なお疑問は残る――ダイアナ元皇太子妃の死因をめぐる裁判、結審


 まず朝日新聞の次の記事を引用しておく。

ダイアナ元妃は「事故死」 10年後、ようやく評決
2008年04月08日10時22分


 【ロンドン=土佐茂生】1997年にパリで事故死した英国のダイアナ元皇太子妃(当時36)の死因を究明するロンドン高等法院の審問で、陪審員は7日、「過失による交通事故死」とする評決を出した。王室や情報機関による暗殺説がささやかれた元妃の死は約10年を経て、公式の結論にたどり着いた。


 評決では、元妃の運転手が飲酒した上に、法定の2倍もの違法な速度で走行し、それをパパラッチが追いかけたために事故が発生。元妃と同乗の交際相手ドディ・アルファイド氏がシートベルトをしていなかったことも死につながったと結論づけた。陪審員11人のうち9人の多数意見だった。


 ドディ氏の父モハメド氏は、息子と元妃の結婚を阻むため、エリザベス女王の夫フィリップ殿下が対外情報部(MI6)に命令した暗殺と強く主張していた。しかし暗殺説は「証拠不十分」として否定された。


 評決後、元妃の息子ウィリアムとハリーの両王子は評決を支持した。一方、モハメド氏は「英仏の警察の調査は間違いだ。最も大切なのは、事故ではなく殺人ということだ」とコメントした。


 審問は、死因や死亡時期を特定するのが目的。昨年10月から、元妃の友人や執事、MI6の職員ら278人を証人として調べた。英メディアによると、審問にかかった費用は1千万ポンド(約20億円)にも及ぶとされ、「税金の無駄遣いだ」などの批判の声が上がっていた。

 「公式の結論」によると「ダイアナ元妃は事故死」だそうである。しかしもちろん、はいそうですか、で済む問題ではない。記事に書かれていることだけ見ても、単なる事故死と結論づけるにはあまりに不自然なことがある。


 具体的に言うと、「元妃の運転手が飲酒した上に、法定の2倍もの違法な速度で走行し」た、というくだりである。もともと運転手は酔っ払いなどには一番ならない職業であるはずであり(また、当然ながら、そうでなければならない)、その運転手が飲酒した(私の記憶違いでなければ、泥酔していたはずである)、などというのはよほどのことだと言わざるをえない。なぜ運転手は泥酔したのか。自分がこれから死のドライヴに向かうことがわかっていたのであれば、そんなことは正気の人間にできることではないから、深酒をした、というのなら、話は理解できる。さもなければ、どういう説明が可能なのだろうか。そして、もし運転手がそういうことを予めわかっていたのなら、そのこと(指示)がどこから来たかは、改めて言うまでもないだろう。


 この事件に関して思い起こされるもう1つのことは、事故死したダイアナ元妃の遺体が、極めて迅速にフランスからイギリスへと移送されたことである(確か、事件発生から24時間以内ではなかっただろうか)。なぜそこまで急ぐのかと、当時思ったものである。フランスの警察当局によって検死が行なわれたら不都合な事が明らかになる恐れがあるから、それで早く移送したのではないか、と。この疑念に対しても、十分な説明がなされているとは思えない。


 言うまでもないが、ダイアナ元妃とエジプト人富豪(の息子)との間に子どもでも生まれようものなら、英王室の困惑は頂点に達したであろうことは、容易に想像される。これを全くの想像と言って一蹴することはもちろん簡単だろうが、しかしそのような考えを退けたいのなら、少なくとも、以上記した2つの疑念に対しては、十分納得の行く説明があってしかるべきである。それがない以上、疑問が残るのは当然である。


 イギリスはこういう追及を司法制度のもとで行なわせたことを以て、王国としての自らの度量を示したかったのかもしれない。しかし、そういうふうに話はなっていないように思われる。