政治家の品定めをする最良の方法は、生の声を聞くこと


 朝日新聞のWebサイトで注目すべき記事が掲載され始めた。――と書くと、同社の回し者のように思われるかもしれないが、もちろんそうではない。


 率直に言うと、私は首相のぶら下がり会見なるものが嫌いだった。最低の政治屋である小泉純一郎があれを使って人気を保ち(ということだったらしい)、日本の政治の質を著しく劣化させた、ということが念頭にあったからである。


 しかしそのぶら下がり会見も、政治家の実像がきちんと伝達されるなら、話は違うかもしれないと思うに至った。そう思わせてくれるのが、このほどasahi.comで始まったぶら下がり会見の全文公表(とおぼしき記事)である(もちろん、映像ではないので、100%確かに全文だと言いきれるわけではないが、少なくとも記事の体裁は明らかに全文の公表を指向していると言ってよい)。


 全文公表の良さは、記者の質問に対して当の政治家(この場合には麻生)がどのようなあしらい方をしているか、つまり、記者を一人前の人間として扱っているか、それとも馬鹿にしたあしらい方をしているか、質問の中身をよく理解しているか、それとも全くの無知か(麻生の場合、極めてしばしば無知が透けて見える)、といったことがありありと見えてくる点にある。国会審議についても、時間の許す限り私は努めて審議中継を見て内容を確認するように心がけているが、これも同じことである。


 以下、11月10日(リンクはこちら)と11日(リンクはこちら)のぶら下がり会見の記事を引用しておくことにする。政治家の実像を伝えようとするこのような試みを歓迎し、それがさらに拡大されることを期待したい。

高所得者制限「意識の問題」〈首相ぶら下がり10日〉
2008年11月10日20時9分


 【ロシア原潜事故】
 ――日本海で起きたロシアの原子力潜水艦の事故について、ロシア政府の対応も含めて総理の受け止めをお願いします。


 「原子力潜水艦ですから、軍事機密等々あるんだと思いますけれども、その内容について、色々問い合わせをしているとこだと、えー、していますけれども、その内容について、なん、こちらの方、こちら側の方に実態をぜひ、知らせてもらいたいと思っています」


 ――放射能漏れの可能性はないというふうに、官房長官が会見でおっしゃっていましたが、それは、もう正式に……。


 「放射能漏れの話は聞いてません」


 【20カ国財務相中央銀行総裁会議(G20)】
 ――G20が閉幕しました。IMFや世銀での新興国の発言力を強めることで一致したんですが、その程度について、新興国と先進国の間で対立があります。今週末(の金融サミット)に向けて、総理のお考えをお聞かせ下さい。


 「新興国の経済力が伸びてくる。そのためには、金融制度、金融決済システムがきちんとしている、大事なことです。従って、経済が伸びる、GDPが伸びる確率が高いのは、新興国の方が伸びる確率が高い。従って、新興国が伸びるような状況をつくれるように、IMFとして、最大限努力すべき。これは、前にも、中川大臣(財務・金融相)が、もうだいぶ前に、G7の時に言ったんじゃなかった?」


 【定額給付金
 ――昼のぶらさがりでの定額給付金の発言について確認ですが、「自発的に辞退してもらうのが簡単」とおっしゃっていましたが、実態として、高額所得者を制限することにならないと思われますが、総理のお考えをお願いします。


 「それは、本人の意識の問題ですよ。5000万もらっても、『高額所得じゃない』という人もいれば、500万もらっても、『いらない』という人もいらっしゃる。そりゃ、色々いらっしゃるんだと思いますよ。そりゃ、ご本人のきちんとした意識の問題であって、それを法律でやるという、お話があると思いますが、それは、法律通すために、いつごろ通るんです? 時間的に、いつ通ります? それを分かんないと、間に合わないんじゃないの? 僕はそう思いますけれどね」


 ――給付金の世論調査に関して、給付金について「評価しない」という人が朝日新聞は6割ということだったんですが、共同通信も58.1%にのぼったが、このまま、実施されても経済への波及効果が薄いんじゃないかという感じがするんですが、受け止めをお願いします。


 「そりゃ、色々やってみないと、意見は、意見は、分かれるところでしょうね? そういう方もいらっしゃるでしょうけれども、そういう方は、むしろ、もらわなくていい、と思っておられる方なのでしょうけれども、『欲しい』という方が40%いらっしゃる、その方が、低額所得者っていうことも、あり得るんじゃありません? その58%の方々は、所得っていうのは、いくらです?」


 ――いや、そこまでは、調べてません。


 「……」


 ――確認ですが、法律を通すのが難しいとすれば、自主的に辞退を促すというのが、ベストだと考えますか?


