茶苦茶な理解を示した上に、自分の考えの論理的矛盾にすら気がついていない。日本国の現首相は、全くどうしようもない阿呆である。


 次に、まがまがしきチェイニーが言っている「地球規模のテロとの戦いは重要だ」という言葉。この言葉には、今の世界情勢をかくも混乱した状態に陥れた徹頭徹尾誤った理念が含まれている。言うまでもなく、それは「テロとの戦い(war on terrorism 或いは war against terror)」である。どのような武器を使おうとも、テロリスト集団は国家組織を成していないのだから、彼らがやる殺戮等々は犯罪として取り扱われるべきであり、テロリストは犯罪者として取り締まりの対象とされるべきである。そうでなくテロリストに対して軍事組織が、具体的に言えばイラクでは米軍が、立ち向かうものだから、テロリスト側には奇妙な正統性(侵略勢力からイラクを解放する解放の闘士、といったような)が付与されることになってしまっている。これは実に由々しき誤りである。


 そして一番の問題は、まがまがしきチェイニーが「イラクへの米軍増派に理解を求めた」のに対して、記事によれば、ひとつ覚えの安倍が「今後も支援を続ける姿勢を示した」というやりとりにある。安倍はアメリカの対イラク政策への支援を継続したいというのだ。冗談ではない。全く冗談ではない。


 安倍は知っているのだろうか、今やイギリスですら、部分的撤退をほどなく始めようとしていることを。また、同様にイラクに兵力を派遣してきたデンマークも撤退を宣言している。例えばDie Zeit紙のこの記事でそのあたりの事情が述べられている。


 久間防衛相が言うように、アメリカが対イラク軍事攻撃を行なったのは全くの誤りだったのであり、これは今や世界的に公知の事実である。日本がこれに賛成するべき理由は今や全くなく、いつまでもアメリカ追従を続けると、イラクの人々から日本はむしろ憎悪を受けることになりかねない(今でも既にそうなっているかもしれない)。


 イラク復興を支援するというのであっても、ともかくアメリカ主導の現在の体制に対してはけじめをつけるべく、自衛隊は派遣延長を行なわずに撤退させなければならない。しかる後に、アメリカが過ちを認めるように日本は努力するべきであり、さらに国際社会全体がイラク問題に関与する枠組みを考えるべきである。イラク復興支援に復帰するのはそれからで良い。


 最後に拉致問題については、強硬姿勢を続けていても日本は手詰まりに陥るだけであり、現に陥っている。拉致被害者の家族が本当に一日も早く家族と再会したいのなら、するべきはむしろ、北朝鮮と国交正常化をして北朝鮮との往来を可能にすることだろうと、私などには思われるのだが。いわゆる横田夫妻らの活動は、彼らの真の目的が家族との再会にはないことを示しているように思われてならない(既に自分たちの家族は死亡しており、北朝鮮がひたすら憎い、といったところなのだろうか)。国家による拉致が言語道断であることは言うまでもないが、強硬姿勢だけでは埒は明かないこともこれまた確かである。


追記(2月23日)
 拉致問題との関連で、「記者の目:硬直した日本の北朝鮮政策」という記事を目にした。少々引用をしておきたい。

(前略)
 今回、日本は「支援に参加せず」の方針で臨んだため、協議での発言力は低下した。北朝鮮は米国や韓国に対し「電力200万キロワット」などの要求を突きつけたが、日本は間接的に聞いただけ。米中韓による詰めの協議が続いた10日、韓国政府当局者は「今日は日本とは特に議論するイシュー(論点)がなかった」と記者団に語った。


 合意文書には、北朝鮮が60日以内に核施設を停止することなどが盛り込まれた。朝鮮半島の非核化に向けた一歩と期待されている。だが、文書策定で日本が目指したのは、見返りにエネルギーを提供する主体を書き込ませないことだった。6カ国の合意という体裁を崩さず、「支援はしない」という日本の立場を両立させるには玉虫色の表現が必要だった。


(中略)


 さらに深刻だと感じるのは、オープンな政策論議ができない政府内の硬直した空気だ。今回の日本の対応について外務省幹部に問うと「(安倍晋三)首相に聞いて」と言葉を濁した。別の幹部は各国との首脳会談で「首相の指示がなくても萎縮(いしゅく)して勝手に『拉致』を議題にしてしまう」と嘆く。
(後略)

日本の対北朝鮮政策が全く行き詰まっていることは明々白々である。


 念のため付け加えれば、この記事を書いた記者自身の考えは次のようなものであるらしい。

 現時点で北朝鮮との対話の場は6カ国協議しかなく、北朝鮮と顔を合わせる貴重な機会である同協議で、日本が拉致問題を訴えるのは当然だ。一方、北朝鮮のミサイル発射や核実験で、最も安全保障上の脅威にさらされるのは、ほかでもない日本であり、状況は深刻度を増している。まずエネルギー支援を「安全保障上のコスト」(政府筋)と受け止め、日本が核問題解決に責任を持つべきではないか。それが協議の中で拉致問題を訴える力となり、拉致問題解決へのテコにもなりうると思う。


 私の見るところでは、この考えは甘いと言わざるをえない。上の引用から明らかなように、既に6カ国協議北朝鮮にとって日本を不要にする仕組みとして機能しており、6カ国協議で日本が拉致問題を訴えても全く埒は明かない。6カ国協議によるのでなく、たぶん直接交渉によってのみ、膠着状態の打開は可能だろう。そして、北朝鮮を直接交渉のテーブルに引きずり出すための話題としては、国交正常化以外にはないのではないだろうか。良かれあしかれ、そういうことではないかと思う。