BIS規制の廃止という方法


 経済について書く場合、本ブログの書き出しはいつも同様である。すなわち、私は経済に関するド素人だと言ってよいが、しかしそのド素人であっても、書きたいこと、書かなければならないと思うこともあるのである。


 株価の日経平均とやらが近年にない低水準を記録したということで、テレビニュースが大騒ぎになっていた。これについては、当方にさしたる意見はない。東京市場のこのような状況に限らないが、今の証券市場或いは為替市場における、株価の下落とか、為替レートの大きな変動といったことは、当然ながら原因があって起こっているのだから、その原因が具体的にどういうものであるかを一刻も早く突き止め、原因に合った対策を一刻も早く打ち出すことが重要だろう。これ以上の具体的なことを言うための知識を当方は持ち合わせていない。麻生アホウ内閣は追加的な総合経済対策を今週中に打ち出すそうだが、先ほどのニュースによると、定額減税、中小企業支援、道路特定財源1兆円の地方移譲などとあったが、中には、減反農家に補助金を出すなどという、全く意味不明かつ的外れ・時機外れの施策なども含まれているようで(今はむしろ自給率向上に努めるべき時ではないだろうか)、自民党のでたらめさ加減が明らかである。ともあれ、追加的な総花的経済対策ではなく、市場の変動の原因をしっかり把握した上での対策こそが、今行なわれるべき政策だろうと思われる。


 ただ、今回強調したいのはこの点ではない。表題に書いたように、BIS規制或いはそれに類する規制の問題性を今回は指摘したいのである。


 といっても、まずBIS規制について問題性を指摘しているのは私ではなく、日銀出身のエコノミスト鈴木淑夫氏である。氏は「金融危機と政策の失敗」という記事の中で次のように主張しておられる。

 これ迄の「金融システム危機」は、預金銀行の破綻によって起こるいわば「銀行型システミック・リスク」によるものであった。このため、先進国のプルーデンス政策は、預金銀行の健全性維持に集中し、その中核にB?S(国際決済銀行)の自己資本比率規制があった。


 しかし、?Tの技術革新によって金融工学が発達し、銀行融資の証券化商品とフューチャーやスワップなどの派生商品がレバレッジを伴って広がってくると、預金銀行部門と資本市場(証券会社、投資銀行、生保、各種ファンドなどがプレイヤー)と不動産市場(リート投信など)が一体となって巻き込まれる。


 その時に預金銀行部門の健全性だけを自己資本比率規制で維持しようとすれば、そのシワは融資の証券化というオフ・バランスシート化によって資本市場や不動産市場のプレイヤー達に寄り、そこに不健全な金融商品が累積する。

 そこにバブルの崩壊による金融商品の値下がりが起きれば、資本市場や不動産市場のプレイヤー達の倒産が起きて、やはり金融システムは危機に陥る。いわゆる「市場型システムミック・リスク」による金融システム危機である。


 今後のプルーデンス政策は、銀行部門、資本市場、不動産市場を一体として考え、そこでのプレイヤー全員の健全性を維持することを目標として設計されなければならない。それには証券化商品や派生商品などすべての金融商品のリスクの性質と所在を透明化するルールを創らなければならない。そうすれば、金融商品のレイティングにも客観性が出てくるし、プライシングも信用できるようになる。


 預金銀行の庭先だけをきれいにするB?Sの自己資本比率規制は廃止した方がよい。株式の市場価値を総資産で除した比率の方が、恣意的に自己資本を定義するB?Sの自己資本比率よりも、遥かに正確に預金銀行の健全性を示すという実証研究(清水啓典)がある。これをすべての金融機関に適用することが考えられる。

 これは全くそのとおりだと思われる。今回の金融危機は預金銀行以外のところを震源地として起こっているのであり、これの再発を防ぐために必要なのは、預金銀行以外の金融機関をも監視できるルールの制定であり、それは、預金銀行のみを対象とした旧来のBIS規制の廃止を当然ながら伴う。近く金融問題をめぐる首脳会合が行なわれるとのことだが、そこで決めるべきはまさにこういう新ルールなのではなかろうか。


