第67期名人戦第4局――名人の力負けか


 以前にも書いたことだが、本ブログが羽生名人のことをひょろ弱と呼ぶとして、それは羽生(敬称略。以下同様)が弱いからではもちろんない。もちろん羽生は強いのだが、しかし勝負の世界では第一人者はべらぼうに強くあってもらわなくてはならない。そこであえて口汚く、「ひょろ弱」と呼ばせてもらっているのである。私が言うまでもないかもしれないが、べらぼうな強さとは、例えて言えば、升田のように鋭く、かつ大山のように容易に土俵を割らないといったところではなかろうか(なお、升田はよくポカをやったが、ポカをすることはひょろ弱いこととは異なる)。升田の強さについては、東公平氏の筆になるこの観戦記が何度読んでも面白く、また見事に語っている。


 さて、今しがた終わった第4局である。棋譜朝日新聞のこのページに出ているので参照していただくとして、やはり問題なのは60手目、郷田九段が△4五桂と跳ねたところだろう。

実戦ではこれに対してひょろ弱が▲3四飛と指し、以下△3一歩▲4五銀△9九角成と進んだが、この後飛車が働かずに取られてしまい、そして取られてからはやはり犠牲が大きすぎたと見えて、あっという間に終局となってしまった。


 ではどうするべきだったか。やはり、飛車のその後の不遇を思うなら、ここは角と刺し違えるべきだったろう。上図から▲2二飛成△同金▲4五銀とやって、参考図1である。狙いは言うまでもなく、▲7五角打とすることにある。注意すべきことは、まず後手に飛車を打たせてから角を打つようにするということである。


例えば、参考図1で後手が△2八飛と打ってきたなら、以下▲4二角成△同玉として▲1七角と飛車金両取りに打つ。以下の進行の一例は△7七角▲6八歩△4七桂▲6九玉△2九飛成▲3八銀△4九龍▲同銀△5三桂▲5八玉。



 参考図1で後手が△8九飛と打ってきたなら、以下▲6九歩△9九飛成▲7五角打△8六飛▲同歩とする。


以下の進行の一例は△4七角▲5八銀△2九角成▲7一飛△6一香▲7三桂。


こうして次の▲8四角を狙うのである。


 こうやったなら先手も相当ではなかったか。とはいえ、まあ負けたのは私ではなくひょろ弱なので、力負けということにしておこう。郷田九段の剛直な攻めが炸裂した将棋ではあった。