教育基本法政府改正案に対して反対の声を上げる必要性

 与党が採決を強行してしまった今ほど、世論の高まりが求められている時はない。政府改正案がいかに誤っているかということが、あらゆる機会をとらえて論じられる必要がある。


 とはいっても、もちろん、一市井人にすぎない私ごときが何か言っても、世に波風の立つはずもない。したがって、ここは知識人・有識者と自認している人々の覚醒と発言とを促さなければならないと思われる。せめてできる限り、知識人・有識者と自認している人々が開設しているブログなどへのトラックバックなどを行ないたいと考えている(一市井人にできるのは、とりあえずそれが限界のようにも思われるので)。


 社民党の保坂議員の報告によれば、今日の単独採決強行を主張したのは官邸、すなわち安倍首相自身だとのことである。この事実は銘記されなければならない。靖国参拝をやるかやらないかごまかすことで中国・韓国と関係改善を図り、あたかもハト派に転進したかのごとくにふるまっていたが、やはり安倍はろくでもないその本性をここで現してきた。ろくでもない教育基本法政府改正案の成立を一番強力に推進しているのは安倍自身なのである。


 その政府改正案のどこがろくでもないか、どうしてそれに反対せざるをえないか、理由を今一度整理しておきたい。

教育基本法が「アメリカの強要によってつくられたものであるという臆説」が流布されており、「一部の人たちの間には、日本が独立した今日、われわれの手によって自主的に再改革をなすべきであるという意見となって現われている」が、これは「著しく真実を誤ったか、あるいは強いて偽った論議といわなければならない」

 この南原の証言に照らすなら、与党の「初めに改正ありき」という姿勢は全く支持できない。
 つまり、与党、特に自民党は、己の妄執のみを根拠として教育基本法を改正しようとしているのである。この事実は強調されなければならない。

  • 政府改正案の第2条(教育の目標)では徳目がやたらと並べられ、しかもその徳目に関して、目に見えるものである「態度」の涵養を教育の目標としている。しかも、その「教育の目標」は、同案の第6条第2項において「学校においては、教育の目標が達成されるよう、(中略)体系的な教育が組織的に行なわれなければならない」という形で引き合いに出され、かくて政府改正案によれば、「伝統と文化を尊重する態度」「我が国と郷土を愛する態度」等々が「体系的」かつ「組織的」に子どもに叩き込まれなければならないことになる。ここに見られる人間観は、人間は粘土細工のようにどうにでも捏ね上げることができる(しかも、政府の都合の良いように捏ね上げることができる)というものであり、現行教育基本法が強調する「個人の尊重」という理念とはおよそ対極に位置すると言わざるをえない。もちろん、そんな考えは誤っているのであり、人間はそうは育たないだろう。むしろ、11月15日公聴会で日大教授の広田照幸氏が指摘していたように、面従腹背の子どもを作り上げる危険性が高いのではあるまいか。
  • さらに、法律の構成から見ても政府改正案は不出来である。すなわち、第1条(教育の目的)を掲げていながら、なぜ第2条(教育の目標)という似通った条項を付け加えなければならないのか。屋上屋を架する仕儀だと言わざるをえない。以前の記事で指摘したことの繰り返しになるが、つまり、いくら自民党厚顔無恥であっても、さすがに愛国心条項(第2条第5項)を「教育の目的」には入れられなかった。そこで第1条(教育の目的)と第2条(教育の目標)を二段構えに掲げることになった−−こういう疑いがあるのである。ともあれ、改正案のこの部分は法律としてみっともないことこの上なしである。
  • よく指摘されているように、現行法第10条(教育行政)は、教育行政の役割を、教育の目的の遂行のために必要な諸条件を整備することとしている。つまり、行政の関与は側面的であり、そして同第10条によれば「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」とされ、行政の不当な介入が戒められている。これに対して、政府改正案第16条(教育行政)では、確かに「教育は、不当な支配に服することなく」という(現行法第10条と同じ)文言を含んではいるが、しかし教育行政の行なうことは「不当な支配」に当たらないとされることになる(少なくとも、こう解釈できるという、鬼の首でもとったような質疑が委員会では繰り返し行なわれている)。
  • また、「国民全体に対し直接に責任を負って」という部分が改正案から消えていることとの関連で、現行法第6条第2項に見られる「教員は、全体の奉仕者であって」という文言も消えている。つまり、政府改正案においては、教員は国家の推進する教育行政の末端と位置づけられている。


 まだ他にもあるかもしれないが、とりあえずこの程度にしておくことにする。