郷田九段、三強に食い込むか−−将棋第65期名人戦七番勝負第1局

 名人戦7番勝負の第1局は郷田九段の勝利に終わった。棋譜この記事この記事から見ることができる。
 なかなか見ごたえのある将棋だった。特に序盤から中盤にかけてが、である。


 その一例がこちら。

 確かに、「後手が△6五歩と突けば、先手は▲5三角成と銀を素抜いてくるから、したがって△6五歩とは突けない」・・・素人ならこう考えて打ち切るところだが、プロはそんなに甘くない。素人なら突けないはずの△6五歩も当然考えるはずである。それを承知の上で郷田九段は▲3七桂と跳ねた。大した挑発ぶりだと評してよいだろう。


 昨日午後4時からの衛星放送の中継では40手から50手すぎあたりまでの局面が解説されていた。このあたりもいろいろあって面白いが、ここでは割愛するほかない。ともあれ、先手が7筋の方へと盛り上がっていったのに対して、後手は△3八歩成からじっと△3七とと引き、「と金のおそはや」を地で行く作戦をとった。


 素人的にはほとんど勝負あったと思いかねないのが、次の局面。

 数手後に飛車が取られる運命にあることは素人でもわかる。穴熊に対して二枚飛車ぐらい強いものはない。これで終わりかと思いたくなる。


 しかし82手目、△7九金のところは次の図のように△8六桂打とやった方が良かったのかもしれないというのだから、将棋は難しい。

 ではなぜそうやらなかったのか。一例として、△8六桂打▲同銀△同桂▲7三飛成となった時、後手玉には▲8二銀以下の即詰みが生じている。それを外すために以下△8八銀▲同玉△7八金▲同龍△同桂成▲同玉△7九飛▲8八玉△8九飛成▲7七玉△7九龍左▲8六玉△7四桂−−となれば、これは即詰みである。したがってこうはならないはずで、△8六桂打に対しては▲同歩だろうか。すると以下△8七桂か△8七金か。いずれにしても、実際の進行では飛車金交換の後、▲6八銀打が守りの好手で、後手が金ゴマを持っていないこともあり、先手陣が俄然強くなった印象がある。


 ただ、105手目▲7六銀に対して例えば△3三飛成とと金を払って粘る手はなかっただろうか。鉄壁の受けを誇る名人にしては、粘りが足りなかったような気もする。とはいえ、全体としてはむしろ、郷田九段の不敵な指し回しの方を称賛すべきではあろう。



 現在の将棋界は、タイトル保持その他の観点から見て、羽生・佐藤・森内の三強を頂点としていると言ってよいが、そこに同世代の郷田が食い込めるかどうか。今回の一勝で名人戦は断然面白くなってきたように思われる。


追記
 土曜昼に放送されたNHKのBS「囲碁将棋ジャーナル」での野月七段の解説によると、この局面

の時に後手が△7六歩と打ち、▲同銀なら△7四桂打以下で後手勝ちだったとのことである(△8六桂打かと思ったが、そうではないとのご指摘がコメントであったので訂正。コメントに多謝)。