朝日新聞もここまでひどいとは――国会の論戦の報道の仕方


 驚きあきれるばかりである。次の記事(リンクはこちら)を読んでそう思ったのだが、

民主に「対案」なく論戦広がらず 道路国会
2008年02月13日22時06分


 「道路国会」の序盤はすれ違いで終わった。衆院予算委員会を舞台にした08年度予算案審議は、福田首相出席の基本的質疑を終え、13日から一般質疑に入った。民主党は論戦を通じて、政府の道路整備中期計画の縮小や道路特定財源一般財源化を要求。特定財源の問題点をあぶり出そうと、不明朗な入札方法や中期計画の前提となった交通量推計のおかしさも追及した。だが、本質論はかみ合わないままで、議論は平行線をたどった。


 民主党岡田克也元代表は7日の質疑で、道路計画の縮小、道路特定財源一般財源化を示唆していた小泉元首相の発言を取り上げ「首相の約束は簡単に変わっていいのか」と追及。「計画を作った20年前に想定した日本と違う」「道路だけがなぜ特定財源なのか。一般財源化して、各市町村と議会が独自に決めるべきだ」など、そもそも論でもたたみかけた。


 首相は「計画の全区間を整備すると決めたわけではない」などと防戦に追われたが、一般財源化については、道路建設で余った分だけを回す従来の方針を繰り返すにとどまった。一方、同じ日の質疑で自民党谷垣禎一政調会長は、民主党が対案を出さないことが論議が深まらない原因だと言わんばかりに「ぜひとも法案にしてもらい、道路事業計画も作って一緒に議論すれば知恵が出る」と指摘した。


 2日目の審議からは、民主党は「各論」に重点を移した。耐震偽装問題の追及で有名になった馬淵澄夫氏のほか、前原誠司副代表らが特定財源の使い道や天下り問題などを追及。不透明な入札や道路建設の前提になった交通需要推計が最新のデータでなかったことを明るみに出した。だが、問題が具体的になるほど、冬柴国土交通相ら担当閣僚が答弁に立つ場面が増え、「首相対民主党」の構図は減らざるをえなかった。

 いつから朝日新聞までが政府・与党の御用新聞になったのかと思わせるほどの、ひどい内容の記事である。


 すなわちまず、記事には

 自民党谷垣禎一政調会長は、民主党が対案を出さないことが論議が深まらない原因だと言わんばかりに「ぜひとも法案にしてもらい、道路事業計画も作って一緒に議論すれば知恵が出る」と指摘した。

とあり、そして記事の見出しには

 民主に「対案」なく論戦広がらず

とあるではないか。これでは朝日新聞は政府・与党の立場に立って記事を書いていると言わざるをえない。


 与党の政策を批判するのに本来対案など必要ないことは自明である。データを握っている役所が、野党が対案を作ろうとする際には協力しないのが現実なのだから。与党の政策をきちんと批判すれば野党の使命は充分果たしているのであり、そして実際、民主党を始めとする野党はよくやっている。


 例えば、本来今朝の新聞できちんと報じられるべき(だが、他紙はいざ知らず、朝日新聞には一行も出てこなかった)2月12日の予算委員会の審議の一部だが、馬淵議員は非常に興味深い質疑を行なったようである。議員自身のブログから引用すると、

 今国会初めての予算委員会の出番がようやく回ってきた。
午前10時半からのスタート。
(中略)


冒頭、先週の金曜日の笹木代議士質疑に対する町村官房長官の答弁に対し与党から(!?)削除要請が来た。「言い過ぎだ」とのクレームが与党内でも出た模様。これに対し、町村官房長官に謝罪を要求。ま、これも仕事だ。


引き続いて本題。


「道路の中期計画」の位置づけの確認を行う。これは、従前の「道路整備五箇年計画」の延長にあるものとして「社会資本整備重点計画」に即したものであるとの大臣答弁を確認。その上で、道路の整備に重要なファクターが「費用便益分析」であることも確認しつつそれに大きな影響を与えるのが「交通需要推計」であることの認識を確認した。


