アメリカの対イラク軍事攻撃がはらむ、もう一つの問題性−−「傭兵」ないしは「戦争の民営化」

 本ブログでは時々ビデオニュース・ドットコムの番組(主にいわゆる「マル激」)をとりあげているが、言わばそのアメリカ版とでも言うべきものとしてDemocracy Now!というのがある(むしろ、これを日本で真似したのがビデオニュースなのかもしれない)。


 このDemocracy Now!は、ビデオニュース・ドットコムとは異なりはっきり左翼的と言ってよい傾向を有し、もしカストロが病床から人々に語りかける映像が放映されたなら皆涙を流して喜ぶであろう、そういう人々が製作していると見てまず間違いないだろう。
(他方、ビデオニュース・ドットコムの政治的旗幟が鮮明にならないのは、一見リベラルに見えながら実は愛国心ナショナリズム大好きの、浅薄だが器用にしゃべる大学人である宮台真司が起用されていることに、挙げて由っていると見てよいだろう。)


 とはいえ、政治的傾向がはっきりしすぎだから駄目だなどと言うつもりは毛頭ない。カストロを見て涙を流して喜ぶ趣味は私には全くないが、しかし今の世界、特にアメリカでは、右派的傾向が強すぎであり、そのメインストリームからでは見えてこないことが、こういう媒体からは聞こえてくると言ってよいのではなかろうか。(そのような媒体としては他に「World Socialist Web Site」というものもある。)


 中でもここ数ヶ月の間に何回かにわたって取り上げられてきた、Blackwaterを中心とするいわゆる「傭兵」ないしは「戦争の民営化」の問題は、いわゆるイラク戦争の中で提起されている諸問題の中でも非常に深刻なものであり、日本の主要メディアからもこれについては全く何も聞こえてきていないだけに、せめて本ブログで、Democracy Now!の番組の紹介という形でだが、書いておくのは無意味でないのではないかと思われる。
(なお、私自身は「イラク戦争」という言い方は好まない−−この戦いの実態は、アメリカが他国に対して全く一方的に(もちろん故なく)軍事攻撃を行ない、壊滅状態に陥った同国(もちろんイラクのこと)に軍隊を派遣して、駐屯と占領の中間のようなことを行なっているというものなのではないか、と思われるからである。)



 このBlackwaterをめぐる問題はJeremy Scahill(スケイヒル)というジャーナリストが精力的に取材しており、その著「Blackwater: The Rise of the World's Most Powerful Mercenary Army」という本はNew York Timesのベストセラーにここのところずっとランクインしているとのこと(今回見てみたら、「Hardcover Nonfiction Published: June 3, 2007」で21位だった)。


 Democracy Now!でJeremy Scahillをゲストに迎えた番組の内容は多量に上るので、以下何回かに分けて順次紹介していくことにするが、最初に当たる今回はまず「Our Mercenaries in Iraq: Blackwater Inc and Bush's Undeclared Surge」という番組を紹介しておく。なお、リンクをつけてあるので、英語に自信のある方はご自分で番組をご覧になることをお勧めする(視聴可能、transcriptあり)。まだ30代と思われるScahill氏の英語は、早口だが癖がなく、聞き取りの練習にはもってこいではないかと思われるので。



 Blackwaterというのはアメリカの「private military company」(訳すと「民間軍事会社」)で、1996年ないしは1997年に創立され、現在20000人の兵士を用意でき、かつ20機の飛行機(砲撃可能なヘリコプターを含む)を保有するとのこと。Scahill氏に言わせると「対テロ戦争におけるブッシュ政権の近衛部隊」と称すべき存在であるらしく、例えば前イラク大使で先ごろ国連大使へと転出したZalmay Khalilzad氏(アフガニスタン出身)の警護を担当していたらしい。もちろん、傭兵を供給している私企業はBlackwaterだけではないが、傭兵供給で最も利益を得ているのはこのBlackwaterであるようで、Scahill氏は「ネオコンの政策を一番体現しているのはハリバートンHalliburton)ではなく、ブラックウォーター(Blackwater)だ」と言っている。


 傭兵の活用という政策については、まず布石を敷いたのはまっくろけのチェイニーで、その時期はチェイニーがブッシュ(父)のもとで国防長官だった頃に遡るとのこと。但し、これについてはこの回の番組ではあまり詳しく語られていない。次いで、2001年9月10日(9・11の前日)、ラムズフェルド国防長官(当時)がPentagon bureaucracyに対して「宣戦布告を行なった」。その中身はというと、国防(省)は「官僚組織というよりむしろ会社のように運営されるべきだ」というものらしい。これはもちろん、少数の勢力で先端的兵器を使ってピンポイントで攻撃して成果を挙げるという、変化したとよく言われる戦闘方法(のあり方)にも呼応しているのだろう。


 現在イラクには米軍の他にUS contractorsが10万人(近時では12万人という話もある)おり、そのうちの4万8000人が傭兵だとScahill氏は指摘している。このあたりのことは、別の番組を紹介する際にも触れることになるだろう。


 最後に触れておかなければならないのは、Blackwaterという会社にかかわっている弁護士などの顔ぶれである。弁護士としてはJoseph Schmitz(この人物は以前ペンタゴンのInspector Generalだったとのこと)Kenneth Starr(これは、周知のように、クリントンの下半身スキャンダルの取り調べを行なった独立検察官である) がおり、さらにCofer Black(9・11の時にCIAのcounterterrorism centerの長だった人物)がいるのだそうである。さらに、Blackwaterの顧問弁護士だった人物でFred Fieldingというのがいるが、これは今やブッシュ大統領の「top lawyer」(つまり、第一顧問弁護士、といったところだろうか)なのだそうである。このような人的関係は、アメリカにおける政治と軍需産業の癒着のひどさを物語っていると言えよう。だからなおさら、日本は軍事大国を目指してはならないのである。


 この番組の紹介はこれまでとし、別の機会に別の番組を紹介し、Blackwaterのような私企業が傭兵を送り出すことの問題をさらに指摘することにする。