安倍政権の成長重視の経済政策の根本的誤り

 経済政策や労働政策に関して今後を展望する上で重要な方向性が、ここへ来て次々と打ち出されてきている。以下、目についた記事(下で引用)の見出しを掲げると、
派遣労働者の直接雇用、政府の義務撤廃を検討 経財会議>
<企業優遇鮮明に 政府税調答申、増税路線を転換>
企業減税は消費税にツケ 経済界べったりの横暴 AERA発マネー>
外資50%超、政治献金OKへ 改正案が衆院委で可決>


 記事の引用とコメントを書く前に私見を述べておきたい。昔経済学の初歩を学んだ時に、経済政策のあり方として成長重視か消費者重視かという選択があると聞いたことがある。今安倍政権が取ろうとしている経済政策は、AERAの記事での安倍の言葉の引用から見て明らかに「成長重視」の政策である。


 しかし、この選択がおかしいことは明白である。なぜなら、日本社会では既に高齢化が急速に進んでおり、社会の活力の低下が避けられないからであり、つまり、経済成長には明らかに限界が、しかも従来以上に限界があるからである。それにそもそも、成長重視というのは、現在の世界で経済成長を遂げつつある新興国(中国やインド・・・これら古代文明の国を「新興国」と呼ぶのは少々奇異だが)とまともに競争しようという政策であり、そうしようとするなら、安価な労働力を確保することが必要となる。実際、日本の経済界はそういう対応をしているから、非正規雇用が増加し「研修生」が最低賃金以下の水準で「活用」されるなどという非人間的な所業がまかり通っているのである。


 そして、日本の産業が今のように強いことは、国民にとって決して幸福にはつながらない。なぜなら、日本の産業が強ければ、それは円高という形でいわゆる「国際競争力」の条件の悪化を帰結し、そこで円高に対応するべくコストのさらなる引き下げが行なわれなければならなくなるからである。コスト引き下げとは例えば、円で見た場合の賃金低下、つまり日本人にとっては単なる賃金引き下げである。円高によって国内の物価全般が安くなるわけでないことは少なくとも経験的に見て明らかなので、賃金引き下げは所得の低下を意味する。つまり生活水準の低下である。


 以下の考えは実証したものでは全くないと断っておかなければならないが、90年代以来の日本の経済の変化(特に雇用事情の変化)が何に由来しているかについて、次のように考えることができるのではなかろうか。すなわち、90年代に資本の自由化が進んだが、これは日本に雇用を創出することにはあまりつながっておらず(ヨーロッパの小売大手カルフールの撤退は記憶に新しいところである)、むしろ企業への投機的投資が強まった。これは、企業にとって増資の際の資金源となる一方で、株価の大きな変動をもたらす危険性という形で企業経営にとって脅威となり、日本の企業は従来以上に利益率の確保を重視せざるを得なくなった。バブルの崩壊よりもむしろこれが主因となって(1990年に始まり住宅金融関連で大きな波紋を呼んだバブル崩壊は、それ自体は1990年代半ばには一応終焉していたのではないかと思われる)、企業による人件費減らし、すなわち雇用事情の悪化が始まった。そして、拓銀山一証券の破綻、アジアの金融危機、そして橋本政権の経済失政などが重なり、雇用事情の悪化は一時のことでなく趨勢となった。また、中国等への企業移転の波もこの関連で位置づけを与えられるべきだろう。こういう状況が基本的に継続して現在に至っているのではなかろうか。


 もしこの見方が当たらずと言えども遠からずなら、問われるべきはまず金融市場のあり方ではなかろうか。資本の自由化が本当に日本経済を利するものとなっているかどうかが問われなければならないように思われる。外資がなければ増資は遥かに困難になる、のみならず、現実には日本企業に対する外資の投資は既に広く深く入り込んでいる、という反論があるかもしれない。私とてもちろん、外資を排除せよなどと言いたいのではない。しかし、投機によって企業経営が危機にさらされることは容認すべきではなく、それに対しては対策がとられるべきである。


 そのような対策として、通貨取引税の導入が真剣に検討されるべきではなかろうか。また、通貨交換(円からドル或いはドルから円、等々)についてタイムラグを設けるべきだと思われる(24時間のタイムラグを設けるのが良いだろう)。前者の目的は投機的取引を抑制することであり、後者の目的は、投機資金の急激な移動による金融不安を回避することである。後者について補足すると、通貨交換は、手形取引の場合と同様に集中的に決済するシステムによって処理することとし、これによって、資金の急激な移動を事前に察知し金融危機を食い止めるのである。


