アメリカの猿芝居の果てに−−フセイン元大統領の処刑

 大義の全くない、アメリカによる軍事攻撃で幕を開けたイラクの混乱だが、サダム・フセインの処刑がその混乱の収拾に一役買うというようなことはまずありえないのではないか。


 言うまでもなく、「イラク戦争」などという言い方は全く的外れである。現実にあったのは、米軍によるほぼ一方的な、イラクに対する軍事攻撃であり、そしてそれはもちろん、侵略と言ってよい、国際法無視の、いかなる意味でも正当化されえない、暴虐行為であった。他のことはさて措き、2003年のあの時には、サダム・フセイン率いるイラクの側が行なおうとしていたことこそが自衛戦争だったのである。もちろん、サダム・フセインの支配全体を擁護するつもりなどは微塵もないが。


 米国による対イラク軍事攻撃の後の、イラクの混乱の中で、米軍の兵士が死んでいるのは、米国が自らの蒔いた種を単に刈り取っているにすぎないわけだが、イラクの市民が死んでいるのは、自業自得でも何でもない、もちろん全く理不尽な犠牲である。混乱に乗じてイラクの中で内乱或いは内戦が起こり、イラク人による殺戮も行なわれていることは、相当程度イラク人自身の責任だと言えようが、しかしそれはなお、アメリカがイラクを攻撃して秩序を破壊しなければ起こらなかったことなのではないか。アメリカの責任は極めて大きく、ブッシュ米大統領は人道に対する罪で告発されなければならない。


 そのブッシュがサダム・フセインの裁判を「公正な裁判」と論評するぐらい、天に唾する行為もないのではあるまいか。
米大統領「公正な裁判だった」 フセイン元大統領処刑>http://www.asahi.com/international/update/1230/012.html

 ブッシュ米大統領は29日、イラクフセイン元大統領の死刑執行後、「処刑は、彼が自分の残忍な政権の犠牲者に認めてこなかった公正な裁判の後に実施された。イラク国民が法による支配に基づく社会をつくろうという意思がなければ不可能だった」と意義を強調する声明を発表した。


 声明はその一方で、「サダム・フセインに裁きをもたらしても、イラクでの暴力は停止しない」と認め、「多くの困難な選択とさらなる犠牲が待っている」と過度の楽観を戒めた。

声明の原文でどう言っているのか確認していないが、上記記事による限りでは、「イラクでの暴力は停止しない」「さらなる犠牲が待っている」と、いずれも自動詞を使った、実に無責任な言い方である。


 言うまでもなく、裁判では一審での判決の後、ろくに審理もしないで控訴審の判決が出て確定し、そしてその後すぐに死刑執行となった。イラン(イラクではない。念のため)の当局者のコメントをテレビのニュースで見たが、そこで言われていたように、裁判が長引くとアメリカの旧悪が露呈するので、速やかな死刑執行となったのだろう。アメリカの旧悪とは共和党レーガン大統領の時代に遡ることであり、それについてはブッシュ(父)も因縁浅からぬはずである。死刑執行の時期にまでアメリカ側が容喙したかどうかは不明だが、いずれにせよ今のイラク政府はアメリカの意を体して動いているから、ブッシュの共犯関係は否定しようもない。


 ブッシュはキリスト教徒だという。彼が救いに与る可能性を否定するつもりはない。しかし、彼にふさわしい救いとは、彼がその戦争犯罪にゆえに死刑が確定し(国際刑事裁判所による訴追だと、確か死刑はないのだろうが・・・)、その死刑が執行される前に自らの罪について悔悛して、その悔悛によって救いが与えられる−−そのような救いであるべきなのではないか。



追記
 上記の話と一見関係ないように見えるが、
<「基軸通貨ユーロ」に存在感 流通額、米ドル超す見通し>http://www.asahi.com/business/update/1230/013.html
という話題は、今後の世界情勢、そして、その世界の中での米国の暴虐な振る舞いが今後いつまで続くか、との関連できわめて重要だと思われる。ドル以外の国際通貨が発達してくることは、ドル発行国たるアメリカが無際限に赤字を垂れ流す(言い換えれば、ドルを刷り続ける)ことがもはや不可能になることを意味するからである。戦争を続けるには金が必要であり、ドルが唯一の国際通貨である間は、アメリカは無際限にドルを刷り続けて資金を調達することが一応可能だった。しかし、ドル以外の国際通貨が出てくれば、そのようなことはもはやできなくなる。言うまでもなく、ドル以外の国際通貨(現実にはユーロ)への乗り換えが起こるからである。


 このように世界情勢は変化しつつあるにもかかわらず、日本政府は米軍との連携の強化などという馬鹿げたことを進めつつある。
<日米、軍事機密保全を強化へ 政府が協定締結方針>http://www.asahi.com/politics/update/1229/003.html
これは直接的には、2007年度予算に盛り込まれているミサイル防衛との関連で出てきている話なのだろうが、軍事機密が増大することは決して好ましくない。しかもこの機密は究極的には他国の機密だから、余計に厄介である。また、言うまでもなく、軍事関連産業が肥大すると、そういう産業と政治との癒着が必ず起こり、政治に対してきわめて悪い影響をもたらすことが懸念される。


 特に小泉政権以来、日本の政治は著しく誤った方向へと進みつつあるが、それに拍車がかかってきているように思われる。由々しきことである。


 それにつけても、議員の世襲は政治から駆逐されなければならない。