 「佐竹っていう秋田の市長(全国市長会会長)が言った話を、あなた、知ってんだろうけれども、佐竹は何て言ってました?」


 ――佐竹さんは「実際に市町村でやるとしたら、かなり、時間もかかるし……」と。


 「そりゃ、所得制限すればね」


 ――そうですね、はい。


 「その人がいくらあるかっていうのを、確認しなくちゃならないから。法律もいります。やっぱり、現場をやらされる1800の市町村にとっては、簡単な方がいい、と考えんのは当然でしょ? 従って、私は、もう、何回も、迅速性、そして、そういった意味では、利便性、簡単という意味の利便性、そして、公平というんであれば、『私はいらない』という方がいらっしゃるんだったら、それはそれで結構だし、それは、本人の自覚なり、認識の問題だと思いますんで、あっ、きちんとやらして、それは、『あなた5円超えてましたから、あなた、いらんですよ』って、っていうような話をす、する方が、正しいかねえ? ぼくは、それは思いませんね。ぼくは、本人の自覚というものを、なった方が正しいと、僕はそう思います」

「幕僚長の発言として不適切」〈首相ぶら下がり11日〉
2008年11月11日19時43分


 【前空幕長論文】
 ――今日の参院外交防衛委員会で、田母神前空幕長は、自衛官であっても言論の自由は認められていると主張しました。自民党の国防部会でも、歴史観の問題で更迭は行き過ぎではないかという意見が出ましたけれども、総理は自衛官の立場と言論の自由との関係をどう考えますか。


 「そら言論の自由はありますよ。誰であろうと、日本人であるなら言論の自由はあります。当然です。表現の自由、思想信条の自由はみんなあります。当然のことです。ただ、それを文民統制というのをやっている日本の中において、幕僚長というようなしかるべき立場にいる人の発言としては不適切、そこが基本、それがすべてです」


 ――懸賞論文には、94人の自衛官が応募し、応募者の4割が自衛官でした。懸賞論文では、田母神前空幕長の論文を最優秀に選んだ理由についてこう述べています。「大東亜戦争が意義ある戦いであったことが力強い筆致で書かれている。このような正しい歴史認識を持った人物が、日本の国防に携わっているということは非常に頼もしいことだ」。これは戦争を肯定するととられかねない懸賞論文だと思いますが、自衛官の組織的な応募があったということについて問題があるとお考えでしょうか。


 「あのまずその評価については、そら民間の団体だろ?」


 ――そうです。


 「北海道新聞じゃないんだろ、これ主催してんのは。どこがやってんの? 知らないけど、そこの民間の団体がやってるのに、その評価をどうのこうのという立場に全くありません。それは表現の自由を著しく阻害するから、おかしいと思いますね。そのとこはどう評価しようと、その人を全く評価しないと、それはそこを応募しているところに懸賞金出しているところの自由。少なくともそれは当たり前の話だろ。それを組織的にだれかやったということに、なんかやったという証拠があるの?」


 ――自衛官の94人のうち60人あまりが、小松基地の第6航空団の指令の指示で論文をとりまとめて応募したということを、増田(防衛事務)次官も公式コメントとして発表しています。


 「そういうとこは、それ詳しく知らないんだから、何とも言えんな。だから、そこんところは正直言うけれども、幕僚長が指示して出させたのかどうかっていう裏がとれなきゃ答えられない。はい。それから」


【消費税】
 ――今日昼のぶら下がりで……。


 「昼のぶら下がり。はい。昼も夜もやってんだな、そういやこれ、考えてみりゃね。うん」


 ――景気が好転すれば消費税を2年後に出すこともあり得るという発言をされていますけれども……。


 「消費税については経済状況をみて、しかるべきときに提出しますと、ずっと同じことしか言ってないと思いますけれども。あの経済状況を考えればというとこで、2年だけ取ったってだめよ、そういうのは。はい、それから」


 【道州制
 ――道州制ですが……。


 「道州制? はい」


 ――今後の議論についてどのようにしていくべきかということと、基本法案を来年の通常国会に提出する考えはありますか。


 「これは今自民党でやってんじゃないの。今、党でこの道州制についていろんな議論がされてるんだと思いますんで、ちょっと今その議論がどう進んだか知りませんけれども、地方分権というのは進めるべき。そのために道州制の前に分権とかいろんなのがありますから、そこのところの進み方をみて出すんであって、今ちょっとどの程度進んだか知りません」


追記(11月17日)
 上記ぶらさがりの(全文?)記事は、このページでまとめて見ることができるようである。朝日新聞は、自らが見識を持っていると思うなら、このような資料はすぐリンク切れにすることなく、長期に閲覧が可能となるようにすべきだろう。