守屋前防衛事務次官をめぐる疑惑


 インターネット上に出ていない記事だが、そこで指摘されているのは、ほとんど黒に近い灰色の疑惑と言ってよい。10月30日朝日新聞朝刊2面のその記事を以下備忘のため引用しておくことにする。

 だが、便宜供与を否定した守屋氏の証言は、不自然な点も散見される。守屋氏は昨年12月8日、航空自衛隊次期輸送機CXエンジンの製造元である米ゼネラル・エレクトリック(GE)の幹部との会談に宮崎氏[宮崎元伸山田洋行元専務]が同席したことを認めたが、当時、宮崎氏は山田洋行から独立し、日本ミライズを立ち上げた直後。GEがCXエンジンの代理店を山田洋行から日本ミライズへ変更すると防衛省に通告したのは半年近く後で、この時点で代理店でもない宮崎氏がその場にいたのは不自然だ。


 会談の所要時間について、守屋氏は「15分ぐらいの表敬」と答えたが、防衛省の記録に約50分間とあることを指摘されると、「私は英語はたしなみません。通訳を通してやっていますから、時間については一切記憶がございません」と前言を翻した。会談の中身についても「覚えておりません」と答える一方、「CXエンジンの代理店契約の話は一切出ていないと言い切れるか」という問いには「一切しておりません」と言い切った。


 そもそも、手を挙げた3社の中から、GEのエンジン採用が決まったのは、守屋氏が事務次官に就任した1週間後の03年8月8日。「選定にかかわった記憶はないか」と聞かれた守屋氏は、いったんは「装備品の選定は担当者が検討する。私が携わることはない」と否定したが、自らが議長を務める装備審査会議で決定がなされたことを指摘されると、しどろもどろとなった。


 当時、GEの代理店が山田洋行だと知っていたか質問されると、「事務次官としての職務権限にかかる問題になりますので、補佐人と相談する時間をいただきたい」と証言を中断。再度の質問に、「承知しておりませんでした」と答えた。


 山田洋行が6年前、海上自衛隊ヘリコプターの装備品代金を過大請求しながら処分を受けなかった問題では、山田洋行側が当時、装備品調達の担当ではない防衛局長の守屋氏に経緯を説明していたことが明らかになっている。


 この点について、守屋氏は「私の所に来たという人に昨日、電話して確認した。『過払いの事案を起こし、恥ずかしく思っている』と私に説明したという」と述べたが、「私はその説明を聞いた記憶が全くない」とも、不処分決定への関与については、「私が権限を持っているわけでもない」と明確に否定した。

 見るからに嘘のオンパレードという感じがある。もちろん、記事を書いた記者がここまでまとめてくれたからわかったわけだが、一番問題なのは、守屋が防衛事務次官に就任して1週間後の「GEのエンジン採用」が、どのような議論を経て決まったかである。当然ながら防衛省には、決定に関する経緯を示す資料が存在するはずであり、防衛省は、それを残らず明らかにする義務を有する。


 また、山田洋行が過大請求しながら処分を受けなかった問題も重要である。もしここで処分を受けていれば、山田洋行は相当期間防衛庁(当時)からの受注ができなくなったはずだからである(そして、守屋の大好きなゴルフ接待も途絶えていたかもしれない――或いは逆に、強まっていたかもしれないが――)。これについても、省内でのどのような議論を経て不処分の決定が下されたかを、防衛省は残らず明らかにする義務を負っていると言わなければならない。


 いずれのケースでも、守屋が山田洋行を後押し・擁護する発言を行なっていた可能性は極めて高く、そうだとすれば収賄の可能性も出てくるのではなかろうか(賄賂は接待という形で年がら年中もらっているわけなので)。


 さらに、同日の朝日新聞朝刊3面では構造的な問題が指摘されている。すなわち日本では、軍事装備品の調達をメーカーから直接行なわずに商社を介在させ、そして防衛省はその商社に情報収集や市場調査といったことまで任せきりなのだという。「丸投げぶりは目に余る」という軍事ジャーナリストのコメントが載せられているが、それだけでなく、「輸出機能を備え」ている「欧米の軍需メーカー」と直接渡り合えないほどに防衛省の役人連中がひ弱であるということをも、この記事は示しているのではないか。実に情けない限りである。米国のメーカーだろうがなんだろうが、役所に呼び出して日本語で説明をさせるべきであり、その間に商社をかませる必要など全くない。むしろ、商社をかませることによってコストが嵩み、余計に税金が支出されるわけだから、このような慣行は全く有害無益である。


 また、慣行ということで言えば、そのような商社には防衛省或いは自衛隊で功成り名を遂げたOBが天下って、現職の防衛省の役人を呼びつけ、「営業活動」をするのだという(これに関しては「愛川欽也パックイン・ジャーナル - 守屋証人喚問で国会は」を参照)。関連企業への天下りの禁止は何よりも防衛省についてこそ必要なのではないか。


 この機会に防衛省のあり方を徹底的に見直すべきではなかろうか。守屋だけが摘発されて終わりというような話ではないはずである。