Democracy Now!の記事から(スコット・リッター)

 「Democracy Now!」というニュースサイトは、カストロチャベスが出てくると何やら無性にありがたがる気味がなくはない、つまり左翼系のサイトであることは間違いないだろう。その傾向を踏まえて利用しなければなるまいが、とはいうものの時々面白い番組を流してくれてもいる。本ブログでも10月24日づけ記事でスコット・リッター氏のインタビューを取り上げた。今回取り上げたい記事
「Target Iran: Former UN Weapons Inspector Scott Ritter and Investigative Journalist Seymour Hersh on White House Plans for Regime Change」も、そのリッター氏に関するものである。率直に言って、氏の言っていることがどれほど当たっているか、私自身には測りかねるところがある。そこでむしろ、リッター氏の言っていることをなるべく正確に要約することにここでは努めることとしたい。


 対談は『New Yorker』誌の記者であるSeymour Hersh氏が聞き手となって行なわれている。最初にHersh氏から、Ritter氏の情報源に関する質問があった後、Hersh氏は、Ritter氏がその著書『Target Iran』の中で書いているような話はアメリカの主要紙からは聞かれないが、なぜなのかと尋ねている。これに対するRitter氏の答えは、アメリカのメディアはイスラエルの話になると途端に防衛的(defensive)になる、というものである。続けてRitter氏は、例えばヒズボラに対するイスラエルの懸念は、イスラエル人の立場からはもっともなもので、もし自分がイスラエル人なら今のイスラエルがやっているのと同じことをするだろうとまで述べているが、しかし他方で、イスラエルの利害とアメリカの利害は同じではなく、ヒズボラアメリカにとって脅威となるようなテロ組織ではない、と述べてもいる。問題は、親イスラエルロビイストが、イスラエルの利害をイスラエルの利害としてではなくアメリカの利害として政治家に訴えており、両者の間の混同が起こっている点にある、と。


 次にHersh氏はイスラエルに対するRitter氏の見方を質している。この問いに対するRitter氏の答えは、次のようなものである。

 イスラエルは周囲の諸国の弾道ミサイル核武装に対して極度に警戒的であり(「それはもっともなことだ」というのが、Ritter氏の立場らしい)、イランの核開発に関して言えば、イスラエルの立場はイランの核武装だけでなく核利用(日本語のより政治的な言い方で言えば、「原子力」利用)も一切認めないというものだ。イランが密かに核利用技術の開発を進めていたことが2002年に露見したが、これについてはイスラエル諜報機関の働きがあった。


 しかし、諜報機関のそのような働きと、イスラエルの採る政策が正しいかどうかは別問題であり、この点に関して、イスラエルでは、かつては事実に基づいた(fact-based)政策が行なわれていたが、Amos Giladという将軍の悪影響のもと、先入見(Ritter氏は「konseptsia」という言葉を使っている)に基づいた政策(Ritter氏はこれを「信仰に基づいた(faith-based)政策」と揶揄している)が行なわれるようになり、その結果イランとヒズボラハマスは一つながりのものと意識され、イスラエルにとっての一番の脅威はイランだということになっている。


 比較の意味で言えば、イラクについての分析が行なわれていた1998年時点では、イスラエルは事実に基づいた分析を行なっていた。その結果、イラクは事実上武装解除されており、大量破壊兵器に関する説明はついていた(つまり、なくなっていたということだろう・・・vox_populi注)。しかし、2003年までには「konseptsia」がぶり返していた、と。
(なお、要約のこの部分に対応する英文は
But with Iraq, it was fact-based analysis. That’s why, at the end of the day, the Israeli government was willing to accept that Iran had been virtually disarmed, that almost all the WMD had been accounted for. In 1998, that was the assessment. Thanks to Amos Gilad, by 2003 Iraq’s weapons of mass destruction had been reborn, and he didn’t have to explain how they had been reborn. It was konseptsia. It was a gut feeling. They were there because Saddam’s bad.
だが、この中で「Iran had been virtually disarmed」は、正しくは「Iraq had been virtually disarmed」だろう。Ritter氏自身が言い間違えたようである。)


