世論調査の一つの読み方


 小沢民主党代表の秘書逮捕を受けて、先の週末に各報道機関で世論調査が行なわれた。全部を見たわけではないが、傾向はどれも似たり寄ったりではなかろうかと思う。以下、朝日新聞の調査を基に、それをどう読んだらよいかについて少し考えてみたいと思う。


 率直に言えば、今回の秘書逮捕の疑惑がどこにあるかということ、そしてそれに対する小沢氏の説明(「企業からの献金だと認識していたなら、政党支部で受領していれば何ら問題ないわけであり、実際そうしていたはず。そう認識していなかったからこそ政治資金管理団体で受領した」)がどの程度人々に理解されているか(もちろん私自身は、これで充分な説明になっていると思っている)、というあたりに疑問がないわけではない。しかし、それをとやかく言っても仕方がないので、調査対象となった有権者の知識・理解度の深浅といった点は以下では問題にしないことにする。


 と言った上で見てみると、(以下、丸カッコ内は前回調査時の数字)まず内閣の支持率については

麻生内閣を支持しますか。支持しませんか。
 支持する  14(13)
 支持しない 70(75)

イヤー、全然変わっていない。まことにめでたい限りである。そしてこの数字は、次の数字と合わせて考えると、なお一層興味深い。

麻生首相民主党の小沢代表とでは、どちらが首相にふさわしいと思いますか。
 麻生さん 22(19)
 小沢さん 32(45)

確かに小沢氏のほうは10ポイント以上下げているが、しかしそれでもなお、10ポイント差で小沢氏のほうが首相にふさわしいのだそうである。私が首相ぶら下がりの記者ならば、
麻生首相、最新の世論調査によると、麻生首相民主党の小沢代表とでは、小沢代表のほうが首相にふさわしいとする人のほうがなお多いようですが、これについてどうお考えですか」
と訊いてやりたいところである。今回の逮捕報道があってもなお、小沢のほうが麻生より高く(或いは、低くなく)評価されているということを、麻生首相はわきまえ知るべきだろう・・・そうするだけの理解力があるならば、の話だが(しかしこの点が極めて怪しい)。


 次に、この数字についてだが、

◆小沢さんは、民主党の代表を続ける方がよいと思いますか。辞める方がよいと思いますか。
 続ける方がよい 26
 辞める方がよい 57

民主党の政治家にとってはこれはショックであるに違いない。しかし、である。なぜこれに続けて世論調査は、「麻生さんは首相を続けるほうがよいと思いますか。辞める方がよいと思いますか。」と尋ねなかったのだろうか。政治的公平を期するのなら、一方の側にだけこういう問いをするものではないだろう。


 とはいえ、それに類似する問いが問われていないわけではない。既に掲げたとおりで、

麻生内閣を支持しますか。支持しませんか。
 支持する  14(13)
 支持しない 70(75)

とある。と見てくると、両者を比較するなら、小沢氏が民主党の代表を辞めるべきだとする声よりも、麻生氏が首相を辞めるべきだとする声のほうが、世論の中ではより強い・大きい声だと考えてよいのではないか。この考えは、次の問いと答えからも裏づけられるように思われる。

◆できるだけ早く衆議院を解散して、総選挙を実施すべきだと思いますか。急ぐ必要はないと思いますか。
 できるだけ早く実施すべきだ 57(64)
 急ぐ必要はない       32(28)

 前回の64%から減っているとはいえ、なお57%の人が、総選挙を早く実施しろ、つまり麻生政権はいったん政治をストップせよ、と言っているのである。


 今回の世論調査を見てあたふたする民主党の政治家に対しては、次の結果を刮目して見よと言っておきたい気がする。すなわち、

◆今後も、自民党を中心とした政権が続くのがよいと思いますか。民主党を中心とした政権に代わるのがよいと思いますか。(カッコ内の数字は1月10、11日の調査結果)
 自民党中心の政権 24(24)
 民主党中心の政権 45(44)

という設問については、民意は大して変動していないようであり、かつ、民主党がどれほどクリーンな政党かどうかという点については、

◆小沢代表の政治献金をめぐる問題で、あなたの民主党に対する印象は、よくなりましたか。悪くなりましたか。それとも変わりませんか。
 よくなった 1
 悪くなった 40
 変わらない 56

という設問がよく状況を表している。すなわち確かに40%が「悪くなった」としているのはショッキングかもしれないが、しかし過半数の56%が「変わらない」という、言わば「大人の判断」を示している。つまり、民主党はもともとそれほどクリーンな政党だとは思われていないのである。今ここでガタガタ騒ぐのは、民主党はクリーンでないだけでなく幼稚でもある、とみなされることにつながりかねない。


 総じて言えば、これだけメディアが小沢バッシングをやっているにしては、国民の反応はむしろ落ち着いたものだった、と言ってよいのではなかろうか。小沢氏が自らの進退について考えるべきは当然だが、それ以上に周囲がガタガタ騒ぐのは民主党として決して得策であるまい。自らの大将をもっと支えることに民主党の政治家は注力するのが良いと私は思う。