明らかに日本社会は極めておかしい――10年連続で自殺者が3万人超


 こういう見出しは人目を惹くかもしれないが、しかし同時に反感を買うものでもあるだろう。誰もが思うが、誰も考えようとしない(或いは考えたくない)問題、それが今の日本社会のありようという問題或いは問題状況なのではなかろうか。末尾に、見出しに書いたデータに関する記事を引用しておくことにする。


 自殺者の数を減らすにはどうしたらよいか。一番確実な方法と思われるのは、労働時間を減らすことである。記事から明らかなように、過重労働に由来するうつ病を原因とする自殺者が相当数存在すると思われるからである。労働時間の削減ができれば苦労はしない、という反論が直ちに返ってくるだろうか。しかし、問題は今や、削減できるかできないかではなく、まずはとにかく削減しなければならない、そしてその上で、削減によって生じる不都合にどう対処すべきか、ということなのではなかろうか。少なくとも、日本社会が多少とも人間の生命を尊重する社会であるならば、このように考えるべきなのではなかろうかと思われる。


 当然ながら、この点をつつき始めれば、話は、労務費・人件費の言わば変動費化を図ってきたここ十数年来の多くの企業の経営方針、その道徳的妥当性の如何といった問題にまでつながってくるだろうと予想されるが、もちろんそういう議論が行なわれるべきだと私は思う。人間が生きていくために或る程度固定的に費用がかかるのは全く自然なことなのであり(だからこそ、もともと労務費・人件費は、固定費の代表とみなされてきたのである)、企業経営の事情を理由にその部分までをも(派遣労働・非正規雇用を使うことによって)変動可能にしたことの罪は決して小さくない。また、人減らしの裏にあったのは、言うまでもなくサービス残業の長時間化、その常態化である。こういったことは誰もが知っていることであり、にもかかわらず誰もこれを表立って問題にしないように見えるのはなぜか(もちろん、問題にしている人たちは其処此処にいるのだろうが、その声は大きなものになっていない)。もちろん、個々人がこういうことを言うことは、自らの雇用の喪失を帰結するだけだと思っているからだろう。しかし、手を拱いている時期では今やないのではあるまいか。


 かく言う私も、実際にこれまでに何か行動を起こせているわけではない。しかし今後は、こういう問題を問題とする動きにもっと注目し、機会があれば私自身そのような運動に参加していきたいと思っている。もちろん本ブログでも、もっとそのような問題への関心を高めていきたい。


 自殺者の統計に関連する朝日新聞の記事は以下のとおり(リンクはこちらこちら)。

自殺者10年連続で3万人超す 高齢者や働き盛り増加
2008年6月19日12時10分


 昨年1年間に全国で自殺した人が前年比2.9%増の3万3093人で、統計が残る78年以降では03年に次いで過去2番目に多かったことが19日、警察庁のまとめでわかった。60歳以上の高齢者や、働き盛りの30歳代がいずれも過去最多だった。自殺者が3万人を上回ったのは98年以降10年連続。


 原因・動機については、自殺対策に役立てるため、今回のまとめから52分類に細分化。三つまで複数選択できるようにした。原因・動機を特定できた2万3209人では、健康問題が1万4684人で最も多く、経済・生活問題が7318人、家庭問題が3751人、勤務問題が2207人と続いた。


 健康問題の内訳では、うつ病が6060人で最多。このうち30歳代が996人、40歳代が940人で、50歳代以上だけでなく、子育て世代にも広がっている。職業別では、被雇用者・勤め人が1341人、自営業・家族従事者が371人だった。


 勤務問題の内訳=図=では、多い順に「仕事疲れ」が672人、「職場の人間関係」が514人で、いずれも30歳代が3割弱を占めて最多だった。「仕事疲れ」の8割以上がサラリーマンなど被雇用者・勤め人だった。


 都道府県別では東京3047人(前年比382人増)、大阪2241人(同289人増)、神奈川1845人(同206人増)など大都市圏での増加が目立った。10万人当たりの自殺者数では山梨(39人)が全国で最悪だった。また、いじめが動機の自殺は14人だった。


 男女別では、男性が2万3478人、女性が9615人でいずれも前年より2.9%増えた。


 年代別では、60歳以上が1万2107人(前年比8.9%増)で2年連続で増えた。前年を上回ったのは、40歳代の5096人(同1.8%増)、30歳代の4767人(同6.0%増)だった。

