イスラエル軍の撤退なくして真の停戦とは言えない――ガザ情勢


 ガザ情勢に関しては既に本ブログでも触れたところだが、ここへ来てイスラエル側が「一方的停戦発表」を行なったとのこと。朝日新聞の記事をまず引用しておく。

イスラエル、一方的停戦発表 限定的攻撃は続く
2009年1月18日21時1分


 【エルサレム=井上道夫】イスラエルオルメルト暫定首相は17日夜、イスラム過激派ハマスが支配するパレスチナ自治区ガザへの攻撃を18日午前2時(日本時間18日午前9時)から停止すると発表し、実行した。軍はガザに残り、ハマスからの攻撃があれば攻撃を再開するとしている。


 昨年12月27日の攻撃開始以来、3週間余に及ぶイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ側の死者は1245人、負傷者は5300人。民間家屋の倒壊も相次ぎ、停戦に向けた国際的な圧力が高まるなか、その実現に向けた重大な局面に入った。


 だが、今回の攻撃停止はイスラエルの一方的な「停戦」宣言で、エジプトが仲介に乗り出していた停戦協議とは別物。ハマスと何らかの合意に達したわけではない。「戦争犯罪だ」といったイスラエル批判の高まりに、「停戦」のポーズで応じた形だ。


 イスラエル軍撤退を求めるハマスは反発。ファウジ・バルフーム報道官は「イスラエル兵は一兵たりともガザ残留を認めるわけにはいかない」と述べている。攻撃停止初日の昼までに、ガザからイスラエル領にロケット弾が約10発撃ち込まれた。


 これに対し、イスラエル軍は「攻撃拠点を空爆した」と発表。18日昼の段階では発射地点への限定的な攻撃にとどめ、大規模な攻撃は差し控えている模様だ。ハマス内部にもイスラエルの攻撃停止にどう対応するか、異論が出ているとの見方もあり、今後のハマスの対応が停戦実現のカギとなりそうだ。


 17日深夜に国民に向けテレビ演説をしたオルメルト氏は、攻撃による武器密輸トンネル破壊やハマス幹部の殺害で、ハマスの統治力や軍事力に大きな打撃を与えたとし、「我々は目標を達成した」と成果を強調。また、ハマス再武装化を阻止するため、エジプトとの境界管理で米国や欧州などの支援を取り付けたことに触れ、攻撃停止が妥当であると説明した。


 だが、イスラエル軍のガザ撤退に向けたスケジュールや停戦監視の具体的な方法については一切触れていない。ハマス側は、軍撤退に加えイスラエルによるガザ封鎖の解除を求めており、主張の隔たりは大きい。

 記事のリンクはこちら


 しかし、表題に書いたとおりで、イスラエル軍がガザから撤退することなくして、真の意味で停戦とはもちろん言えない。現状ではイスラエル側がパレスチナの主権を侵害して侵略状態を続けているのだから、ハマスであれその他のパレスチナ人であれ、イスラエルに対して攻撃なりその他の形で抵抗をするのは極めて当然である。


 当然ながらイスラエル側は速やかに軍を撤退し、かつ地上軍の侵攻に伴って生じた損害について賠償を行なうべきである。そしてもちろん、今回の侵略戦争を指揮したイスラエル軍関係者及び政府関係者は国際刑事裁判所の訴追対象とされるべきである。


 中東の無法者国家イスラエルの横暴をやめさせるために、この問題については引き続き声を上げ、かつ引き続き監視の目を持っていなければならないと思う。



追記(1月24日)
 やや遅れての追記だが、イスラエル軍が1月21日に撤退を一応完了したとのことである。一応停戦の状況にはなったのかもしれないが、もちろんこれで問題解決とは行かない。末尾に引用する朝日新聞のこの記事によれば、ガザの損害額は19億ドル(プラスもちろん、損害「額」ではないが、1300人以上の死者及び数千人に及ぶと見られる負傷者)に上るとのこと。本来これについてはイスラエル側が弁償を行なうべきである。のみならず、朝日新聞の別の記事によれば、イスラエルは国際人道法違反を行なったとも言われている。もちろん、本ブログの立場からすれば、今回イスラエルが行なった攻撃・侵攻はすべて誤りと言うべきものだが、具体例がわかるものについては、しかるべき人々が、国際刑事裁判所への告発なり何なり、アクションを起こしてもらいたいものだと願う次第である。


 言及した2つの記事を引用しておくことにする。まずイスラエル軍の撤退を伝える記事から。

イスラエル軍撤退完了、ガザ損害額1700億円
2009年1月22日1時22分


 【エルサレム=村上伸一】イスラエル軍は21日、パレスチナ自治区ガザから地上部隊の撤退を完了した。先月27日からの過去最大規模の空爆とその後の地上侵攻による攻撃は、ひとまず終了した。だが、境界周辺への部隊配備は続け、ガザからの攻撃にすぐ反撃する態勢を取っている。


 イスラエル軍報道官は21日、「今朝、最後の兵士たちがガザを離れた」と語った。頼りとする米国を意識し、20日のオバマ大統領の就任式までに撤退を完了するといわれていたが、同日に小規模な攻撃を受けたため遅くなった。


