参院選大勝を受けて、民主党は今後どうするべきか


 標記の問題に関しては、正しいと思われる方針を民主党は既に打ち出している。すなわち、マニフェストの中ですぐにも実現可能な政策から、法案として参議院に提出していき、多数を占める野党でこれを成立させ、衆議院で多数を占める与党に突きつけていくのだという。これにより、政策同士のぶつかり合いが見られることになり、議論の場としての国会が息を吹き返すことになる。本来国会とは議論を戦わせる場でなければならないのだから、支持政党の如何を問わず、これは大いに歓迎すべきことである。


 また、民主党は、参議院で野党が多数を占めたことを受けて、国政調査権を積極的に活用していくという考えのようである。これも大いに結構。何よりもまず、年金問題との関連で、資料を出そうとしない社会保険庁・厚生省に対して、資料を提出させるために国政調査権が用いられることが望ましい。年金問題が今回の選挙の最大争点だったのだから、それをめぐる不安の解消のためには、支持政党の如何を問わず、これは大いに有意義なことだろう。



 以上の基本方針を本ブログとしては大いに支持したいが、加えて、さらに民主党に考えてもらいたいことがある。今回の選挙でいわゆる「姫の虎退治」旋風の結果落選した片山虎之助氏に関する記事だが、
「新・郵政族のドン」片山氏落選で通信・放送業界に波紋

「新・郵政族のドン」片山氏落選で通信・放送業界に波紋
2007年07月30日22時05分


 「新・郵政族のドン」と呼ばれるほどの影響力をもつ片山虎之助自民党参院幹事長が参院選(岡山選挙区)で落選し、通信・放送業界に波紋が広がっている。NHK改革などで業界への厳しい姿勢を続けてきた竹中前総務相、菅総務相の路線に対抗するため、片山氏が頼みの調整役だったからだ。自民党内に「後継者」が見当たらず、業界内には「民主党にも働きかけよう」という声が出始めている。


 片山氏は初代総務相として業界への影響力を強め、自民党内で通信・放送産業高度化小委員長として仕切り役を務めてきた。「片山さんに代わる人物が自民党内にいない」(民放キー局幹部)、「『重し』を失ってしまった」(電話会社幹部)。業界関係者はショックを隠せない。


 通常国会で継続審議となった放送法改正案の提出前、菅総務相はNHKの受信料義務化について「受信料2割値下げとセット」との方針を打ち出した。NHKは「とても取り得ない」(橋本元一会長)と抵抗。これを調停したのが片山氏だ。橋本会長を国会の一室に呼び出して調整。菅総務相は結局、改正案への盛り込みを見送った。


 片山氏は「いろんな圧力のガス抜き役、防波堤」(NHK関係者)だった。NHKが9月に策定する経営計画に向けて値下げ論議が再燃しつつあるだけに、防波堤を失ったNHK幹部は「菅総務相と直接話し合うしかない」と不安げだ。


 民放では、番組捏造(ねつぞう)問題を機に菅総務相の主導で放送法改正案に放送局への新たな行政処分が盛り込まれた経緯がある。日本民間放送連盟は「番組への介入だ」と反発。片山氏が中心となって「自主規制が機能している間は発動しない」という留保条件をつけるように調停した。審議は秋以降に持ち越されており、片山氏抜きで「留保条件どころか、法案自体がより厳しい内容になって出し直しになるのでは」と危ぶむ民放幹部もいる。


 NTTについても、総務省は2010年に再分割についての是非を議論する計画だ。NTTは、片山氏が不在となれば竹中前総務相らが唱えていた再分割論が勢いを増しかねない、と恐れる。


 一方の民主党内には、放送法改正案の新たな行政処分について「言論の自由を侵している」という反対意見が強く、業界の意向に沿った主張もある。


 前回の総選挙、今回の参院選の両方に言えるのは、票の入り方が極端に動いているということである。言うまでもなく、総選挙では自民党が大勝、これに対して今回の参院選では民主党の大勝、という具合にである。これは、政治に対する国民の関心の高まりを示しているという意味では評価してよいのかもしれないが、しかしながら、民意の変化がかなり表面的・皮相的な判断に基づいて起こっているのではないかという意味では、危惧すべきものをも含んでいる。
(最近の選挙を眺めるにつけて思うが、今の政治においては、役者こそが最も政治家にふさわしいと見なされかねない状況が存在するのではなかろうか。表情や仕草の細部に至るまでを完全にコントロールする、官僚の作文を丸暗記して見事に話す等々、優秀な役者の要件と見栄えのする政治家の要件とは、相当に重なってきているように思われる。もちろん、このようなことはより良い政治のためには決して望ましくないのだが。)


 その関連で、最近の(といっても、既にここ20年来、そうなのかもしれないが)選挙に占めるメディアの報道(特にテレビ)の影響の大きさを考えると、現安倍政権の菅(すが)総務相のような、報道に対して手を突っ込もうという政治家が増えている(改めて言うまでもないが、安倍も中川昭一も、NHKの報道に対して露骨に加入しようとしたのである)という現状は、真に懸念すべきものである。特に、公共放送であるNHKの報道が歪められるようなことになっては、国民の政治理解は単に表面的・皮相的というだけでなく、歪んだものになりかねない。


 そこで民主党に期待したいが、特にNHKについて、一方でNHKの会計の透明度を向上させ、半強制的に国民から徴収されている受信料の使われ方について、より多くの納得を国民から得られる仕組みを考えること、他方で、NHKの報道の中立性がより守られるようにすること、この両方を党として考えていただきたいと思う。(NHKにこだわるのは、現状では残念ながら民放には多くを期待できないからである。)片山氏一人に放送界が頼るなどというのは本来奇妙な話なのであって、この問題で民主党にはぜひ見識を示していただきたいと願う。たとえ、後になってNHKなどそのメディアから民主党が厳しく批判されることになるとしても、である。


 それにつけても、議員の世襲は政治から駆逐されなければならない。


追記
 上で記した民主党の今後の基本方針について、代表代行の菅直人氏自身が書いている文章がある(「菅直人の今日の一言」8月1日づけ)。備忘のために引用しておくことにする。

 民主党がこれからどういう道筋で政権交代を目指すのかをよく問われる。以下のように考えている。


 マニフェストの盛り込んだ政策を①野党でも実現可能なもの、②来年度予算に絡めて提案するもの、③政権交代後に実現するものに区分する。そしてまず①に区分される年金流用禁止法や政治資金規正法の強化など与党も反対しにくい法案をできるだけ早期に参院に提出し、与党の賛成も得て成立させたい。次に年金通帳実現や農業の戸別的所得補償など来年度の予算で行う政策を法案として秋の臨時国会参院に出したい。同時に野党が過半数を占める参院国政調査権をフルに活用し、税金や年金の無駄遣いを徹底的に調査したい。無駄遣いの阻止と徹底した分権化によって生み出される財源を最低補償年金、年金一元化子供手当てなどマニフェストに盛り込まれた③に区分される政策の実現に振り向けたい。このように民主党政権が誕生すれば実行する政策の全体像を国民に示しながら、最終的には政権選択のための衆院の解散、総選挙に追い込んで行きたい。