 BIS規制が問題となるのは国際的な金融取引にかかわる銀行だが、それだけでなく国内問題の場合にも、実は同種の規制が害悪をもたらしているようである。民主党参議院議員桜井充氏のブログの「諸悪の根源、金融検査マニュアル」という記事でこの点が指摘されているのだが、それを見ると

 久しぶりに、財政金融の部門会議に出席した。それは「金融機能強化法」の議論を行なうからである。この法案の一つの柱は、地域金融機関の自己資本が不足することが考えられ、地域金融機関に公的資金、つまり税金を注入することである。


 地域金融機関の自己資本が不足するのは、地域経済が悪いために、企業が倒産し、融資資金が回収できないこと、それ以上に、実態に合わない企業の査定をさせられているために、過度な引当金を必要としているからである。要するに、金融庁が作っている金融検査マニュアルが悪いのである。


 この金融検査マニュアルを改訂せずに、地域金融機関に注入しても、金融機関の健全性は高くなるかもしれないが、中小企業への貸出が増えるとは思えない。何故ならば、地域金融機関は、金融庁から不良債権比率を下げろという指導を受けており、現在の金融検査マニュアルの債権分類では、多くの企業が不良債権扱いとなってしまうので、当然貸し出せないのである。そのために、黒字倒産企業も出てきている。


 諸悪の根源は、この金融検査マニュアルである。竹中元金融大臣は、金融政策で産業の構造改革を行なおうとした。その結果、ゼネコンが破綻に追いやられた。しかし、それだけでは済まなかった。その制度のために、多くの中小企業が犠牲になったのである。


 「厳格査定」という名の下に、企業を破産に追い込んでいった制度であり、元々の考え方が、企業を破綻させることが目的だったのであるから、この制度を変えない限り、どのような対策を採っても、金融の円滑化が図れるはずはない。


 私は、不良債権の分類は、正常債権か不良債権というように、大きく2種類で良いと考えている。その基準は金利の支払いに着目し、半年間金利を支払えなかった企業を不良債権とするのである。地元の中小企業の社長さんたちにお伺いしても、その分類であれば、皆さん納得されている。


 債権分類を変えた上で、条件変更を認めるべきである。例えば、これから景気が悪化するであろう3年程度は、金利だけ支払えば良いというように変更するのである。そうすれば、中小企業には資金の余力が出るために、倒産を防ぐことができる。一方、金融機関にとっても、金利さえ支払ってもらえれば、損失を計上する事はない。


 この政策は、税金を一円も必要としない。金融機関だけに公的資金を注入することに、国民の皆さんは抵抗があるはずである。制度を変えれば済む事なのに、そのことができないのは、官僚が実体経済が分かっていないからである。

引用が長くなったが、不良債権比率を下げろとの金融庁の要請(命令)は、結局のところ、自己資本比率を上げろと言っているのと大差なく、その意味で、BIS規制と同種の規制をかけていると考えてよいと思われる。つまり、(金融検査マニュアルに象徴されているところの)金融庁の規制のあり方こそが、貸し渋りを生み出すことで、中小企業を苦しめているのだというわけである。鈴木氏の主張と同様、桜井氏のこの主張も全くもっともである。


 しかも、政策変更のために税金の投入の必要がないというところが素晴らしいではないか。上述した麻生アホウ内閣の中小企業対策と比べても、遥かに優れているであろうことは、内閣の対策の具体案を見る前からほぼ明白である。


 今世間では、株価の時価評価の見直しなどという話が語られているが、しかしこれは、せっかく透明なルールが行なわれているのにそれを不透明にしようとする企てであり、ほめられたものでは全くない。むしろ、BIS規制(ないしはそれと同種の、金融庁による規制)を改めて、透明な、かつ現実に即した新ルールの導入が図られるべきである。