 同軍が18日に「一方的攻撃停止」を始めたのに対し、ガザを支配するイスラム過激派ハマスも同日、「即時停戦」を発表したが、「1週間以内の撤退」を条件としていた。イスラエル軍が事実上応じたことで、双方の「停戦」が延びる可能性が高まった。


 一連の攻撃でガザの死者は1300人を超えた。半数が巻き添えになった市民と見られている。


 撤退は、当初の予想を上回る早さで行われた。発足直後の米新政権との間で懸案を抱えたくないとの配慮がうかがえる。


 イスラエルは18日に一方的攻撃停止に踏み切った際、撤退期限を示さなかった。ハマスが18日、1週間以内の撤退を条件に即時停戦を発表した際も、反応しなかった。


 だが、ハマスの要求した期限内の撤退がなければ、戦闘が再発する恐れは十分にあった。イスラエル軍の攻撃では多数の市民が死亡しており、戦闘再発は国際社会の中での同国のイメージをさらに悪化させかねない。そうなれば、オバマ新政権から停戦への圧力がかかるのは必至で、対米関係が新政権の出だしからつまずく可能性があった。


 一方、ハマスも権力を維持するためには、過去最大規模の攻撃で破壊されたガザの再建を急がなければならない。パレスチナ自治政府中央統計局の試算では、建物やインフラの破壊による損害額は19億ドル(約1700億円)に上る。組織の立て直しも必要で、当面はそれらに集中できる平穏な時間が不可欠だ。

 次に、イスラエル軍が犯した国際人道法違反その他の行為に関する記事。

「閉じ込められ砲撃、妻子ら失う」 ガザ住民証言
2009年1月24日13時43分


 【ガザ市(パレスチナ自治区)=田井中雅人】イスラエル軍は住民を集めて砲撃を加え、民家を乗っ取って拠点にした――。パレスチナ自治区ガザを23日間、攻撃し続けたイスラエル軍の所業を、住民が詳細に証言した。「民間人の被害を避けようと細心の注意を払った」(オルメルト暫定首相)という説明とは正反対の実態で、「国際人道法違反だ」との批判が出ている。


 ガザ市南部ザイトゥン地区。壊れた家々のがれきが広がる一帯で21日、サモニ家の葬儀が営まれた。イスラエル軍の砲撃で、妻ハナンさん(35)と娘ホダさん(17)ら家族、親類29人を一度に失ったナエルさん(36)が、悲しみに身を震わせていた。


 地上侵攻が始まった3日夜。突然、一家の壁が破壊され、機関銃を携えたイスラエル兵が侵入してきた。「家から出ろ」と、120メートル先の親類宅に追い立てられた。


 周辺に暮らす親類約110人も同じ家に集められた。家が複数回の砲撃を受けたのは2日後で、計22人が死亡。近所への砲撃でも7人が死亡した。一帯の計21軒の親類宅が砲撃を受けたり、戦車やブルドーザーでなぎ倒されたりした。救急車は兵士らに妨害され現場に近づけなかった。


 「家畜のように閉じこめられ、殺された。許せない」とナエルさん。


 赤十字国際委員会は「衝撃的な事件だ。イスラエル軍は我々が救援に向かうことすら許さなかった。国際人道法違反だ」と激しく非難する声明を発表。AP通信などによると、国連人権理事会のパレスチナ地域特別報告者、リチャード・フォーク氏も軍の一連の攻撃について「戦争犯罪にあたるか独自に調査をするべきだ」と主張している。


 自宅を占拠された住民もいる。ガザ北部ジャバリヤ難民キャンプ東方、アタ・シアムさん(61)の4階建ての雑貨店兼自宅は今、ゴミの山が悪臭を放っている。


 12月28日夜、暗視装置をつけ、顔を黒く塗ったイスラエル兵約60人と、首に小型カメラをつけた犬2匹が乗り込んできた。兵士らはシアムさんの頭部に機関銃を突きつけ、21人の家族全員を1階の一室に集めて外出を禁じた。


 兵士らは連日、店の菓子やジュースを勝手に取り、イスラエルから持ち込んだサンドイッチや果物を食べ散らかした。空腹の孫が「分けてほしい」と泣いても、「これは兵士の食べ物だ」と拒んだ。


 一家は毛布まで兵士らに取り上げられ、震えながら眠れぬ夜を過ごした。息子の妻(27)が産気づいた9日、一家はようやく着の身着のままで学校や親類宅に避難することができた。


 「停戦」後に自宅に戻ってみると、兵士らが食べ散らかしたゴミと汚物の山が室内に残されていた。4階のバルコニーには、射撃口にした穴がいくつも開いていた。店に隠しておいた財布からは現金1200ドル全額が抜き取られていた。


 「こんなことは長い人生で初めて。あいつらは戦闘ではなく、盗みにきたんだ」とシアムさん。子や孫は「怖いから家に帰りたくない」と訴え、20年の思い出の詰まった家を捨てる決心をした。今、アパートを探している。