極めて懸念されるグルジアとロシアの間の武力衝突


 かねてからグルジアとロシアの間では、グルジアの西端に位置するアブハジア、及び今回武力衝突の舞台となった南オセチアをめぐって、争いがあったが、極めて懸念すべきことに、このほど争いが武力衝突にまで発展してしまったようである。朝日新聞では記事がいくつか出ているが、とりあえず8月9日午前10時過ぎ時点で見られる最新の記事を引用しておくことにする。

南オセチアで戦闘激化、州都壊滅的被害
2008年8月9日1時18分


 【モスクワ=星井麻紀】グルジアからの激しい攻撃は8日、南オセチア自治州の州都ツヒンバリを壊滅的に破壊した。92年の停戦以来、最悪の武力衝突。ロシアが攻撃に加わったことは、グルジアと協力関係にある米国も刺激することは必至で、情勢は緊迫の度合いを深めそうだ。


 グルジア側は、戦車や戦闘機などで南オセチア側を攻撃。自治州内の一部の村を制圧し、ツヒンバリに攻め入った。自治州の行政機関の建物が炎上したほか、一般の住宅も破壊され、市民を含めて死者は数十人から数百人に達している模様だ。


 グルジアのサアカシュビリ大統領は米CNNテレビにグルジア軍がロシア軍機を2機撃墜し、ロシアと「戦争状態にある」と語った。英BBCとのインタビューでは「ロシアの戦車が国境を越えて入ってきたので反撃を始めた」と正当性を主張。「世界の多くの首脳が自国を離れ、誰も政治のことを気にしない五輪の開催日をわざと選んだのだ」とロシアを批判した。


 ロシア側は、ロシア兵10人以上が死亡、約30人が負傷と発表。メドベージェフ大統領は、ロシアの治安維持部隊にも被害者が出たとして「ロシア人の生命と尊厳を守る」と言明。ロシア外務省も「グルジア指導部への信頼は完全に失われた」とグルジアを非難した。


 北京五輪開会式に出席したプーチン首相は、米国のブッシュ大統領と短時間会談。インタファクス通信によると、プーチン首相から「南オセチアで戦争が始まった」と聞いたブッシュ大統領は「だれも戦争は望んでいない」と自制を促したという。だが、米国はグルジアと緊密な関係にあり、今後、米ロ関係が緊張含みになる可能性がある。


 同自治州では今月、グルジア部隊と独立派との間で散発的な砲撃戦が始まり、7日には12人が死亡、20人以上が負傷した。紛争拡大を避けるため7日夜、ロシア外務省特使が現地を訪れ、8日に双方が会談することで合意。グルジア側も一時的に攻撃を中止したが、8日午前0時ごろ、再び戦闘が始まった。


 南オセチア自治州は、オセチア人が多く居住する地域。ロシア革命グルジア編入されたが、グルジア人への優遇政策に危機感を抱いて分離独立を主張。91年、92年にグルジアとの間で大規模な紛争が起きた。92年に停戦し、ロシア、グルジア南オセチアによる平和維持部隊が展開しているが、独立派政府が州内の大半を支配する事実上の独立状態が続いていた。


 ロシアはグルジア北大西洋条約機構NATO)加盟の動きに神経をとがらせており、南オセチア問題は譲れない一線となっている。

記事の中で言及されているグルジア大統領のBBCとのインタビューはこのリンクから見られる。


 軍事的対立が激化すれば、特に小国グルジアの側に破滅的な被害がもたらされる可能性がある。双方言い分はあろうが、ともあれまずは停戦(cease-fire)をすることを願ってやまない。


追記(8月10日)
 南オセチアでの軍事衝突はグルジア側が不利な情勢になったようで(確証があるわけではないが)、ともあれグルジア側がロシアに対して停戦を申し入れるに至った。まず停戦が何よりも重要であり、これが速やかに実現されることを願う。ロシア側が主張するグルジア軍の南オセチアからの完全撤退も、停戦の実現のためには実施されるべきだろうと思われる。そして、一刻も早く国際社会が事態に関与するようになることが望ましい。EUからフランスの外相クシュネルが派遣されたとのことだが、同外相の現地滞在中に停戦が実現することを心から期待したい。


 そうなってから問題にするべきことだが、今回のどさくさにまぎれてロシアがグルジア領内に空爆をしたり、グルジアの港の交通を妨害したことは明らかに主権の侵害であり、全く理にかなっていない。国際社会はこれを国連の場で断然非難しなければならない。ロシアの覇権意識(という思い上がり)にブレーキをかけるために、この点は極めて重要だと考える。