小沢一郎民主党代表インタビューについて


 やや間が空いてしまったが、朝日新聞11月16日づけ朝刊に掲載された「小沢一郎民主党代表インタビュー」について感想を述べておきたい。なお、じきにWeb上から記事が見られなくなるだろうから、末尾に全部を転載しておくことにする。


 福田と小沢の会談から持ち上がった大連立騒動に関しては、本ブログの立場は既に過去の記事で述べたとおりであり、こと小沢民主党代表に関して言えば、本ブログの立場ははっきり批判的である。その上で今回のインタビューについて言うなら、「全く懲りない男である、小沢は」、これが一言で言った場合の感想である。小沢を慰留して代表にとどまらせた以上、その体制を今変えるわけにはいかないだろうが、民主党はすべからく脱小沢を急ぐべきである。


 以下、気がついた点にコメントを加えておくことにする。


 まず、今回の大連立騒動に関しては、もっぱら小沢の行動ばかりが問題になったが、もっと問題なのは、一国の首相とあろうものがナベツネのようなジャーナリストごときの夢想の片棒担ぎ、というよりむしろ、その手先として行動したことである。インタビューによれば、ナベツネが動き出したのは8月末か9月初めだということだから、まだ安倍政権の時代である。ということは、とにかく大連立を実現しさえすれば、首相など誰でも良かったということになる。一国の首相がこれくらい軽く扱われた話を私は他に聞いたことがなく、これこそが今回の騒動の一番の問題なのではないかと思うのだが、なぜそういう論調が聞こえてこないのだろうか。


 次に、小沢は「民主党で政権とるためにどうしたらいいかだけを一生懸命考えている」という趣旨のことをインタビューで繰り返し言っている。そのための政策協議、大連立であり、それが民主党が政権を取るための早道だと。この点に対する批判は既に過去の記事で書いたとおりだが、繰り返すと、自由党が自公連立政権に加わったことは、自由党がより大きな政治勢力になるために資したかどうか。答えは明らかに否であり、自由党はむしろ巨大政党たる自民党に一部を呑み込まれてしまった。その過去を小沢はいったいどう反省し、どう総括しているのか。「そんな単純な議論がわからないのか不思議でしょうがない」といった調子で小沢は大変に高飛車だが、その小沢自身がどうしてこれほど明白な問題点に気づかないのか、不思議でしょうがない。


 もう1点、小沢は一方で解散・総選挙の見通しについて「補給支援特措法次第じゃないか。(中略)たぶん、首相は米国に行って、どうしても通したいということになるんじゃないの。特措法がどうなるかが一つの大きな要素になるだろう」と言っておきながら、他方で「(安全保障には)国民は関心がない。それは政治家や政党の責任、見識できちっとした政治をやればいい。国民は生活の話だ。国民生活を、どちらの政党がちゃんとみてくれるのか。生活上の心配はみんな大変だ。選挙の時は、どんな時でもちゃんと生活を安定させていきますよと訴えるのが一番だ。生活できるようにするのが政治じゃないかと、国民はみんな思っている」と言っている。解散時の政治上の争点は選挙に影響しないかのごとくに聞こえる小沢の発言だが、果たしてそうだろうか。その考えは、少なくとも2年前のいわゆる郵政選挙については当たっていない。一方的な風が吹きまくる最近の選挙の風潮を私は肯定的に評価する者では決してないが、しかしそういう現実は顧慮する必要がある。高飛車な小沢はここでも、自身が問題点に気づいていないのではないかと思われてならない。


 独断専行が起こるのは、自分こそが一番よくわかっているという思い上がりがあるからである。小沢一郎が独断専行に走る可能性は今後も残っていると見るべきであるようだ。今の民主党の最大の不安要因と言ってよいだろう。


 以下は引用。

「政治判断、今でも正しいと」 小沢代表インタビュー
2007年11月16日08時01分


 自ら「プッツンした」と語った辞意撤回騒動から1週間。民主党の小沢代表が15日、朝日新聞の単独インタビューに応じ、福田首相との会談をめぐる一連の経緯や、新たな政権戦略を語った。


