構造改革路線の正体


 朝日新聞8月3日朝刊の第4面の「逆転参院を聞く」という記事の中で竹中平蔵がインタビューを受けている。言うまでもなく竹中は、阿呆の小泉のもとで構造改革とやらを推し進めた張本人である。以下一部引用すると

 ――自民党惨敗の原因はどこにありますか。
 郵政民営化に匹敵するような、国論を二分する大きなテーマを打ち出せなかったことだ。成長戦略や教育再生には誰も反対しない。教育再生ならば、文部科学省の制約から解き放つための「東大民営化」を打ち出したらいい。これなら賛否が割れる。そうしたことをせずに無難にやろうとしたから、有権者の政策的関心が極めて低くなった。そこに社会保険庁の問題が起き、国民が怒った。
 小泉前首相は「ワンフレーズ・ポリティクス」と批判されたが、政治はワンフレーズでなければだめだ。政策は複雑で難しい。国民に全部理解してもらうのは無理。(以下略)


(中略)


 ――地方の1人区で自民党が敗れたのは、構造改革路線への批判からではないですか。
 それは抵抗勢力が使うロジック。(中略)05年の郵政選挙から2年間で、経済はさらに良くなった。外国からみると自民党の敗北はとても不思議に見える。地方でも有効求人倍率は上がり、景気拡大は波及している。


 ――野党は、景気回復の利益を株主と経営者が山分けし、従業員や下請けは恩恵を受けていないと批判しました。
 企業の取り分が増えたのは事実だが、90年代はその逆が極端に起き、労働分配率が上がりすぎた。それを下げるための調整が行われている。地方が疲弊したのは改革のせいではなく、地方の産業が弱くなったからだ。その処方箋は野党からも出されていない。農家へ補助金をばらまいたら良くなるのか。本当にやったら、「国土の均衡ある衰退」で国全体が沈む。


(以下略)

 そもそも地方の産業が弱くなったことについての与党の責任を棚上げしているのも見逃せないし、また、私の誤解でなければ、地方で上がっているという「有効求人倍率」とは正規雇用の倍率ではないのではないか。


 しかし何よりも忘れてならないのは、引用した箇所で竹中は「地方」と言ってはいるが、しかし実は竹中にとっては地方などどうでもよいのだ、ということである。


 現在なぜか閲覧できなくなっている「石田日記」というサイトの今年の6月13日の記事を、幸い他のサイトがまるまる引用していたので、竹中という人間が実際にはどういうことを言っていたかがそれによってわかる。以下転載すると(強調はvox_populiによる)、

 某勉強会で、国民新党の幹事長である亀井久興議員に来ていただく。


(中略)


 で話を聞いてみると、論理的だし分かりやすいし、非常な人物だと思いました。33年も議員をされているといことで、自民党の良質な部分ここにありという感じがします。


 まず、ここ最近の国会というのは長い議員生活の中でも本当に異常な状態であるという話をされた。この国会では強行採決が連発されたけど、以前は2年に1回とか、それぐらいのものだったと。


 国会というのは、権威があって、総理や大臣を両議長が呼びつけて、諭したりしていたものだが、それがまったく逆になった。


 国会や党内で議論せずに官邸で決めたことを、「それ、やれっ」とばかりに押し通す。今ほど、議会の権威が地に落ちた時は無い。


 これは7年前に小泉総理が誕生した時から始まっていて、あの頃、経済財政諮問会議に対応する党の部会長をやっていたが、随分竹中さんも含めて議論した。


 国民から選ばれてもいない経済財政諮問会議のメンバーが、「議員」と呼ばれ、政策を決定していったのはおかしいことだ。竹中さんは、「強いものはより強くすることで全体がよくなる」というアメリカ的な考え方だったが、それが日本に合っていたとは思えない。政策が変われば、当然私達の生活や社会も変わるのだ。諮問会議のメンバーの一人と話したときに、「それじゃ、地方はどうなる」と言ったら、「亀井さん、そんな田舎には住まなきゃいい」といわれて、絶句した覚えがある


 自民党というのは戦後の保守合同でできた政党で、いわば保守連立政権みたいなもので、色々な意見があった。そして、社会党の意見もいいところ取りをして、成長は自民党が、そして公正な配分は社会党がというような役割分担で、戦後の貧困から、一億総中流とよばれるような社会を創ってきたのだ。


 それを全く否定しているのが、小泉−安倍政権である。


 というような話をされてました。政権に33年いた人の話というのは、聞き所も多く、得る所が多かったです。


 構造改革路線とは、竹中の言い方によると、一部を儲けさせてその儲けを全体に波及させるやり方のように見えるかもしれないが、しかし実際には、一部が儲ければ後はどうでもよいというものなのである。これは社会階層についても言えることであり、一部の富める者が豊かになれば、後はどうでもよいのである(有効求人倍率を言いながら雇用の正規・非正規の問題に触れず、他方で労働分配率――とはつまり、労働者の所得――の低下を是としている)。富裕層が富むことによるtrickle down(したたり落ち)効果などというものは既に事実によって否定されているのだから、結局「後はどうでもよい」という話なのだと理解するほかない。


 言うまでもなく、引用の冒頭部分の「政治はワンフレーズでなければだめだ」というのも、実際には、国民の関心を単純化させ、よって政治の実態から目をそむけさせようという意図のもとに語られていると見て間違いない。「東大民営化」? 民営化しようがしまいが、別にどちらだってよいが、そんなどうでもよい論点で他の政策課題がないがしろにされてはたまらない。


 竹中平蔵などになおも政治について語らせる朝日新聞の見識を疑うが、最も批判されるべきはもちろん竹中平蔵自身であり、自分の内閣で竹中を重用した小泉純一郎である。


 それにつけても、議員の世襲は政治から駆逐されなければならない。