 そして、以上のようにして国際金融から来る圧力を緩和した上で、企業に対して雇用の維持を促す法制度を整備する。同一労働同一賃金の原則がその基礎となるべきであり、また、法人税は下げるのではなくむしろ上げて、企業に対して従業員への還元を促す。一言で言えば、消費重視の経済政策へのシフトである。


 ・・・というようなことを書いたところで、こういう考えが日の目を見ることはないのだろう。しかし、今の日本が狂っていることは間違いない。そして、人間はいつまでも狂ったままでいることができない以上、どこかで矛盾が爆発するのだろう。


 それにつけても、議員の世襲は政治から駆逐されなければならない。


* * * * * *
 以下、記事の引用とコメントを記す。まず、労働政策に関して由々しきことが画策されている。朝日新聞の記事はふつう1週間で削除されてしまうようなので、資料の意味で、全文を引用しておくことにする。


派遣労働者の直接雇用、政府の義務撤廃を検討 経財会議>http://www.asahi.com/life/update/1201/001.html

 政府の経済財政諮問会議が30日開かれ、労働市場改革「労働ビッグバン」として、一定期間後に正社員化することを前提としている現在の派遣労働者のあり方を見直す方向で検討に入った。この日は、派遣契約の期間制限の廃止や延長を民間議員が提案。期間が無期限になれば、派遣期間を超える労働者に対し、企業が直接雇用を申し込む義務も撤廃されることになる。諮問会議では専門調査会を設置して議論を深め、労働者派遣法の抜本的な改正などに取り組むことにした。ただ、今回の見直しは、派遣の固定化をもたらしかねず、大きな論議を呼びそうだ。
 諮問会議では、八代尚宏国際基督教大教授や御手洗冨士夫日本経団連会長ら民間議員4人が、「労働ビッグバンと再チャレンジ支援」と題する文書を提出。労働者派遣法の見直しを始め、外国人労働者の就労範囲の拡大、最低賃金制度のあり方や育児サービスの充実などを検討課題として提案した。
 なかでも注目されるのが、派遣労働者に関する規制だ。現在は派遣期間に最長3年といった制限があり、長期間働いた労働者への直接雇用の申し込み義務も企業側に課せられている。民間議員らはこの規制があるため、企業が正社員化を避けようと、派遣労働者に対して短期間で契約を打ち切るなど、雇用の不安定化をもたらしていると指摘。規制緩和で派遣期間の制限をなくすことで、「派遣労働者の真の保護につながる」と主張している。
 しかし、「企業が労働者を直接雇用するのが原則」という労働法制の基本原則に深くかかわる。戦後60年近く守られてきたこの原則に関する議論になりそうだ。
 労働ビッグバンの目的には「不公正な格差の是正」も掲げられている。正社員の解雇条件や賃下げの条件を緩和することで、派遣、パート、契約など様々な雇用形態の非正社員との格差を縮めることも、検討課題になりそうだ。
 連合などは労働ビッグバンについて「労働者の代表がいない場で議論されており、企業側に都合のいい中身になる」と警戒を強めている。専門調査会が、非正社員らの意見をどのように反映させるのかも不透明。公平性の確保が問われそうだ。
 安倍首相は会議で「労働市場改革は内閣の大きな課題」と言明。専門調査会で議論を深め、随時、諮問会議に報告し、府省横断の検討の場をつくって来夏の「骨太の方針」に方向性や工程表を盛り込む方針だ。
 また民間議員は、役所の仕事を官民競争入札にかけて効率化を目指す「市場化テスト」をハローワークの職業紹介事業に導入し、サービスを高めるよう提案した。厚生労働省は「公務員が従事する全国ネットワークの職業安定組織」の設置を義務づける国際労働機関(ILO)条約を理由に導入に反対している。
 民間議員は、主要な官のネットワークを維持しつつその一部を民間委託する分には条約違反にはならない、と主張した。ただ諮問会議で柳沢厚労相が反対を表明するなど、厚労省の反発は根強いとみられる。


