エネルギーをめぐる2つの動き

 2つの記事をとりあげたい。1つは「日本撤退のアザデガン油田開発、イラン高官が復帰を期待」、もう1つは「日本政府がインドの核保有容認へ、経済関係を優先」である。


 イランをめぐる問題については、本ブログでもこれまでに2度、「アザデガン油田開発の失敗の意味すること」(2006年10月7日づけ)及び「イランの核利用をめぐる問題」(2006年10月24日づけ)で取り上げてきた。そして実は、両者に通じる問題が、インドに関する上記記事にもかかわっている。その問題とは−−などと勿体をつけて書くようなことでもないが−−、核拡散の可能性にどのように対処するか(米国にひたすら追従するか、それとも独自の原則に基づいて行動するか)、というものである。そして、日本が被爆国としての経験を大事にしようとするのであれば、()内で記したうちのどちらを方針とするべきかははっきりしている(もちろん、後者をとるべきである)。


 しかし、実に愚かしいことに、日本政府は前者をとろうとしている。これは明らかな間違いである。国際政治で大国でない国(今の国際政治で大国の名に値するのは、米国と、そしてロシアが該当するかどうか、ぐらいだろう)がそれなりの重要性を獲得しようとするなら、何よりも首尾一貫性を尊重しなければならないのではなかろうか。そのような姿勢が大国の自己中心的な態度と乖離せざるをえないのは自明なのだから、日本政府はハラを決めるべきであるのに、万事について米国追従とはどうしたことか。


 インドに対しては、インドが核兵器保有しかつ核拡散防止条約(NPT)に加盟していない以上、日本は原子力技術の面で断じて協力を行なうべきでない。記事では政府がいろいろ並べる御託−−「(インドからの)核拡散の懸念がない」(NPTに参加していないのに、懸念がないなどとなぜ言えようか?)とか「IAEAの査察受け入れを表明している」(NPTに加盟していない以上、査察はいつでも拒否できるのではないか?)といったこと−−が紹介されているが、どれもこれも、筋道が通った話では全くない。


 同様にして、イランの核開発に対しては、イランがNPTに加盟している以上、それが平和利用である限りは日本はこれに反対すべき理由はないはずである。ところがアザデガン油田の開発の問題では、日本がイランの核開発に対する懸念を持ち出した結果、油田開発から日本が撤退する羽目になった。むしろ、10月7日づけの記事で書いたように、日本はイランの核開発に積極的に関与することによって、技術の軍事転用を防ぐのに貢献すべきであるにもかかわらず、である。もちろん、油田開発の権利の獲得が、日本のエネルギー政策上きわめて重要であることは言うまでもない。その意味で、イランの高官が日本の復帰を期待しているとする上記記事は、日本が独自のエネルギー政策・エネルギー外交を進める上での好機だと言ってよいだろう。
(なお、対イラン政策については、休職外務官僚の佐藤優氏が連載記事の中で「誤ったイラン政策」というのを書いており、「日本は「悪の枢軸」に加わるな」と論じている。しかし私見によれば、佐藤氏はイランのアフマディネジャド大統領の影響力を過大評価しているように思われる。)


 イランに対する安保理の制裁決議が可決された現在、アメリカがイランに対する軍事攻撃を行なう危険性は高まっている。イラクへの米軍増派も、ひょっとすると、近い将来にイランに対する攻撃を行なうための布石なのではないかと思えなくもない。そしてもちろん、万一イランへと戦線が広がれば、中東情勢の混乱は決定的なものとなろう。こう考えてくると、今重要なのは、イランへの外交チャンネルが開かれていることであり、その点で重要な役割を日本は担うことができる可能性があるのである−−もちろん、そんな役割は単なる負担でしかないと考えることもできようが、しかしアメリカがイランに攻撃を加えた場合の混乱ないしはむしろ混沌を思うなら、あえて火中の栗を拾うぐらいのことはするべきではなかろうか。先の安保理決議は全会一致で採択されており、したがってこれにはイギリスはもちろん、フランス・ベルギー・イタリアもまた賛成しているわけで、ヨーロッパはイランに対して動きにくい状況にあると考えられる。それだけに、日本の役割は重要なのではあるまいか。


 それにつけても、議員の世襲は政治から駆逐されなければならない。



追記
 アザデガン油田に関する上記記事の中で、ここでの本題とは離れるが、興味深いディーテイルに注目しておきたい。それは記事中の、イランの当局者(イラン石油省のホジャトラ・ガニミファルド石油公社国際局長)の話として記されている次のくだりである。

 米国が10日に発表したイラン国営銀行への取引停止を伴う制裁については、「すでにドルより強い通貨(ユーロ)に切り替えている国も多く、イランも他通貨での取引にシフトしている」と述べ、新たな制裁には効果がないとした。

 周知のようにここ数ヶ月でユーロの価値が対ドル・対円で非常に高くなっているが、どうもその背景には、石油取引などでの決済におけるユーロの使用が増えているというような事情があるのかもしれない。こういった経済の話には全く不案内だが、しかしこれは、国際通貨としてのドルの没落とも関連しうるきわめて影響の大きな話であるだけに、ここで触れておきたいと思った次第である。


追記2
 残念ながら、イランに対する安保理の制裁決議については日本も、当時まだ非常任理事国のポストにあったようで、これに賛成していたらしい。これでは日本の独自の外交努力などというものは、やれば「制裁決議に賛成したのは何だったのか」と批判されるだけだから、まず期待できないと言えよう。見通しの利かない、対米追従一点張りの外交のなせるわざとしか言いようがない。