 「選挙で勝てる最大の方策で、自分の政治判断は今でも正しいと思っている。だが、みんなが望まないのだから捨てる以外ない」(大連立協議)
 「渡辺(恒雄・読売グループ本社会長)さんまでは張本人だからいい」(党首会談を持ちかけてきた相手について)
 「連立が最優先課題だった。特措法さえ連立なら譲っても構わない、憲法解釈、国際貢献の基本原則も180度転換しても構わない、そこまで言い切った」(党首会談での首相の言動)
 「自民党は進退窮まっている。民主党の目玉政策を実現できれば選挙に絶対有利だ」(大連立の利点)
 「ばかばかしい」(小沢氏離党説)


     ◇


 ――渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長が会談を持ちかけたのは、安倍政権のころか。
 だったと思うけれど。8月末か9月初めか。


 ――首相の代理人森元首相)とは、どういう経緯で会ったのか。
 (渡辺氏には)「民主党はそういう状況じゃない」と。「お国のため」と言っても(党内は)選挙に勝てる気でいる。それと「与党が政権運営がどうしようもなくなって考える話だ」と言って、しばらく何もなかった。直前に「会ってくれ」というから会った。僕は「内々に会うのはいやだ。総理のお話なら断ることはしない」と答えた。


 ――一連の過程で斎藤次郎・元大蔵事務次官が仲立ちした説もある。
 いや、そんなことは言っちゃいけない。渡辺さんまでは張本人だからいい。だが、あとは信義として言っちゃいけない。


 ――菅直人代表代行、鳩山由紀夫幹事長と事前に相談しなかったか。
 誰にもしていない。渡辺さんの話だけで相談するのは変でしょう。


 ――党首会談で解散時期を話し合ったか。
 全然ない。


 ――民主党が首相をとる可能性はあったか。
 それはないさ。彼は首相でいたいんだから。首相が連立の話を出してきた時に「おかしい。私は参院で首相指名を受けた。本当は首相指名の前に話をしなければならない」と言ったんだ。


 ――具体的な閣僚ポストの割り振りは話し合ったか。
 違う違う。連立というのは政策と人事だ。だから、人事だって「きちんと割り振る」と首相も言った。連立だから当たり前でしょ。だけど、何にしてもまずは政策協議だと。


 ――大連立の狙いは。
 首相は連立なら特措法さえも譲って構わない、憲法解釈も180度転換しても構わないと、そこまで言い切った。農業政策、年金、子育て、高速道路無料化など、我々の目玉政策ものむかもしれない。画期的なものが民主党の主張で実現できれば、選挙に絶対有利だ。だが、みんなどうせ実現できないと思っていて民主党議員でさえそんな気がある。それは権力を知らないからだ。僕は権力をとれば簡単にできることを知っている。


 ――中選挙区制に戻す話はなかったか。
 論外だ。そんなことは出ない。小選挙区制だから、政治にケリがつけられる。中選挙区制だったらぐちゃぐちゃで意味不明になる。あくまで選挙で戦って民主党が勝つためにどうするかを考えていた。


 ――首相の申し出を受けた民主党役員会はまとまると考えたのか。
 政策協議に入るぐらいいいじゃないかと言ったが、ダメだとなった。


 ――小沢氏が参院議員を連れて離党するとの話が出回った。
 ばかじゃないか。そういうばかげたことを言う人が党内の一部にいるから、いやになった。民主党で政権とるためにどうしたらいいかだけを一生懸命考えているのに。そんなことする気なら最初から自民党を出ないよ。


 ――山田洋行について小沢氏への献金や、航空自衛隊出身の田村秀昭参院議員との関係を指摘する報道もある。
 何の関係もない。(事務所の政治資金)担当者を何代さかのぼってもわからない。「何で献金があったんだ。知っているのか」と言ったら「知らない」と。もう全部返した。パーティーかどっかで会ったのかも知らないが、全然知らない。わけがわからん。


 ――一連の経過の総括と今後の政権戦略は。
 政治判断は今でも正しいと思っている。選挙で勝てる最大の方策だ。だが、みんながそれを望まないというんだから、その方法は捨てる以外ない。残念だけど。もう選挙で勝つ以外ないさ。特別なことは何もない。


 ――次の総選挙目標を「衆院第1党」としたが、単独過半数に届かない場合どうするのか。
 野党で過半数でいい。共産党を入れるわけにはいかないが、きわどい状況なら、首相指名で共産党はどうするのか。自民党に入れるのか、どっちに入れるんだとなる。