 この記事の中で最も意味不明なのは、

現在は派遣期間に最長3年といった制限があり、長期間働いた労働者への直接雇用の申し込み義務も企業側に課せられている。民間議員らはこの規制があるため、企業が正社員化を避けようと、派遣労働者に対して短期間で契約を打ち切るなど、雇用の不安定化をもたらしていると指摘。規制緩和で派遣期間の制限をなくすことで、「派遣労働者の真の保護につながる」と主張している

というくだりである。派遣期間に制限があるから雇用が不安定になるという理屈は全くおかしいのであって、企業が正社員化を避けているからこそ雇用は不安定なのである。派遣期間の制限をなくしたらなぜ雇用が安定化され、「派遣労働者の真の保護につながる」のだろうか。馬鹿も休み休み言いたまえ、である。くだんの民間議員らには、お前らは鬼畜かと言わざるをえない。


 また、

労働ビッグバンの目的には「不公正な格差の是正」も掲げられている。正社員の解雇条件や賃下げの条件を緩和することで、派遣、パート、契約など様々な雇用形態の非正社員との格差を縮めることも、検討課題になりそうだ。

とある。不公正な格差の是正を実現するために、正社員の雇用までも不安定化しようというのである。雇用維持が企業の最大の社会的責任などという言い方は、ここでは「どこ吹く風」である。


 次に、企業優遇の税制という話である。
<企業優遇鮮明に 政府税調答申、増税路線を転換>http://www.asahi.com/politics/update/1201/014.html

 政府税制調査会(会長・本間正明阪大教授)は1日、07年度税制改正の答申を安倍首相に提出した。減価償却制度の見直しなど各種の企業減税を盛り込んだほか、法人税率については今後引き下げを検討するとしている。成長重視路線を掲げ、企業の国際競争力強化に熱心な安倍政権の意向をくんだ内容だ。来年度税制の最終的な改正内容は与党が今月中旬の税制改正大綱で決めるが、与党も企業減税路線を受け入れる見通しだ。
 政府税調答申は一方で、財政再建のためにはいずれ避けられないと見られている消費税増税については一切触れなかった。これも、来夏の参院選まで消費税増税議論を封印したい安倍首相の思惑に沿った措置だ。
 企業減税関係では、減価償却制度で償却可能限度額を95%から100%に引き上げることや、使用実態に応じて償却期間を短縮することを盛り込んだ。企業の課税所得が減るので減税効果がある。
 政府内では、今回答申された減価償却制度の見直しだけで5000億円規模の企業減税が想定されている。その財源は、07年からの所得税定率減税の全廃(約1.2兆円の増税)で賄われることになる。
 法人実効税率(現在約40%)引き下げについて答申は「今後の検討課題の一つとして問題が提起された」と明記。本間会長は総会後の会見で来年以降、本格的に議論していく意欲を示した。
 御手洗冨士夫日本経団連会長らが中国などのアジア諸国や英国など一部欧州の国並みにすべきだとして主張する「法人実効税率の10%程度の引き下げ」をすれば、4兆円規模の減税になる。その財源を他の税源で賄うとすると、消費税(現行5%)なら2%幅の引き上げが必要になる。
 答申ではこのほか、同族会社の留保金課税の見直し、ベンチャー企業への投資を促進する「エンジェル税制」の拡充、移転価格税制での適用基準の明確化など、経済界から要望が出ていた企業減税のメニューを軒並み盛り込んだ。
 企業優遇税制を進める理由について、答申は「企業部門の活性化は、付加価値の分配を通じて家計部門に波及し、プラス効果をもたらす」と強調した。
 一方、金持ち優遇との批判がある証券税制の優遇措置については、07年度内の期限切れをもって廃止するよう提言した。
 これまで増税路線をとってきた政府税調が、企業減税路線へと転換したのは、安倍政権下でメンバーが一新されたためだ。政府税調は首相の諮問機関だが、従来は事実上、財務省が主導してきた。ところが11月、財政再建重視の石弘光・前会長の再任が官邸から認められず、企業減税論を唱える本間会長が起用された。経営者ら経済界代表の委員も38人中8人と倍増。財務省は影響力を失い、政府税調は従来のように「減税」のブレーキ役を果たせなくなっている。

 法人税減税が、成長重視の経済政策の考えに由来することであることは、既に述べたとおりである。


 このあたりの事情を解説しているのが次の記事である。
企業減税は消費税にツケ 経済界べったりの横暴 AERA発マネー>http://www.asahi.com/business/aera/TKY200611280337.html

