都知事選情勢調査について

 論評の前に一言。政治に関心が少しでもある人は、どういう候補を支持するのでも、或いは支持すべき候補が全然いなくとも、必ず投票に行くべきだし、行ってほしいものである。支持すべき候補が全然いない場合には、するべきは白票を投じることであり、棄権はその全く逆(誰が選挙で選ばれても、その選ばれた人を支持するということ)を意味するのである。このことをわかっていない人があまりに多いが、本当に今の政治に対して不信感を持っているのなら、白票を投じるのがよい。また、投票日当日が都合が悪ければ、今では簡単に期日前投票が可能である。何よりも、選挙で投票することこそが、今の政治を変えることにつながるということを、多くの人が理解するようになることを希望してやまない。


 ところで、昨日までに新聞各紙の都知事選情勢調査が出揃った。今回はその傾向を見ておきたい。ただ、長くなってしまうので、まず最初に、以下の分析(と言えるような大げさなものではないが)の結論を掲げておくこととする。


<結論>都知事選の当選圏内にあるのは石原現知事か浅野候補の二人に絞られたと言ってまず間違いない。「反石原」を掲げる候補のうち、吉田・黒川両氏が勝つのは極めて困難だろう。支持政党別では、公明党支持層の投票行動がまだ不透明であり、これがどう動くかで選挙の結果が大きく変わる可能性は否定できない。また、もちろん無党派層がどれほど投票所に行き、投票率がどれほど上がるかも大きな注目点の一つだが、但し、無党派層の投票の増加が特定の候補に有利に働くかどうかは全く不透明。


 浅野候補に関して言えば、これまでの各種報道にもかかわらず、未だ知名度が高まっていない点に一つの問題がありはしないだろうか。私が浅野候補の選対なら、「今が都政を変えるチャンス」「都政を変えるなら浅野」と言って、知名度upを図るところだろう(もっとも私は、もちろん実際には、選対などでは全くないのだが)。


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 まず、情勢調査を報じた記事へのリンクは以下のとおり。
 朝日新聞
 読売新聞
 毎日新聞
 毎日新聞(詳報)
 産経新聞
 東京新聞



 まず今回の選挙の投票率について。前回(45%弱)よりは上がることは間違いないと思われるが、果たして60%に達するかどうか。この点に関して例えば東京新聞の調査には

77・3%が都知事選で「必ず投票に行く」と答えており、「なるべく行く」人を加えると92・6%に上った

とあるが、残念ながらこれが実際の投票時にどれくらい目減りするのか、見極めるノウハウを私は持ち合わせていない。



 石原現知事の有利の報はすべての調査で同じである。その表現を見ておくと

 注目の東京は現職の石原慎太郎氏が一歩リード。
 (中略)東京都知事選については3月10、11日を第1回として毎週、情勢調査を実施。4回目の今回は前回(3月24、25日)と比べ、石原氏と前宮城県知事の浅野史郎氏の差は少し縮まった。ただ、石原氏がやや有利な情勢で、浅野氏がそれを追うという図式は変わっていない。<朝日新聞


 知事選のうち注目を集める東京では、現職の石原慎太郎氏がリードし、前宮城県知事の浅野史郎氏が追っている。
 (中略)「石原都政」の是非が最大の争点となっている東京では、自民、公明両党が事実上、支援する石原氏と、民主、社民両党の実質的な支援を受ける浅野氏が、その他の候補に大きく差をつけている。<読売新聞>


 注目の東京都で石原慎太郎氏(74)が優勢に立つなど、現職候補が堅調な戦いを展開。<毎日新聞


 東京都知事選・・・は3選を目指す現職の石原慎太郎氏(74)が優勢で、元宮城県知事の浅野史郎氏(59)が追う展開となっている。<産経新聞


 三選を目指す無所属で現職の石原慎太郎氏(74)が選挙戦を有利に進めてリードを保ち、無所属で前宮城県知事の浅野史郎氏(59)が追う展開。
 (中略)吉田氏と黒川氏は各世代で伸び悩んでいる。<東京新聞