国交省では道路の整備は、「費用対便益」が1より大きくないと実施できないことになっている。そしてその費用対便益に大きな影響を与えるファクターが「交通需要推計」だ。


国交省が59兆円もの巨費を投じて整備するとしている道路の整備計画は、費用対便益分析の結果が1より大きいあるいは1.2より大きいとして事業の実施が決められている。そしてその費用対便益を決定する「交通需要推計」は平成11年センサス調査に基づくものである。


しかし、実は平成17年センサス調査に基づく平成19年3月の段階での「交通通需要推計」が存在していたのである。国交省はこのことをヒタ隠しに隠していた。

そして、59兆円の中期計画を平成11年センサス調査の結果に基づく需要推計で押し通そうとしていたのである。
理由は簡単。将来交通需要推計が著しく下落しているからである。道路族が道路を造り続ける根拠が根底から崩れてしまう。
交通需要が減り続けている直近平成18年度までの実績も、公表していると言いながら素人目には全くわからなくしてしまっている。都合の悪いデータを隠しておきながら、59兆円の計画を国民に押し付けようとする実態を許して良いのか!? 言語道断。社保庁となんら変わらない。


このことを、徹底的に糺した。(後略)

 10年間で59兆円もの費用をかけて道路整備を行おうとする国交省の、その政策立案の前提が崩れていることを指摘したこの議論のどこが「本質論」でないのか。くだんの記事を書いた朝日新聞の記者は、はっきり言って大馬鹿者である。明朝、紙面の記事に署名が出ているかどうか確認して、馬鹿者の名前を明記・銘記することとしたい。


 メディアの劣化は、とどのつまり、記事を書く記者が馬鹿になっていることに存すると言ってよい。その好例を見せつけられた思いである。


 そして言うまでもなく、これほど明白かつ説得的な批判を受けてもなお計画案を見直そうとしない政府・与党(特に冬柴国土交通大臣及び、その任命権者である福田首相)のひどさは目に余る。この政権は何としても退場してもらわなければならない。


追記1
 今の政府がひどいのはもちろんこれに限らないのであって、一々挙げていたらきりがないが、しかしそれでも、死刑制度に関する暴言を吐いた上で死刑執行を次から次へと行なっている鳩山法相の次のような暴言には言及しておかなければならない。時事通信の記事から引用すると、

2008/02/13-16:38 鹿児島事件「冤罪ではない」=鳩山法相


 鳩山邦夫法相は13日、法務省内で開かれた検察長官会同で訓示し、違法な取り調べが問題となった鹿児島県議選の買収無罪事件について「冤罪(えんざい)と呼ぶべきではないと考えている」と述べた。


 鳩山法相はその後、記者団に対し「定義がはっきりしない冤罪というものをこの事件まで適用すると、無罪事件は全部冤罪になってしまう。裁判の結果、無罪になったケースととらえたい」と説明。一方で「捜査、取り調べ上の問題があったことはよく分かる」とした上で、「検察官の士気を上げるために、十分反省した上で『積極的に前を向いてくれ』と言いたかった」と釈明した。

 鳩山邦夫はどこまで馬鹿なのか。冤罪とは無実の人に罪が着せられて、晴れてその人の無実が明らかになった場合に使われるべき言葉であり、鹿児島の事件の被疑者たちは皆冤罪だったと当然言ってよい。この程度の日本語もわからないやつに法務大臣は務まらない。まともな首相なら当然即刻解任するべきだが、解任しない福田という首相はどうしようもない。


追記2
 上で朝日新聞の記事のひどさについて触れたが、毎日新聞は、馬淵議員の指摘をきちんと報じていたようである。「衆院予算委:「交通量もっと少ない!」 「古い推計で道路計画」民主、政府を批判」という題の、その記事へのリンクをつけておくことにする。


追記3
 くだんの記事を書いた記者は林尚行というそうである。ただ、「大馬鹿者」は私の言いすぎだったかもしれない。記者氏は「本質論はかみ合わないままで」と書いており、馬淵議員らの議論が枝葉末節の話だとは必ずしも言っていない。とはいえもちろん、政府・与党の言い分が全くの言い逃れレベルでしかないのを批判していない点で、記事の内容は極めて不十分なのだが。