 経済界が「4兆円の企業大減税」を主張している。財界だけがいい思い、どころじゃない。この減税、参院選後に「消費税率2%アップ」に変身しそうだ。

     ◇ 
 「30%をめどにして考えるべきだ」
 11月13日午後、千代田区経団連会館日本経団連御手洗冨士夫会長(キヤノン会長)が記者会見でこう明言すると、記者の間に驚きが走った。さりげない言葉が意味するところは、現在39.54%(標準税率)である企業の実効税率負担を10%下げろ、という提案だった。
 税率が10%下がれば4.4兆円に上る巨額減税が経済界にもたらされる。
 「企業は軒並み最高益なのに、賃金はいつまでたっても上がらない」。サラリーマンに不満が渦巻くなかで、さらに悪者になりかねない企業優遇を御手洗会長が言い出したのには訳がある。
 「経済界が、企業減税にもっと本気になってくれないと困る」
 政府内部からそんなささやきが経済界に伝わった、と関係者はいう。財政難に苦しむ政府が減税をささやくなどありえない、と思うのが普通だが、そんな常識が通らないほど、税を巡る政府内部の駆け引きは複雑で見えにくい。

 ●企業へのバラマキか
 今なにが起きているのか。闇に光を当てる今回のヒントは「予想を超えた自然増収」である。
 慎重に見積もっていた税収が、好調な企業業績に支えられ、予想外に膨らむ可能性が見えてきたのだ。財務省ではいま、今年度の税収を見定める作業をしている。当初予算では45.9兆円の国税収入が見込まれていた。それが3兆〜4兆円は伸びる見通し、という。「5兆円に達すると聞いた」という自民党幹部もいる。
 思いがけない臨時収入である。赤字に押しつぶされそうな財政にとって、まさに干天の慈雨。国債を減額する貴重な財源である。
 ところが、いま始まろうとしているのは企業減税というバラマキだ。政治献金復活など、急接近している産業界と政府・与党の「宴会」ともいえる大盤振る舞いだ。
 事態を理解するために、話を7月にさかのぼる。政府は「骨太の方針2006」を決めた。この中でいわゆるプライマリーバランス基礎的財政収支)を2011年度に黒字化すると決めた。そのためには歳出を11兆〜14兆円削り、歳入は2兆〜5兆を増税で増やす。この「2兆〜5兆円の増税」は消費税引き上げへの重要な布石だった。「09年度に消費税増税」が財務省の腹案だった。
 ところが、ここに来て3兆〜4兆円の税収増が出て、前提が狂い始めた。税収不足が消費税増税の根拠だったからだ。いまの調子では増税なしで当面の再建目標を達成できる可能性が出てきた。納税者にとってうれしいことだが、先々のことを勝手に心配する財務省には、目先の増収は「嬉しくないこと」に映る。
 税収増をうまく処理しないと消費税増税が閉ざされる、とみた財務省の一部が、企業減税や予算のバラマキに理解を示し始めた――という構図である。

 ●景気拡大の実感は薄く
 企業大減税への舞台回しはすでに整っている。財務省主導から官邸主導へと変わった政府税制調査会がその装置である。財政再建論者だった石弘光前会長(前一橋大学長)に代わって、新会長に就いたのは本間正明阪大大学院教授。法人税減税による経済活性化が持論で、安倍首相の掲げる成長路線にぴたりと合う。
 政府税調の委員は正委員と特別委員計36人のうち企業幹部は4人だった。それが新体制で顔ぶれが変わると38人のうち8人が企業幹部になった。本間会長と合わせ「経済界のための政府税調」といった様相だ。
 産業界重用は安倍首相が議長を務める経済財政諮問会議にも言える。4人いる民間議員のうち2人は御手洗会長と丹羽宇一郎伊藤忠商事会長。労働界や消費者代表はいない。残る2人は経済界に理解がある学者が占めている。
 財政再建の砦だった財務省には「商工族」の重鎮、尾身幸次氏が大臣として送り込まれた。やはり商工族である甘利明経産相と組んで企業減税を進める布陣を敷いている。
 「成長していかなければ少子化対策財政再建もできない。世界からの投資を増やし、アジアの成長を日本に取り込む」
 首相は今年9月の総裁選での演説で成長重視の「上げ潮路線」を強調した。企業に利益を上げてもらい雇用や設備投資を刺激し、消費の増大や中小企業への波及を促す、という政策だ。
 今年7〜9月期の国内総生産(GDP)は、前期比0.5%増で、7四半期連続のプラス成長となった。今月も景気拡大が続けば、いざなぎ景気(4年9カ月)を抜いて戦後最長になる。
 本当かね?と首を傾げたくなる話だ。数字の上ではそうかもしれないが、そんな好景気を実感できるひとはどれだけいるのか。

