教育基本法改正の立法事実は何か?

 本ブログでも、しばらくの間、教育基本法改正の問題に極力集中して、議論を行なっていきたいと考えている。そこでまずは、特に国会審議でこれまでに一体何が議論されてきたかを考えてみたい。例えば
教育基本法改正案、今国会成立強まる 衆院委が来週可決へ」
http://www.asahi.com/politics/update/1107/002.html
などという報道がなされ、その中で「先の通常国会も含めると、審議は80時間程度になることは確実」とあり、いかにも長時間審議が行なわれてきたかのごとく言われているが、果たして中身のある議論が行なわれてきたのかどうか。その点を吟味してみたいのである。


 ところで、「立法事実」という言葉はあまり聞きなれない言い方かもしれないが、国会で法律を作る時によく問題にされる点である。すなわち、社会において何らか立法を必要とする状況が存在するからこそ、法律が立案される(べきである)のであり、そのような「立法を必要とする状況」がすなわち立法事実である。したがって、立法或いは法改正においては、まず立法事実が何か、そもそもそのような事実が存在するか否かという点が問われなければならない。


 では教育基本法改正の立法事実は何か、すなわち、教育基本法の改正を必要とする状況とはどのようなものか、そもそもそのような状況は存在するのか。


 この点に関して、大変便利なWebサイトを発見した。次のページ
http://www.stop-ner.jp/detabase/0010.htm
を見ると、まさに教育基本法改正の「立法目的、立法事実」について、これまでの国会審議を整理した情報が見られるのである。そして、これを見る限りでは、改正がなぜ必要かという肝心かなめの点について、法案提出者である政府側はおよそまともな説明をなしえていないようである。上記ページにより政府案の答弁を引用すると
・164国会 衆特別委 第3回(5月24日)
 小坂国務大臣
 「教育基本法を変えれば教育は自動的に変わっていく、そのようなことを申した覚えもございません」
・164国会 衆特別委 第4回(5月26日)
 小坂国務大臣
 「今日、この改正に至ったその考え方の中で、現行法が起因するというふうに現行法のせいにするわけにはいかぬと思うんですね」


 自民党の委員の言葉を見てもやはり同様である。すなわち、
・164国会 衆特別委 第3回(5月24日)
 町村委員
 「物の豊かさと反比例した形の心の貧しさ、倫理、道徳の退廃等々さまざまな変化、それが学校内にも及び、校内暴力とか青少年の凶悪な犯罪とか、あるいは個人の権利、自由というものを大変尊重してきた、それはそれでいいんですが、その反面に、必要な義務とか権利、あるいは公、パブリックですね、これを軽視してくるというような傾向も非常に顕著になりました。こうしたことを、やはり基本法のせいに全部するつもりはありません。また基本法を変えたからといって、こうした問題が全部解決するものでもございません。」


 こうして見てくると、教育基本法を改正する根拠となる立法事実は特にない、少なくとも、これまでの議論の中では示されていない、と言わざるをえないのではあるまいか。もちろん、上のページで提示されている情報が果たして網羅的かどうかは不明なので、(時間はかかるが)自分でもこれまでの会議録を見てみたいと思っているが、教育基本法改正の立法事実が存在しないという疑いは大いにある。80時間程度になるというこれまでの審議はいったい何を、より正確に言えばどういう空回りを、やってきたのだろうか。


 これからも引き続き、教育基本法に関するこれまでの国会審議の検討を進めていきたい。



追記 なお、上で触れたサイトのトップページは次のとおりだが、
教育基本法「改正」情報センター」 http://www.stop-ner.jp/
このWebサイトは教育基本法改正の問題に関する情報を広く収集しており、大いに参考になる。また、このトップページからリンクがついている次のサイト
日本教育法学会教育基本法研究特別委員会」 http://kyokiho.org/
では、これまでの国会審議のビデオ・会議録の頭出しが提示されており、これも参考になる。