理性の防波堤としての司法と、ポピュリスト弁護士


 例によって、まず記事の引用から始める。

光・母子殺害、TV発言波紋 弁護団橋下弁護士対決へ
2007年09月06日13時30分


 山口県光市で99年に起きた母子殺害事件の差し戻し控訴審で、元少年(26)の死刑回避を訴える弁護団側と、テレビで弁護団の懲戒処分請求を視聴者に呼びかけた橋下(はしもと)徹(とおる)弁護士(大阪弁護士会)が法廷で全面対決することになった。「業務を妨害された」と訴訟を起こした弁護団側に対し、橋下弁護士は徹底抗戦の構えを見せる。懲戒請求は全国で少なくとも3900件を数え、刑事弁護のあり方が社会現象を引き起こす異常な事態になっている。


 訴訟の火種となったのは、5月27日放送の読売テレビの番組「たかじんのそこまで言って委員会」で語られた発言だ。


 この事件で、殺人、強姦(ごうかん)致死、窃盗の罪に問われている元少年最高裁で現弁護団に代わってから、殺人や強姦致死などの事実を明確に否認。弁護団傷害致死罪との主張を展開している。


 橋下弁護士はこうした被告・弁護側の主張の変遷を疑問視し、「この番組を見ている人が一斉に弁護士会に行って(弁護団の)懲戒請求をかけてくださったら、弁護士会のほうとしても処分を出さないわけにはいかない」と呼びかけたとされる。


 その後、22人の弁護団メンバーへの懲戒処分請求が急増。すべてが発言の影響か定かでないが、今月5日現在、メンバーが所属する東京や大阪、広島などの10弁護士会に少なくとも計3900件の請求が寄せられたことが日本弁護士連合会の集計でわかった。過去最多だった昨年1年間の全国の請求数1367件をすでに大幅に上回っている。


 広島弁護士会所属の弁護士4人は今月3日、事態を放置できないと、橋下弁護士に1人300万円の損害賠償を求めて広島地裁に提訴。反論書面を作ることなどを余儀なくされ、業務を妨害されたと訴えている。


 一方の橋下弁護士は5日、都内で記者会見し、「法律家として責任をもって発言した」と争う方針を明らかにした。


 「弁護団は(被告が)なぜ主張を変更したか、被害者や社会に分かる形で説明していない。刑事弁護人は被告人のためだけに活動すればいいんだというのは、(弁護士法で定める)品位を失う活動にあたる」と主張。懲戒処分請求が殺到したことには「世間は今回の弁護団に怒っている」と語った。自身は懲戒処分請求していないことを問われると「時間と労力がかかる。弁護士である僕というより大多数の国民がどう思うかが非常に重要」と述べた。


 だが、弁護団への「反応」は懲戒請求にとどまらない。訴訟の原告の1人、今枝仁弁護士の事務所には、嫌がらせや脅迫めいた匿名の電話も数十件かかってきている。今枝弁護士は橋下弁護士の発言に「世間の偏見や誤解を助長している。弁護士がそのような活動をするのは問題で、刑事弁護する弁護人が風潮や世間の目を気にして萎縮(いしゅく)することにつながる」と批判している。


    ◇


 〈光市母子殺害事件〉 18歳だった被告(26)が山口県光市のアパートで主婦(当時23)と長女(同11カ月)を殺害したとされる事件で、一審・山口地裁、二審・広島高裁は無期懲役判決を言い渡した。だが、最高裁は昨年6月、「特に酌むべき事情がない限り、死刑を選択するほかない」と二審判決を破棄、広島高裁に差し戻した。5月に始まった差し戻し控訴審弁護団は、元少年の内面の成熟の遅れなどを指摘、死刑回避を求めている。


 この問題に関する本ブログの立場は表題に示したとおりであって、要するに橋下某とかいう弁護士(そのブログはこちら・・・といって、別に宣伝をしてやっているわけではない)はポピュリストであり、およそ弁護士の風上にも置けないようなどうしようもない輩であるというのが私の見方である。こういう輩こそが、弁護士会から除名されて失職するのが相当である。


 なぜか。この問いにどう答えるかは、言うまでもなく、民主主義をどう理解するかにかかっている。民主主義の根本原理は多数決だなどという馬鹿者も世の中には少なくないようだが(その一例を指摘したものとして、本ブログのこちらの記事及びコメント欄を参照)、もちろんそれは誤りである。納得ができること、つまり言い換えれば理に適っていることこそが、民主主義においては極めて重要なのであり、したがって、多数の力で押し切ることは極力回避しなければならない。議会において審議を尽くすべきなのも、司法の場において条理を尽くした審理と、理に適った判決とが求められるのも、挙げてこの点にかかっていると言ってよいだろう。


 特に司法の場では、捜査が正しく行なわれたかどうかについてしかるべく吟味が行なわれなければならない(今、問題の弁護団が試みているのはまさにこのような意味での吟味であり、それ自体には何ら問題はない)のであり、また量刑も、感情論を抜きにして(というのは、現代の刑事裁判では刑罰は応報として課されるのではないのだから)、同様な他の事例と比較考量しつつ、決められるのでなければならない。司法においてはとりわけ理性の意義は大きいと言わなければならないのである。そのような司法の場における、極めてまっとうな手続きを妨げる、今回の懲戒請求アピールは、全く弁護の余地のない、かつ司法の役割を全く理解していない、蛮行だと言わざるをえない。


 橋下弁護士は自分が司法に携わるに全く不適格な者であることを、今回の自らの行動によって余すところなく証明したと言ってよい。速やかに弁護士職を辞するがよかろう。こういう輩は日本の司法の恥だと言ってよい。


 それにつけても、議員の世襲は政治から駆逐されなければならない。


追記(9月18日)
 上記訴訟の弁護団の一人である今枝という弁護士がブログを開設して、弁護団側の主張をまとめて掲載しているようである。備忘のため記しておく。