 ●高齢者への負担増続く
 05年度の法人企業統計調査で従業員給与(パート、アルバイトを含む)は前年度より0.5%減って351万円、3年連続のマイナスだ。ピークが97年で390万円だったが1割も下落している。
 小泉政権下の02〜06年の税制改正では、企業は1.4兆円の大減税だった。個人所得は3.9兆円の大増税である。企業の最高益を支えたのは、庶民の負担増だった。定率減税がすべて撤廃される07年には個人の税金はまた重くなる。すでに老齢者控除廃止や公的年金等控除の縮小で高齢者の負担は増えている。そんな中で安倍政権と経済界は企業減税に向かって走り出した。
 第一弾は、減価償却制度の見直しを通じた法人税減税だ。これまで、古い生産設備でも一定の価値が残っているとみなし、償却は取得価格の95%までにして、残りの5%は償却させないできた。しかし、諸外国並みに全額償却へ見直すなどし、5千億円規模の企業減税が見込まれている。
 財源は07年1月からの庶民増税定率減税の全廃)による1兆円増収があてられる構図だ。

 ●結局は庶民にしわ寄せ
 経済界が目指す本丸は、法人税の税率自体の引き下げだ。現在、法人税国税)は30%、これに地方税などを加えた39.54%の税率を大幅に引き下げようとしている。冒頭の御手洗会長の発言は、まさにこの点に触れたものだ。口火を切ったのは、本間・政府税調会長である。11月初めに「欧州並みを目指すのは一つの考え方だ」として、35%前後へと5%引き下げに言及した。
 13日の御手洗発言は、下げ幅を10%へと2倍に進めて、減税規模は4.4兆円と巨額になった。まるでバナナのたたき売りのように、「兆円規模の減税」の大安売りだ。
 「企業が国際競争力を失っては困る」(御手洗会長)として、欧州やアジア並みへの税率引き下げが唱えられている。
 法人の実効税率は、イタリア(ミラノ)37.25%、フランス(パリ)33.33%、中国(上海)33.00%で各国は日本よりは低い、というのがその論拠だ。しかし、90年代以降繁栄を続ける米国(ロサンゼルス市)は40.75%と日本よりも高い。米ニューヨーク市に至っては45.95%と日本の5ポイント高で、税率の高低が競争力に影響するのかは疑わしい。
 日本では、研究開発・情報技術(IT)減税措置(約7千億円)が設けられており、先進的な企業の実効税率は、実際は「20%台後半」(関係者)ともいわれ、法人実効税率の比較自体が難しいのが実情だ。
 そもそも、国際競争を勝ち抜く必要がある企業は限られている。国際競争を旗印に、国内向けサービス産業を含む全体の法人税を引き下げるのは、理由にならない。
 結局は、選挙目当てのバラマキとの批判は免れないだろう。
 しかし、問題はその財源だ。
 好景気で法人税収が伸びているとはいえ、80年代後半のバブル景気の際にも予想外の税収増が続いたのは数年だった。4.4兆円の企業減税には、4.4兆円の増税が必要だ。国内では、消費税、所得税法人税が3大税目だ。法人税を減税すれば、庶民増税は不可避だ。
 実は89年度から99年度までの10年で、法人税国税)は40%から30%まで、10ポイント下がっている。89年に19兆円あった法人税収は、不況も相まって99年には10.8兆円まで、8兆円も落ち込んだ。そこで登場したのが、89年に創設された消費税だ。99年には消費税収は10.4兆円になり、まさに法人減税を消費増税が埋め合わせた。
 消費税1%の税収は、2.2兆円(国・地方の支出分を除く)。ちょうど、消費税を2%上げれば、御手洗会長が主張する4.4兆円の企業減税がまかなえる形だ。安倍政権は、企業減税だけを先行議論し、消費税については来年夏の参院選後まで議論自体を封印する意向だ。しかし、企業減税はいずれブーメランのように消費税増税に跳ね返る。納税者の監視が不可欠だ。
 (経済部・尾形聡彦 編集委員・山田厚史)

