イランの核利用をめぐる問題

 ここ2週間ほどにおける政治上の最も大きな話題は北朝鮮の核実験疑惑だったが、考えてみれば本ブログではこれまでとりあげてこなかった。他意はなく、単に興味がそちらへ向かなかったからにすぎないが、なぜかといえば、そもそも本当に北朝鮮が核実験を行なえたかどうかという点自体に私は疑念を抱いており、その点をはっきり検証することなしに空回りする議論につきあっていられなかったからである。これまでのところでは、わずかに、その空回りする議論の中で中川という自民党のアホが言った「核武装議論の必要性」発言をとりあげたにすぎない。言うまでもないが、今の日本に核武装するという選択肢はなく、その点から見て議論は時間の無駄である。さらに、非核三原則を堅持するというのならなおさら、核武装するかどうかという議論は全く時間の無駄である。下手な考え休むに似たりとはよく言ったものである。


 それはともかくとして、
「イラン、新たにウラン濃縮装置 すでに試運転」
http://www.asahi.com/international/update/1024/014.html
という記事が目についた。今後はイランをめぐって、またもや核利用をめぐる議論が世間をにぎわすであろうことが予想される。そこで、既に書いたことの繰り返しになるが、核利用をめぐる考え方を整理しておきたい。


 イランが行なおうとしている核利用、すなわち電力を生じさせるために原発を作ろうという行動は、全く正当なものである。イランの言っていることは全くの正論なのである。なぜかということを言う必要はなかろうが、もしイランのやろうとしていることがおかしいのなら、日本その他の国が原発を動かしていることもおかしいと言わなければならなくなろう。


 したがって、イランの現在の核利用を国際社会が阻止しようとするのは全くおかしいと言わなければならない。ほどなくしてこの問題が国連の安全保障理事会でも議論されることとなろうが、イランに対する制裁決議に対しては日本は反対しなければならない。


 アメリカがなぜイランに対する制裁決議にこだわっているか、その理由は既に知られている。アメリカはイランの体制を転覆したいのであり、そのための口実を得たいのである。この点を疑う人がいるなら、かつて対イラク軍事攻撃の頃に来日してブッシュ政権を批判したスコット・リッター氏のインタビューを見るべきだろう(次のURLをクリックして始まるオンディマンド・ビデオの中の、38分30秒ごろからインタビューは始まる)。
http://play.rbn.com/?url=demnow/demnow/demand/2006/oct/video/dnB20061016a.rm&proto=rtsp&start=1:08
このインタビューを放送しているウェブサイトである「Democracy Now!」は、ふつう放送のtranscriptを提供しており、このインタビューについても当初はtranscriptがあったのだが(次のページ
http://www.democracynow.org/index.pl?issue=20061016
から見られたはずである)、残念ながら現在ではどういうわけかtranscriptが見られないようである。そこで、内容について多少紹介しておくと、リッター氏の主な主張は以下のようなものである。

  1. イランは現にブッシュ政権のターゲットとなっており、このことは政権が出したNational Security Strategyに関する文書の中に明記されている。この点に関して議論の余地はない。その狙いはregime changeである。
  2. 北朝鮮とイランは全く異なる。北朝鮮ははっきり核兵器を持とうとしている。これに対してイランは核兵器を持つと言ってはいない。両者を等しいものとして扱おうとするブッシュ政権の首尾不一貫は顕著である。
  3. 私(リッター氏)はイランに行ったが、全く移動の自由があり、自分の思うままに複数の政府高官・軍高官にインタビューすることができた。イランはモダンな、親西欧的・親米的な国である。
  4. イラクの場合とイランの場合で似ているのは、アメリカが相手に対して否定(大量破壊兵器がないこと、核兵器開発の意図がないこと)の証明を求めていることである。否定の証明はできない。つまり、アメリカがそのような要求によって狙っているのはregime changeなのである。
  5. アフマディネジャドはただの馬鹿者(idiot)であり、しかもイランの真の実力者ではない。アメリカは本当にイラクと交渉したければ、ライス国務長官をイランの最高実力者すなわちハメネイ師のもとに送るのでなければならない。そして、ハメネイ師は平和を、しかもイスラエルとの平和を、求めている。
  6. アメリカは今や暴力の国とみなされるようになってしまった。
  7. イスラエルはイランに対して一切の核利用の権利を否定しており、そのような立場からアメリカに対して圧力をかけている。
  8. かつてイランの核利用はアメリカによって容認された。これはフォード大統領の時の話で、当時の米政府担当者の中にはディック・チェイニードナルド・ラムズフェルドがいた。


 アメリカ盲従を日本政府はやめるのでなければならない。今度の安全保障理事会において日本政府がイラン問題に対してどのような態度をとるかは要注目である。


追記(10月25日)
 北朝鮮が行なったのは核実験だったということを韓国政府が正式に確認したとの記事を見た。
北朝鮮の核実験、韓国政府が正式確認」
http://www.asahi.com/international/update/1025/012.html
しかしこの記事によれば、韓国政府は「米国などから寄せられた放射性物質のデータなども合わせて判断した」とのことである。もともとアメリカの発表には疑問がある以上、この発表もまた疑問とせざるをえない。百歩譲って、仮に行なわれたのが本当に核実験だったとしても、実験が失敗だったであろうことは疑いないと思われる。北朝鮮の核の脅威を誇張することなどは全くおかしいと言うべきだろう。