 ――自民党と組む選択肢はないのか。
 こっちが過半数取っているのに自民党と組むことはない。最低でも野党連立までいきたい。


 ――衆院解散・総選挙は来春が天王山か。
 わからない。補給支援特措法次第じゃないか。特措法ができずに選挙をしたらまた特措法成立まで2カ月遅れる。特措法ができなければ、その次の臨時国会までできないことになる。たぶん、首相は米国に行って、どうしても通したいということになるんじゃないの。特措法がどうなるかが一つの大きな要素になるだろう。


 ――衆院3分の2議席で再可決する正当性をどう考えるか。
 いいさ、使えるなら使ったって。憲法で認められているんだから。けれども、それはそう簡単な話じゃないね。


 ――首相問責決議案は法的には解散に直結しないが、政治責任は伴う。
 まだ考えていない。参院にきたばっかりだ。心配ない。見ていればわかるよ。フフフ……。


 ――衆参ねじれ国会で対立を打開するルールをどう考えるか。
 選挙する以外ない。衆参で勢力が違っている時の政策協議は、連立協議と同じようなものなんだ。連立を否定している限りは、基本的な問題の政策協議はできない。ケリつくまでやりましょうと、デスマッチみたいなものだ。国民生活に直結するもの、薬害や災害のような人道的な問題はやるが、基本的に考え方の違うものはどうしようもない。国民が選ばなきゃいけない。


 ――総選挙の争点設定は生活重視か。特措法や安保問題は。
 (安全保障には)国民は関心がない。それは政治家や政党の責任、見識できちっとした政治をやればいい。国民は生活の話だ。国民生活を、どちらの政党がちゃんとみてくれるのか。生活上の心配はみんな大変だ。選挙の時は、どんな時でもちゃんと生活を安定させていきますよと訴えるのが一番だ。生活できるようにするのが政治じゃないかと、国民はみんな思っている。


 ――あとは選挙に全力投球か。
 少しゆっくりしてからだ。かなりいい状況ではある。運動量で自民党に負けないようにすれば勝つ。自民党の半分でもやれって言うんだ。絶対勝つよ。ほんとにもうイライラする。


 ――国際治安支援部隊(ISAF)への参加が可能とした考え方は党内に十分浸透したか。
 何にでも参加すると言っているんじゃない。その時の政府が吟味して、どの分野にどれだけ参加するかを決める。国連活動に参加することはマニフェストで国民に約束したことだから、これから論議する話ではない。何でそんな単純な議論がわからないのか不思議でしょうがない。


 ――社民党は反対だ。選挙協力に響かないか。
 反対でいい。反対だけれど、それ以上に自民党政権を倒さなきゃいけないなら、それでいい。そういう割り切りが日本人は不得手だが、ドイツの連立だって全部一致しているわけじゃないでしょう。他の政策が多少違ったって協力すればいい。政権取った時に一緒に連立を組むかは別だ。選挙協力は何もおかしくない。共産党とだっておかしくないが、政権に入れるかというと別問題だ。


 ――日米関係を心配する向きがある。
 何の心配もない。ブッシュ大統領なんて米国民に支持されていないんだから、何で気兼ねするんだ。いま米国内でもブッシュ大統領の政策は批判の的だ。


 ――党首会談では恒久法で合意したのか。
 そんなことはない。原則がはっきりしなければ、法律もつくれない。「自衛隊派遣、安全保障については憲法解釈がクリアにならなければ、連立もへちまもない。特措法には応じられない。あなたが土下座して頼んだって無理だ」と言った。(2回目の会談が)中断したのは「無原則な自衛隊派遣はダメだ」と言うと、首相は「私もそう思う」。「一人では決められない」と言うので、「法制局になんか聞いたってダメだ」と言ったら、「法制局じゃない」と。基本原則があいまいでは基本法をつくりようがない。


 ――総選挙前に恒久法制定に向けた政策協議を自民党と行う可能性はないのか。
 ないない。


 ――政権を取れば制定を考えるのか。
 憲法に逐条として出ていない部分について、自衛隊派遣のきちんとした原則を明記して憲法を補完する基本法が必要だ。そうしないと憲法を改正するまで憲法問題が続いちゃう。選挙で多数取れば、基本法を進めたほうがいい。