 但し、この記事に署名している2人のうち山田某は、朝日新聞紙面で竹中平蔵総務相へのインタビューが載った時、その聞き手の一人として、やたらと竹中を持ち上げていた。竹中がやったことは、とりもなおさず、格差拡大という今の社会の流れを定着させることであり、それを山田某はほめそやしていたのである。この記者の書くことは、眉に唾して聞かなければならないだろう。


 最後に、政治が経団連に迎合していることの象徴として次の記事。
外資50%超、政治献金OKへ 改正案が衆院委で可決>http://www.asahi.com/politics/update/1201/013.html

 企業・団体献金外資規制を緩和する政治資金規正法改正案が1日、衆院の「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」で共産、社民を除く与野党の賛成多数で可決された。現行法で禁じられている外資50%超の企業による政治献金を、条件付きで認める法案で、来週の衆院本会議で可決され、今国会で成立する見通しだ。
 改正案は、日本の法人で国内の証券取引所に上場していれば、外資が50%超でも献金を認める内容。今年の通常国会で自民が議員提案した。民主は改正自体に賛成しながら「10年以上継続して上場」などを条件とするよう修正を要求。与党が応じず継続審議になった。
 今回の修正協議では、上場期間を「5年以上」としたほか、上場時期や保有比率を判断する基準日を「直近の定時の株主総会」とすることなどを盛り込んだ。
 外資規制の緩和は、政界への影響力を強めようと献金を奨励する経団連で、中枢のキヤノンソニーなどの外資比率が50%を超え、改正に向けて政財界の足並みがそろった。
 キヤノン外資比率は今年6月末に50%を割ったが、共産党佐々木憲昭氏は反対討論で「外国人からの献金禁止規定は(政治資金規正法の)量的規制の根幹。キヤノンの御手洗氏の献金を期待し、根本原則を変えてはならない」と名前を挙げて批判した。

 言うまでもなく、この法改正案は全くの間違いである。奇妙にもと言うべきか、ここでは共産党の議員である佐々木氏がナショナリスティックな発言をしており、そしてその発言は正しい。自民党は、愛国心を語る一方で、簡単に日本を外国に売り飛ばせる政党であるらしい。この法案は、他のいろいろな法案よりも遥かに売国的であることが後に明らかになるかもしれない、そういう重大な法案だと思われる。


追記(12月3日)
 次の記事も目についたので紹介しておきたい。
<自民、労働調査会復活へ 「雇用・生活調査会」に衣替え>http://www.asahi.com/politics/update/1203/001.html

 自民党は、活動実績がないことから昨年廃止された労働調査会を、「雇用・生活調査会」に名前を変えて復活させる。政府の経済財政諮問会議労働市場規制緩和労働ビッグバン」を検討していることに対し、党内からは「経済界の論理が強すぎる。働き手に果実を分配するべきだ」などの意見が続出。来年の国会では労働関係の大型法案が多数審議されることから、非正社員の処遇改善など党主導で労働政策の見直しを進める考えだ。
 調査会は、党政務調査会の下部組織。税制調査会や道路調査会など、政策決定に影響力をもっている。だが、労働調査会は、人事院勧告を取り扱う以外はほとんど開かれず、昨年11月、廃止された。
 しかし、パートや派遣などの非正社員の増加や正社員との格差問題、生活保護基準以下の収入で暮らすワーキングプア(働く貧困層)などの問題が深刻化するなかで、「企業の都合に合わせるのではなく、働き手の立場から雇用政策を考えるべきだ」(党政調幹部)との意見が強まった。来夏の参院選を念頭に、若者の支持を引きつける狙いもある。調査会の会長には、厚生労働相経験者をあてる方向で人選が進んでおり、年内に発足させ、年明けから活動を本格化する。
 一方、経済財政諮問会議も専門調査会を新たに設置し、派遣契約の期間制限の延長や、企業に課している直接雇用の申し込み義務の撤廃などを検討する。自民党とは主張が真っ向から対立しそうだ。

 上で引用した「労働ビッグバン」に対抗する動きが自民党内に出てきたという話である。両者の対抗がどうなるかは今後注目していくべきだろう。但し、非常な確率で、自民党経済財政諮問会議と安易な妥協をするだろうと想像される。自民党とはそういう政党だからであり、経済界に対して抵抗を貫くことは決してできないだろうからだ。