 そしてイランについても、イスラエルでは信仰に基づいた分析が幅を利かせている。その結果、核利用計画(これは確かにイランには存在する)の存在は即核兵器開発計画の存在を意味することになる、と。・・・イランにはトンネルがあり、それは北朝鮮からの技術供与によって掘削され、また、イランはレバノンヒズボラのために、やはり北朝鮮の助けを得てトンネルを掘った。しかし、トンネルを掘ること自体は核兵器開発とは関係なく、核兵器開発の計画は現在のイランには存在しない。にもかかわらず、ということである。


 これが、イスラエルの利害とアメリカの利害の混同という形でアメリカの政策決定に反映されるとどうなるか。議論はおしまいで、アメリカはこれに立ち向かわなければならなくなる。そして、外交努力が失敗すれば、後に残るのは軍事的オプションのみということになる、と。


 以上のようなアメリカの政策は、ワシントンDCでというよりむしろ、テル・アヴィヴで作られていると言える。

 つい先日イランに対する安保理の制裁決議が決まった(これに関する記事は「国連安保理、イラン制裁決議を採択」)ことを思うと、以上のRitter氏の話は、絵空事でないばかりか、むしろ現実味を増し加えつつあると言ってよいのではないだろうか。これは実に由々しきことである。


 次に、Ritter氏が発言の中で今のアメリカの政府はネオコンが握っていると述べたのに対して、Hersh氏は、ネオコンの多く(ウォルフォウィッツなど)は今や政権を去っており、またブッシュもチェイニーもラムズフェルドも2001年より以前にはネオコンではなかったが、なぜ今でもネオコンなのか、と尋ねている。これに対してRitter氏は答えて次のように述べている。すなわち、まずネオコンの起源は1980年代、レーガン政権の時代に遡り、レーガン2期とその後ブッシュ(父)1期の計12年間、彼らは政権内でいろいろ構想し、そして1992年にはウォルフォウィッツらが後のネオコンの指針となる安全保障構想を起草した。ところがそこでクリントンが大統領選に勝利したため、ネオコンらは野(や)に下り、そこで8年間かけてそれに磨きをかけた。そして2000年の大統領選挙でブッシュ(息子)が当選し、以後その方針が実施されていると言えるが、大きいのは2001年9月11日にアメリカが最悪の敗北を喫したことにある。その結果、−−対テロ戦争という名目のもとに大統領に強大な権限が与えられて、ということだろう−−議会が機能しなくなった、と。


 Ritter氏は、アメリカで現在65%の人がイラク戦争に否定的であることについても、興味深いコメントをしている。すなわち氏によると、アメリカ人の65%は反戦なのではなく、単に負けが嫌いなのだ。イラクでの戦争に勝っていれば問題なしで、国際法の違反などはどうでもよい。大量破壊兵器について嘘を言ったかどうかなどましてどうでもよい。勝っていれば、「神よアメリカを祝福したまえ、俺たちなかなか良いじゃないか、アメリカ! アメリカ!」となるのだ。しかし現在負けつつあるので、だから反イラクなのだ、と。・・・確かに、アメリカ人のメンタリティーはこういうものなのだと思われる。


 「しかし」とRitter氏は続けている、「一つのゲームで負けたならどうなるか? 勝てる次のゲームを探す。そして今、勝利を求めて我々(アメリカ)はイランに向かっている」。これがRitter氏の現状の見立てである。


 最後に、Ritter氏によれば、米国による対イラン軍事攻撃になるまでには、なおいくつかのことが起きなければならない。

  • まず外交面での違反がなければならない、と。これについては、安保理の制裁決議によって、既に第一歩は踏み出されたと見てよいだろう−−もちろん、大変遺憾ながら。
  • 次に、兵力の集中が行なわれなければならない。これも、ペルシア湾岸の軍隊が増強されつつあるらしいことからすれば、現実に進捗していると見ることができる。
  • また、予算を得るために大統領は議会の承認を得なければならないが、これについては、2002年10月の決議によって、議会は大統領に事実上白地小切手(つまり自由裁量権)を与えてしまっている、ということらしい。
  • そして、軍人の同意が必要となるが、これについては、軍人が反対するかすかな希望がなくはない、とRitter氏は言う。ただ、アメリカの現役の軍人は、例えば英政府のイラク政策を批判したイギリスの(現役)参謀長と異なり、ものを言わなさすぎる、とのことである。


 その他、戦争が始まった場合には、イラン側は石油禁輸のための圧力などを周辺諸国にかけることになるだろう、といった予想も述べられている。



 以上、上記リンクに見られる対談の記事の要約である。