麻生政権の大失態――田母神航空幕僚長を「退職」させたこと


 政治に限らず何事においても、筋を通すことが極めて重要だということを改めて思わせられる。とりわけ、田母神前航空幕僚長をめぐる表題の件についてそう思うことしきりである。毎日新聞の次の記事を見てそういう感を深くしたのだが、

防衛省:田母神氏講演に苦慮「手の打ちようない」


 政府の歴史認識に反する懸賞論文を公表して更迭された田母神(たもがみ)俊雄・前航空幕僚長は12月、講演などを立て続けに行う予定で、防衛省が神経をとがらせている。1カ月前まで航空自衛隊トップだった人物が、政府見解から逸脱する発言を公然と繰り返せば政府や自衛隊への世論の批判が収まらない、と警戒感を強める。同省は田母神氏の活動日程や発言をつかもうと躍起だが「退職で民間人になっており、手の打ちようがない」(幹部)。


 退職後、11月中から雑誌への寄稿やテレビ収録を済ませた田母神氏は、12月1日に外国特派員協会で記者会見するほか、8日に問題の懸賞論文の表彰式に出席。下旬まで各地での講演が予定されている。


 田母神氏が公職にないため同省幹部は接触を控えているが「誰も一民間人の話とは受け取らず、発言のたびに政権批判が再燃する」(内局幹部)。このため同省は、田母神氏の日程リストをまとめ浜田靖一防衛相にも報告した。【松尾良】

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 自分を辞めさせた政府への当てつけともとれる田母神氏のこのような行動を政府が何ら規制できないのは、言うまでもなく、氏を早々に退職させてしまったからである。退職させずに懲戒処分に入っていれば、この暴言者の口封じを少なくとも数か月間は続けることができたであろうに。


 懲戒処分に入らなかったことに関しては、幕僚長を更迭した場合に定年までの期間がどう計算されるかということをめぐって問題があったらしい。つまり、更迭した後に懲戒処分に入っても、処分がまとまらないうちに退職に至ってしまうということが懸念されたようである。しかしこの点については、そのような計算の基となった解釈とは別の解釈が可能であるということを、民主党の平岡衆議院議員が自らのブログで指摘している


 そしてそもそも、そのような解釈の問題は実は些事なのであって、重要なのは、今回あのような滅茶苦茶な歴史観を幕僚長の立場にあって披歴した田母神氏が本来どういう措置の対象になるべきだったかということである。当然ながら氏は、懲戒処分を受け、かつ、政府見解に反する重大な背信行為をしたという理由で、退職金なしの懲戒解雇(或いは、名目はどうあれ、実質的にそれと同じ処分)に処せられるのが至当であり、つまり、処分の対象とならなければならなかったのである(これについては本ブログのこの過去記事をも参照されたい)。それを、退職などといういい加減な措置でごまかしたものだから、ここへ来て、冒頭の記事に見られるようなやりたい放題を目の当たりにして、政府が何の対処もできない始末になっているのではないか。


 田母神氏にこのような暴走(氏は、退職後の今のほうが遥かに一層、暴走していると言ってよい)を許してしまった浜田防衛相及び麻生首相の責任は極めて大きい。


 但し付け加えておくと、私は或る意味では、田母神氏の暴走は悪くないと思っている。なぜなら、あのような自己満足的歴史観は、それが吹聴されればされるほど、(天木直人氏が自らのブログで指摘しているように)人からあきれられるたぐいのものだからである。特に若い連中を中心に、あのような歴史観(もちろん、本来「歴史観」と呼ぶに値しない代物である)を持っている馬鹿どもは少なくないかもしれないが、そういう連中は田母神氏の暴走をよく見て、我が身を省みるが良いだろうと思い、またそう願う。