ここで注目すべきは、東京新聞の記事のうち最後に引用した部分である。すなわち、(ドクター・中松桜金造は言うに及ばず)吉田・黒川両氏は伸び悩んでいるということである。同様なことは、インターネット上では出てきていないが、朝日新聞の紙面での分析詳報の中でも語られていたし、上の読売新聞の記事の「その他の候補に大きく差をつけている」という箇所も同趣旨と考えられる。反石原という立場で投票を考えている人々は、もし石原都知事以外の候補を本当に当選させたいと考えているのであれば、熟考すべきではないだろうか。そのことを、この調査結果は強く示唆しているように思われる。



 次に、支持政党別など各種階層と今回の都知事選における支持との関係について。

 自民、公明両党の支援を受ける石原氏は自民支持層の8割、無党派層の5割と、ともに前回並みの支持を維持している。民主、社民から支援される浅野氏は民主支持層からの支持は7割で、無党派層での支持は3割にとどまる。<朝日新聞


 「石原都政」の是非が最大の争点となっている東京では、自民、公明両党が事実上、支援する石原氏と、民主、社民両党の実質的な支援を受ける浅野氏が、その他の候補に大きく差をつけている。石原氏は自民、公明支持層に浸透し、浅野氏は無党派層の支持で石原氏に迫っている。<読売新聞>


 東京都知事選は、与党の実質支援を受ける石原氏が自民支持層、公明支持層の8割を固めたほか、無党派層の4割、民主支持層の4分の1にも食い込んでいる。03年の前回知事選で石原氏に投票したと回答した層は、7割が今回も投票するとしており、石原氏が安定した支持を得ていることが浮かんだ。
 前宮城県知事の浅野史郎氏(59)は民主、社民両党から実質支援を受けるが、それぞれの支持層の半数程度しかまとめ切れていない。無党派層の支持も2割にとどまる。<毎日新聞


 自民、公明両党が実質的に支援する石原氏は自民支持層の約6割、公明支持層の4割以上を固めた。民主、社民両党の事実上の支援を受ける浅野氏は民主支持層の4割以上から支持を得ているものの、社民支持層では3割弱にとどまり、無党派層の支持でも石原氏にリードを許している。<産経新聞


 告示前の三月十六−十八日に実施した前回調査と比べ、石原、浅野両氏の差は拡大している。
 今回の調査では、両氏の差は、女性の方が大きく開いた。また、石原氏は各年代からまんべんなく支持を集め、特に六十代と七十代に強さを見せている。これに対し浅野氏は、四十代から六十代にかけて一定の支持を取り付けているが、二十代への浸透はいま一歩。吉田氏と黒川氏は各世代で伸び悩んでいる。<東京新聞

 この報道から読み取れることは少なくない。まず第一に、無党派層からの支持の広がりでは、浅野氏でなくむしろ石原氏の方がリードしているということである。数年前であればこれは驚きとともに迎えられることだったかもしれないが、2005年の総選挙で無党派層が特に大都市圏でなだれを打って小泉自民党支持に回ったことを思えば、さほど驚くべきことではない。


 ただ、浅野氏の場合、無党派層からの支持の低さとの関連で、未だ知名度不足がありはしないだろうかと思われる。これは例えば、都知事選びとの関連で「実行力」を重視する人々の7割が石原氏を支持しているという朝日新聞の記事(後で引用)に現れているように思われる。行政の情報公開の徹底という、東京マラソン実施や思いつきの銀行新設などよりも遥かに困難なことを浅野氏が実行してきたにもかかわらず、そのことが正当に評価されていないのである。


 知名度不足は、「石原、浅野両氏の差は・・・女性の方が大きく開いた」(東京新聞)という記事にも現れているように思われている。以前の記事でも書いたように、石原氏の「ババア発言」には、本来女性がこぞって反対して良さそうなはずだが、どうもそうはなっていない。自分は「ババア」ではない、自分には関係ないと思っている人が少なくないからだろうが、それだけでなく、浅野氏がこのほど出したマニフェストの中で

【すぐにやります】
 政策1 副知事に女性を登用します」
【2年以内にやります】
 政策6 女性の(正規)雇用を積極的に行う企業を「労働環境向上モデル企業」に認定し、減税や奨励金などによる支援制度を創設します
(このほかに、女性起業家への支援という話もあったと思う)

