これからこそが大変なアメリカ――オバマ氏の次期大統領当選を受けて


 大方の予想どおり、民主党オバマ候補が次期大統領に当選した。その当選の歓喜から一夜明けてだが(これを書いている現在は11月6日)、既にいろいろな人が書き始めているのと同様、私も、アメリカはこれからこそが大変であるということを強調しておきたく思う。


 まず言わなければならないのは、バラク・オバマという人物の政治家としての能力が全く未知数だ、ということである。彼について唯一はっきりしているのは演説のうまさである。確かにこれは、今日の政治家の資質として相当重要な要素だろうし、特に(日本などと異なって)アメリカにおいてはそうである。しかしながら、それはあくまで一要素にすぎない。それ以外の点で、オバマという政治家に果たしてどれほどのことができるのか。彼に対する期待が高いだけになおさら、現実との落差ということは今から懸念される。例えば、現在は金融恐慌前夜にあると言ってよいと思われ、この中でうまく国の舵取りを行なうことは誰がやっても至難の業であるに相違ない。オバマは軍人マケインよりは経済に詳しいかもしれないが、特に詳しいというわけでは全くあるまい。


 また、彼がこれまでの選挙運動で個人からの小口の政治献金を集めてきたというスタイルは、ひょっとすると、軍需産業や石油産業など、国の安全保障と縁が深くしたがってアメリカの対外政策の大罪とも縁の深い企業からオバマが距離を置いているということを意味するのかもしれず、それがそのまま続くなら、オバマには若干の期待が持てるかもしれない。しかし、よほど自分をしっかり持っていないと、今後大統領になるまでに(また、大統領になってからも)行なわれるであろう種々のブリーフィングを通じて、オバマアメリカの軍産複合体に組み込まれてしまう可能性は大いにある。しかも、政治はひとりでできるものではなく、オバマはチームとともに大統領府に乗り込むことになるわけだが、そのチームの中に、いわゆる既得権益に浸かってこなかった人間をどれだけ入れることができるのか、そしてもちろん、そのチームがどれほどの実力を有するのか。同じくチェンジを訴えて当選した民主党クリントンですら、対外政策ではイラクを好き放題に空爆し、アフガニスタンを勝手に爆撃し、国連事務総長を辞任に追い込み、と、実に勝手極まる外交を繰り広げていたことを我々は忘れるべきでない。


 加えて、オバマは初の黒人大統領である。今後、アメリカ社会の中で人種問題は否応なくクローズアップされてくることになろうが、その際、オバマはどのように対処することができるのか。言うまでもなく、人種問題への対応は、誰がやっても極めて難しいことである。オバマは何らかの意味で前進をもたらすことができるかどうか。


 今本当に必要なのは、オバマを始めとしてアメリカ人自身が、アメリカという国(特に911以降のブッシュ政権)がやってきたことに対して真摯な反省を行ない、詫びるべきは詫び(イラクの人々に対して、またアフガニスタンの人々に対して)、国際社会に協力を求めて、再スタートすることである。それができなければ、アメリカは今後迎えるであろう深刻な危機(特に経済的な危機の到来が当面予想されるが、しかしその他、人種問題に起因する社会的な危機も想像の範囲内にある)を乗り越えられずに衰退していくのではあるまいか。ともあれ、これからこそが、アメリカにとって大変な時なのである。