いわゆる「ダミー団体」の意味


 既に書いたように、私自身は本来は企業献金は全面禁止とするのが良いと思っており、そういう性分であるからこの手の話題は決して好きでないのだが、しかし事が事だけに無視しているわけにもいかない。そこで、今回の小沢民主党代表の秘書逮捕の件の関連でいろいろ書く次第である。


 今回とりあげたいのは、3月13日金曜日の朝日新聞の朝刊1面に出た記事であり、要は、これをどう読むかということである。まず記事の引用から始めることにする(リンクはこちら)。

西松建設献金、小沢氏側にダミー経由 自民には会社名義
2009年3月13日3時1分



 民主党・小沢代表の資金管理団体陸山会」に違法な献金をしていたとされる準大手ゼネコン「西松建設」が、小沢氏が政権を離れた00年以降は、同代表の関係団体に社名を伏せる形でしか献金していないことが、分かった。以後、社名を明らかにしての政党の政治資金団体への献金は、小沢氏が党首だった自由党(当時)や民主党向けには全くしない一方、自民党には続けていた。


 与党である自民への献金には社名を明かし、野党になった小沢代表の関係団体にはダミー団体を使って社名を隠す。代表の歩みなどの政治情勢をみつつ総額ではバランスをとる――そんな西松建設献金ぶりが浮き彫りになった。


 東京地検特捜部は小沢代表の公設第1秘書と陸山会の会計責任者を兼ねる大久保隆規容疑者(47)=政治資金規正法違反容疑で逮捕=が、00年ごろから、西松建設側と話し合ったうえでダミー団体を通じた献金額や配分を決めていたとみており、献金実態の推移と小沢事務所側との関係についても解明を進めている模様だ。


 西松建設が小沢代表側への献金に使っていたとされる二つのダミー団体のうち一つの設立は95年だ。この年以降の複数の政治資金収支報告書を分析すると、同社は99年まで、自民党政治資金団体である「国民政治協会」に同社名で年間1208万〜2106万円を献金。一方で、小沢代表が党首などを務めた新進党自由党政治資金団体改革国民会議」にも毎年、同様に520万〜1888万円を献金していた。


 改革国民会議への献金額は98年までは1112万円が最高だったが、自由党自民党との連立政権を組んで与党になった99年は1888万円に急増。それが00年に自由党が連立政権から離脱すると、自由党改革国民会議や合併した民主党政治資金団体国民改革協議会」への社名を明かした献金はなくなった。


 しかし、00年以降、西松建設の二つのダミー団体や子会社の名義では、小沢代表が最高顧問や代表を務める「陸山会」「民主党(または自由党岩手県第4区総支部」「民主党岩手県支部連合会」の3団体側に毎年500万〜1500万円を献金改革国民会議にも同様に献金し、同年以降の総額は8500万円に達した。


 一方で、同社は、自民党政治資金団体である国民政治協会には00年以降も毎年708万〜1793万円を社名で献金。同年以降の総額は約1億1千万円だった。


 ただ、西松建設のダミー団体はともに06年に解散。小沢代表の関係団体への献金もその後なくなった。ダミー団体の解散は、大手ゼネコン各社が05年末に決めた「談合決別」と関係するとみられている。

 本ブログでは既に3月7日づけ記事で、今回の献金をめぐる問題がとどのつまりどういうことなのかについて論じた。つまり、西松建設といえども結局与党にこそ献金したいのであって、その真意をカモフラージュするために小沢氏側への献金も行なっていたのではないか、ということを述べたのだが、その観測が当たらずといえども遠からずであることを示しているのが、今回引用した記事の言わんとするところなのではなかろうか。


 この記事を要約するなら、要するに西松建設は与党に対しては、会社が献金しているということをはっきりわかってもらいたかった。そこで会社名による献金を続けた。小沢氏も、氏の率いる自由党が政権に参画していた間はその伝で献金を受けていた。ところが、自自公連立が解消して小沢氏が野に下ると、社名を明かした献金がなくなった。なぜか。言うまでもなく、与党と野党に二股をかけているというふうに与党の側から見られることを嫌ったからである。ダミー団体から小沢氏側に献金したのは小沢氏側の都合でも何でもなく、むしろ西松建設側の都合によっていたのである。今回の記事が言っていることはこういうことだとしか私には理解できない。


 この理解が正しいなら、いったい東京地検が今回小沢氏の秘書を逮捕したのはどう正当化できるのだろうか。例えば、西松建設の側から「与党の側から不興を買うのは避けたいので、社名を出さない形で献金させていただきたい」と言われて、秘書が「了解しました」とでも言ったのだろうか。しかしこれはどう見ても、西松建設側の都合(献金はしたいが社名は出したくない)でそうなったとしか私には見えない。もしこれが、検察が秘書を逮捕した理由であるのなら、どう見ても、検察のやったことは行き過ぎと言わざるをえない。


 ついでに書いておくと、小沢氏の10日の記者会見を見たが、そこで氏はいわゆる請求書について、「先般は献金をありがとうございました。今年もよろしくお願いします」というたぐいのものだ、という説明をしていた。そう言われて思い出したが、私も先日或る団体から寄付の要請を受け取った。なぜかと言えば、数か月前にその団体に寄付をしたからである。報道では「請求書」を出したことがあたかも大罪の証であるかのような言い方がされていたようだが、これは事柄を著しく歪めるものだと言わざるをえない。この点でも小沢氏の説明は一応納得のいくものだと言ってよい。


 本当に、検察はいったい何を根拠としていきなり秘書を逮捕する挙に及んだのだろうか。知れば知るほど今回の捜査の不可解さが増大してくる気がする。