と言っていることが浸透していないという事情も関係しているのではあるまいか。もちろん、こういう話は街頭演説で言ってもそう伝わるものではないのだが。


 上記報道から読み取れる第二のことは、浅野候補は支援政党たる民主党社民党の支持層をまとめきれていないということである。これについては、何をかいわんやである。もし両党が本当に自分の政党の存亡について危機感を持っているなら、こんなことはあってはならないし、あるはずもないのだから。特に民主党は、今回の参議院選挙で勝てなければ解党の危機に直面する可能性が高いと思われるが、その前哨戦である今回の地方選挙、特に注目度の高い都知事選で惨敗となったなら、死に体の安部政権を復活させてしまいかねず、参議院選挙に向かう戦いを極めて不利にする可能性が大きい。しかし、これは民主党社民党の問題であって、本ブログの問題ではない。


 上記報道から読み取れる第三のことは、石原候補を支持する人々、特に与党支持の人々の中で、自民党支持層と公明党支持層の行動はどうも同様でないのではないか、ということである。これに関しては、毎日新聞の記事に「与党の実質支援を受ける石原氏が自民支持層、公明支持層の8割を固めた」という、本ブログの分析と矛盾する記述があるが、しかしこの報道は産経新聞の記事の「自民、公明両党が実質的に支援する石原氏は自民支持層の約6割、公明支持層の4割以上を固めた」という記述と矛盾している。


 加えて、知る人ぞ知ることだろうが、石原候補は霊友会という宗教団体に非常に近しく、(未確認情報だが)今回の選挙のポスター貼りにはそちらの方面の人々が動員されたという話もある。創価学会が今回の選挙については表立って動かず静観しているという話には、相当の真実味があるように思われる。調査回数・調査方法から見て情勢調査で最も信頼できる朝日新聞の記事が「自民、公明両党の支援を受ける石原氏は自民支持層の8割、無党派層の5割と、ともに前回並みの支持を維持している」と書き、公明支持層の支持割合について沈黙しているところも意味深長ではある。


 最後に、選挙の論点(と有権者が考えるところのもの)と支持との関係について、記事を見ておくと

 投票先を選ぶ基準として「実行力」を挙げた人(全体の37%)では7割が石原氏を支持し、一貫して支持が集まる。一方、「政策や公約」を挙げる人(全体の41%)は石原氏と浅野氏がともに4割前後の状態が続く。<朝日新聞


 石原氏はディーゼル車規制など国に先駆けた政策を打ち出す一方、都文化事業への四男登用などで強い批判を浴びた。しかし、有権者の多くは実績の方を評価していることが浮かんだ形。<毎日新聞(詳報)>


 有権者が最大の争点と考えているのは「少子高齢化・福祉」で31.4%。「政治手法」(13.0%)、「五輪招致問題」(12.9%)が続き、こうした争点を重視する有権者は石原氏を支持する傾向が強い。ただ、東京五輪招致に賛成する人は29.5%にとどまり、「政治とカネ」「情報公開」を重視する有権者の間では、浅野氏への支持が石原氏を上回っている。<産経新聞


 都知事を選ぶ際に決め手となる政策を複数回答で聞いたところ、70・6%が「福祉、少子高齢化対策への取り組み」を挙げ、以下「教育」(63・5%)「環境」(61・5%)「治安・防災」(61・4%)の順。「五輪招致の是非」は33・1%にとどまった。
 今回の都知事選で争点に急浮上した築地市場中央区)の江東区豊洲地区への移転問題では、「移転に賛成」「どちらかといえば賛成」が計26・8%。「反対」「どちらかといえば反対」は計49・6%で、反対が賛成を大きく上回った。賛成派の五割以上は石原氏を支持。反対派では石原氏と浅野氏の支持が拮抗(きっこう)している。<東京新聞

 この中で最も奇怪なのは、「「少子高齢化・福祉」で31.4%。「政治手法」(13.0%)、「五輪招致問題」(12.9%)が続き、こうした争点を重視する有権者は石原氏を支持する傾向が強い」という産経新聞の報道である。「少子高齢化・福祉」の問題に関心を寄せる有権者が石原候補を支持するとは、正気では考えがたいからである。「こうした争点」という曖昧な言い方にごまかしが含まれている可能性は、否定できない。


 「実行力」の問題については既に上で触れたとおりである。浅野陣営は、浅野氏の実行力を少しでも正しく認識させることができるかどうかが、重要なポイントの一つになるように思われる。


 とりあえず以上としておく。