都市部・30代で増える自殺、どうすれば…
2008年6月20日


 自殺者は地方で減少傾向にあるが、都市部では増えている。こんな「地域差」が、19日に警察庁が公表した自殺統計で浮かび上がった。正社員は過労、非正社員は将来の展望が描けない。30代は過去最多だった。相談を受ける窓口や自治体の担当者は危機感を募らせる。


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 「息子が亡くなり、残された嫁と孫の生活が心配です……」


 今月14日に全国で実施された「過労死110番」。その大阪会場に、過労によって自ら命を絶った30代半ばのサラリーマン男性の母親から、憔悴(しょうすい)しきった声で電話があった。


 母親の訴えによると、企業の研究開発部門で働いていた息子は、人員減のなかで連日、深夜2時、3時までの長時間労働を強いられた。さらに不慣れな非正社員のフォローもしていたという。相談内容は労災補償の手続きについてだった。


 ほかにも毎月100時間を超える残業があり、うつ病になったという医療機関の職員からも、「労働組合も味方になってくれない」と切迫した相談があった。


 大阪過労死問題連絡会事務局長の岩城穣弁護士は「今の30代は、上司が人員削減され、部下には非正社員が多く、仕事の負荷が高まっている。職場の支援が得にくく、1人で仕事を抱え込んでいる。働き盛りは肉体的には元気なだけに、先に精神が破綻(は・たん)してしまう」。


 昨年1年間の30代の自殺者は、全国で4767人にのぼり過去最多だった。原因・動機を見ると、うつ病を含めた「健康問題」が4割を占め最も多かった。次いで、失業、就職失敗、多重債務などの「経済・生活問題」、職場の人間関係、仕事疲れといった「勤務問題」も目立つ。


 京都いのちの電話では、2本の回線で、1日70件前後の相談を受けている。受話器を置くとすぐに次の電話がかかる。一昨年から昨年前半にかけて、30代の男性からの電話が目立ったという。岡田盾夫事務局次長(64)は「定職につけず将来の展望が描けない悩みや、職に就いている人でも疲れ切ってうつ状態になっている話を聞く。若い人の生きづらさを痛感する」と話す。


 2年前から自死遺族が語り合える場を設ける「こころのカフェ きょうと」は19日、京都市中京区で開いた集いの中で、昨年の自殺者が3万人を超えたことが話題になった。「しんどいとさえ言いにくい世の中では、個人の努力で乗り越えられないこともある。社会で生き方、働き方を見直していかないといけない」。参加者からそんな意見も出た。


 代表の石倉紘子さん(64)も遺族の一人だ。「30代は家でも社会でも中心的な存在で責任ある立場にいながら、労働条件が悪い。企業内での精神状態のチェックやカウンセリング、かかりつけ医から精神科医につなぐ連携といったことを真剣に考えてほしい」


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 全国的に大都市圏で増加傾向が際立ち、東京都が前年より382人増の3047人、大阪府は289人増えて2241人だった。


 自殺率が全国最低ながら、前年より206人増えた神奈川県の担当者は、「大変残念な結果だ。やれることはすべてやるしかない」と話す。昨年8月、官民挙げて「かながわ自殺対策会議」を発足させ、対策に本腰を入れ始めた矢先だった。働き盛りの男性の自殺者数が多く、「都市部特有のストレス社会のなかで、仕事のしわ寄せがきているのではないか」(担当者)とみる。


 関西いのちの電話大阪市淀川区)の八尾和彦事務局長(60)は「つながりの希薄さに加え、派遣社員やフリーターたちの将来への不安など、都市部は雇用問題のストレスが大きい」と話す。


 一方、自殺者数が前年より76人減り、人口10万人当たりの自殺者数(自殺率)のワースト1位の座を返上した秋田県。秋田大医学部の金子善博准教授(公衆衛生学)は「自殺者の減少は行政や民間の活動の成果だが、まだ自殺率は高い」と話す。


 01年度から自殺対策を本格化。県広報紙に相談先を掲載したり、秋田大学の協力を得て自殺要因の一つであるうつ病についての講演も開いたりしている。


 昨年6月には「借金で死ぬ必要はない」と民間による多重債務者の互助組織「秋田なまはげの会」が立ち上がった。相談者は1年で350人超となった。